第195話 逐日⑤
何日か過ぎ、春の陽気が心地よくなってきている。
僕やエルーザの“教育係たち”は城内で生活するようになった。
お城の近辺では、ビールやワインに調味料それぞれの[工場]であったり、[飲食店]が、幾つか建設されだしている。
あと、“ラドン竜王陛下”も、自身の都で酒造などをスタートさせたそうだ。
こうしたある午前、僕らの城へ[二両のユニコーン車]が訪れたらしい。
南方領の一部を任せている“スーザン・チルシー女伯爵”と、“数人のお伴”なのだとか。
“お城の守兵”によれば[玉座の間]に通したとのことだった…。
▽
僕と“リーシア姉上”に、“各お世話係”や“マンティコアのラバス”が、足を運んでいる。
“妹のエルーザ”は、お庭で鍛錬中だ。
さておき。
女伯爵一同は跪いている。
そうしたなか、
「これに控えるは、ラダン様に退位を勧めた者でございます。」
このように女伯爵が報せた。
「捜し出せたのね?!」
どこか嬉々となされた姉上に、「はッ」と頷いた女伯爵が、
「自己紹介いたせ。」
右斜め後ろの男性を促す。
歳は20代前半みたいで、
「“アベル・バディジョ”と申します。」
そう名乗った男性を、
「何故、兄上を説得したの??」
「最悪の場合、あなたは殺されたかもしれないというのに。」
姉上が窺われる。
「それは、自分が“近衛衆の末裔”だからでございます。」
こう答えた男性に、
「ん?」
「ラダーム様の??」
僕は目を丸くする。
まぁ、この国にも存在していておかしくはないのだけど。
……、いずれにせよ。
「はい。」
肯定した“バディジョ”が、
「〝自分の先祖のためにも、謀反なされたラダン様を、お諫めせねば〟と思ったら、後先など考えず行動しておりました。」
そのように語った。
「成程ね。」
姉上が理解を示されたところで、
「ちなみに、爵位や領地は持っているのかしら?」
こう訊かれると、
「いいえ、ございません。」
バディジョが首を横に振る。
それによって、
「陛下。」
「例の件、問題ないかと。」
姉上が僕に述べられた。
この流れで、
「恩賞として、そなたに爵位と領地を与える。」
「後日、任命書などを送る故、受け取るがよい。」
そう僕が告げたら、バディジョが〝え??〟と驚いてフリーズする。
けれども、
「陛下と殿下に感謝せよ。」
女伯爵に声をかけられたところ、〝ハッ〟として、
「ありがたき幸せにございます。」
お辞儀した。
ここから、皆を立たせてあげた僕は、女伯爵と軽めの雑談を交わす。
なんでも、赴いたときは、都の外、[南門]あたりに、【テレポート】したらしい。
その後、都に入って[ユニコーン車]を手配し、二日半ほどで到着したのだとか。
帰りは、お城から直に【瞬間移動】するのを許す僕だった…。
▽
PN14:00頃。
城内の[1階エントランス]に、天空人族の“ロザーラ=サヴォワ女王”と“ルレア=ルクー大公”が、数名の配下と、【テレポーテーション】してきたそうだ。
こちらに関しては予め承諾している。
おさらいとして、大公は“アンヌの祖母”だ。
女王は、[同盟]の内容について確認するため、来訪したらしい。
その書類を“ルレア大公”が作成する事になったので、一緒に渡ってきたのだと。
人間の男性である“クレイ・エドガー外務大臣”を呼ぶよう、城兵に伝達させた僕は、[第一客間]へと向かう……。
▽
アンヌが来ていなかったことは、いくら残念だった。
ま、なんにせよ。
姉上もお越しになられたので、僕たちはいろいろと話し合っていく―。




