第175話 打開案②
次の日の朝。
[ベッド]にて、ふと目を覚ました僕は、仰向けのまま〝ん~ッ〟と伸びをしてから、上体を起こす。
なんとなく“マンティコアのラバス”の[寝床]に視線を送ってみると、姿がなかった。
(トイレかな?)
そう思ったところで、誰かが部屋の扉をノックする。
…………。
ドアを開けてみたら、ユーンを先頭に“お世話係の獣人5名”が佇んでいた。
「どうしたの??」
首を傾げた僕に、
「内通者であろう男を、ラバスが取り押さえました。」
「数人の城兵が捕縛しましたが…、如何いたしましょう?」
「ラルーシファ様が尋問なされますか??」
このようにユーンが喋る。
「あー、うん。」
「それがいい、のかな?」
「ちなみに、今どこにいるの??」
そう訊いてみたところ、
「外です。」
「城兵たちも何処に連行すべきか悩んでいたので、捕まえた場所で待機しています。」
とのことだった。
「そっか。」
「……。」
少し考えて、
「じゃぁ、大執務室にしてもらおうかな。」
「僕は着替えた後で向かうよ。」
「それと、姉上にも知らせてもらいたいんだけど、頼める?」
こう伝えた僕に、
「かしこまりました。」
ユーン達が深々と頭を下げる……。
▽
[大執務室]には、三つの椅子が用意されていた。
それらに“僕/リーシア姉上/妹のエルーザ”が腰掛ける。
エルーザはまだ眠たかったらしく、僕の右隣に座るなり、天井を仰ぎつつクチを開けて爆睡しだした。
さておき…。
この場には、僕や姉に妹の“各お世話係”と、“王宮魔術師統括責任者のレオディン”に、男女4名の兵士たちがいる。
他に“家令のダント/給仕長のアリアル/ラバス”も。
そうしたなかで、30代前半あたりの男性が、上半身を麻縄でグルグル巻きにされた状態にて、両膝を床に着かされていた。
“オールバック風の天然パーマ”や“眉”はゴールドブラウンで、“瞳”は青い。
日本であれば“ソース顔”と呼ばれるであろう印象だ。
余談になるかもしれないけれど、“ハーフエルフのリィバ/片目のベルーグ将軍/細長眼鏡のマリー副将軍&母親のメイラ”は自宅に帰っている。
今後はお城で生活してもらう運びになったので、荷物を整理するために。
ただ、朝食までには一旦こちらに戻ってくるらしい。
[ダイワ王城]の料理人達も、地球の調理法を会得しているのが理由だ。
要は〝あれらの味を覚えた結果、舌が肥えてしまい、他の飲食物を受け付けなくなっている〟ので。
あと、リィバは、お城から割と離れた所に家があるため、【瞬間移動】での往来を特別に許可してあげている。
……、本題に戻ろう。
まず、時間帯からして、給仕たちが手分けして敷地内を清掃していた。
こうしたところ、〝庭のなかでも普段は人通りが殆どない〟という範囲から雄叫びが聞こえてきたらしい。
何名かの兵士が急ぎ向かってみたら、うつ伏せになっている男性給仕の背中を“右の前足”で踏んでいるラバスが威嚇の唸りを上げていたそうだ。
そういった説明の流れで、30代後半ぐらいの男性兵士が跪き、
「陛下、こちらを。」
[小さめの紙]を差し出してくる。
「そこの男を調べたところ、ポケットに入っていました。」
「暗号みたいですが、我々には全くもって分かりません。」
「おそらくは伝書鳩などで届けられたのでしょう。」
「ソヤツが口を割らないため、拷問しようかと考えておりました。」
このように報告した兵から、僕は紙を手にした。
そうした最中に、
「つまり、〝ラバスは、偶然にも密書の受け渡しみたいなのを目撃して、怪しかったので押さえ付けた〟という事かしら??」
姉上が窺われたところ、僕の従魔が〝ガウッ〟と頷いて肯定する。
いずれにせよ。
紙には…、
リレースヘァカエンサワソナハスジガケダッチ
デクロバタハスミウヤ
ダロデヤウウハデツキウエツヌドケユケンナルヌケレベス
こう記されていた。
僕の左隣から覗き込まれた姉上が、
「……、確かに、意味不明ね。」
眉間に軽くシワを寄せられる。
僕も困っていると、
「陛下の“解読”を使えばどうにかなるのではありませんかな?」
そのようにレオディンが閃く。
「可能性はあるかも…。」
こう判断して、
「試しにやってみよう。」
【スキル】を発動する僕だった―。




