第18話 初めての島にて・転
一階のエントランスで、
「そなたらは、先に、“ダイワの第二王子殿下”がお越しになられている件を、主様に知らせてくれ。」
例の紳士が、2人の侍女を促す。
「かしこまりました。」
揃ってお辞儀した侍女たちが、足早に階段を上っていく。
「では、私ども参りましょう。」
こう声をかけてきた執事によって、大公のもとに案内してもらう僕らだった……。
▽
[執務室]にて。
立った状態で待ってくれていた60代前半らしき男性が、
「お初にお目にかかります、殿下。」
「自分は、現当主の“ルシム=イズモ”にございます。」
僕に対して会釈する。
“オールバックにしている髪”と“鼻髭”は白く、ややガタイがいい。
頭を上げた[タケハヤの島長]は、
「して?」
「〝ライザー陛下の指示〟とのことですが??」
僕達を窺った。
「左様で。」
「詳しくは、陛下より預かってきた手紙をご覧ください。」
“魔術師のレオディン”が出した封筒を、受け取った執事が、大公へと運ぶ。
“白い封”は[金のシーリングスタンプ]で閉じられている。
それは、[国王の印璽]だった。
いつだったか“細長眼鏡のマリー”が教えてくれた話しによれば、シーリングスタンプは〝一般的には赤い蝋を溶かしたものが多い〟そうだ。
ちなみに、[イズモ王家の紋章]は“太陽”と“月”に“雷”が合わさったかのようなデザインとなっている。
さて…。
封筒の上部を[ペーパーナイフ]で切ったルシム大公が、中に収めてあった手紙を出して広げた。
これを黙読していく大公が途中で、
「ほぉう。」
「生まれつき“攻撃系の神法”を備えていらっしゃ……。」
「は?!!」
「〝神剣ムラクモを抜いた〟ですとおぉ~ッ!??」
目を丸くする。
この様子に、
「ま、そういう反応になるよね―。」
「ラルーシファ王子には、ボクらも驚かされたしぃ。」
“ハーフエルフのリィバ”が〝うん うん〟と頷く。
〝うぅ~む〟と唸ったルシム大公は、改めて内容をチェックしていき…、
「成程。」
「それらが原因で、ラルーシファ殿下は、お命を狙われるようになったと。」
「しかも、二度に亘って。」
「……、手紙には〝同行させた護衛と共に、そちらで暫く住まわせてあげてほしい〟〝息子のことを、くれぐれも頼む〟と綴られております。」
再び僕の方を見た。
そうした流れで、“手紙”と“封筒”を[アンティークテーブル]に置いて、
「初代ラダーム陛下の遺言もございますし…。」
「謹んでお受けいたしましょう。」
丁重に跪く。
更には、大公の傍で待機していた執事も、これに続いた。
「あぁ、はい。」
「よろしくお願いします。」
そのように返したところ、右斜め後ろに控えていたマリーが、急ぎ、僕の耳元で伝えてくる。
マリーに習って、
「大儀である。」
僕が言い直したら、
「はッ!!」
力強く応じるルシム大公だった。
「ところで……。」
立ち上がった大公が、
「殿下は“解読”という特殊スキルも持ち合わせておられるとか?」
何気に質問してくる。
「そうですけど??」
軽く首を傾げた僕に、
「だとすれば…。」
本棚に向かったルシム大公が一冊の書物を手にして、
「これは、初代陛下が隠居生活を送られていた際に記されたものだそうです。」
「誰にも読めない文字のため、先祖の頃より諦めておりましたが、〝ラルーシファ殿下の能力であればもしかして〟と、ふと思いましたのでな。」
「……、なんでも、初代陛下は、〝ムラクモの扱い方についても書き残された〟と口伝されてきましたもので。」
そう説明してくれた。
これに、
「おぉおッ?!」
レオディンや、
「ホントに??」
リィバと、
「スッゲェ助かる!!」
“片目のベルーグ”が、ほぼ同時にくいつく。
「う、うむ?」
若干ひいた大公に、レオディンが〝こほんッ!〟と咳払いして、
「いや、かねてより聞き及んでいた“閃光”とやらを、どうにも放てずにいたようでしてな…。」
そのように述べる。
〝あぁー〟と理解したらしいルシム大公が、
「ならば、殿下に確認していただきましょう。」
「そちらにお掛けください。」
僕を椅子へと導く……。
薄めの本を捲ってみたところ、“縦書き”になっていた。
こちらの世界は“横書き”なので、かなり珍しい。
というか、初めてだ。
しかも、[日本語]に間違いなさそうだった。
けれど、“旧字体”が使われており、全体的に崩して書かれているので、意味不明だ。
そのため、僕は、【特殊スキル】を発動した…。
独り読み進めながら、
「…………、あッ、やっぱり!!」
「……、んー、…………、へぇー。」
といった具合に呟いていたところ、
「なんです??」
「なんと書いてあるんですか?」
リィバが〝ソワソワ〟しだす。
「あ、ごめん。」
「ちょっと待って。」
「“ムラクモ”に関して記述されているかもしれないとこまで飛ばしてみるよ。」
こう喋った僕は、
「この本って貸してもらえます??」
大公に質問してみる。
「いえ、差し上げますぞ。」
「どうせ我々に読むのは不可能ですので。」
「それに…。」
「この館へと殿下が赴かれたのは、初代ラダーム陛下のお招きによるものかもしれませんしな。」
「だとするならば、ラルーシファ殿下が所有なさってこそ、初代陛下もお喜びになられることでしょう。」
「あと……。」
「我らに敬語は無用ですぞ。」
「王家の方が立場は上ですからな。」
笑顔で告げるルシム大公だった―。




