第174話 漸進⑦
翌日。
朝食を済ませた小一時間後に、兄上用の[棺]が届いた。
“王宮魔術師統括責任者のバルリック・マハーナ”によれば、「既製品のなかで最も豪華な物を選び、職人達に更なる装飾を施させました」との事だ。
とにもかくにも。
数名の大人によって、 “ハーフエルフのリィバ”の【アイテムボックス】から棺へと、ラダン兄上の遺体が移されたらしい。
その報せを受け、
「お昼前までには葬礼を執り行なうわよ。」
「主だった者は、すぐに準備なさい。」
「それから、教役者を呼ぶように。」
「あと、棺は、私の亜空間に収納しておくわ。」
“リーシア姉上”が指示なされる。
補足として、[ダイワ]では“武神 カティーア様”を崇めている人が多い。
王家を筆頭に、〝神剣を初代ラダーム様に授けてくださったから〟との理由で。
名称は“ヴィトロー教”だ。
ヴィトローは、こちらの世界で“勝利”と“栄光”を組み合わせた造語らしい。
なお、“万人祭司”というのを用いている。
それは〝信仰者は等しく司祭職に参与する〟というものだ。
このため、他の宗教とは違って序列が無い。
つまり、教皇や枢機卿などの[聖職]を用いていないのだ。
代わりに、牧師みたいなイメージの[教役者]が存在している…。
▽
およそ30分が経った。
お城から特に近い[教会]より、小柄かつ華奢で品のある60歳ぐらいの女性が訪れている。
教役者だ。
そこから、既に喪服に着替えていた僕たちは、マハーナによって[王家の墓]に【テレポート】した……。
▽
やや曇りのなか、滞りなく葬儀を終えて、お城に戻ってきている。
“家令のハウラー・ダント”から料金を貰った教役者は、帰ったみたいだ。
こうしたところで、跪いたマハーナが、
「今この時をもちまして、王宮魔術師統括責任の役を“レオディン・セル―ロ”に譲らせていただきます。」
そのように述べた。
小声で、
「陛下。」
姉上に促され、
「あー、……、長きに亘る王家への勤めと忠誠に、心より感謝する。」
「大儀であった。」
こう伝えた僕に、
「有難き幸せにございます。」
マハーナが深々と頭を下げる…。
▽
夕方になる頃、小雨が降りだした。
そうしたなか、30歳くらいの男性が王城に現れたらしい。
[玉座の間]で片膝を着いて待っていた彼は、兄上の“密偵”だった。
基本的には兵士だけど、スパイ活動が上手い何名かのうちの1人とのことだ。
さておき。
“マンティコアのラバス”に少なからず怖がりつつ、
「拝顔の栄に浴します。」
「経緯は、城兵の知人から説明を受けました。」
「本来はラダン様に御報告する予定だったのですが……、陛下がたにお聞かせしてもよろしいでしょうか??」
このように窺ってきた。
ちなみに、場には“姉上/エルーザ/僕の教育係&お世話係/妹の教育係”も居る。
そうした状況で、
「うん、構わない。」
玉座に腰かけている僕が促す…。
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この男性は、中央領の北区域を調べていたそうだ。
そこは“中立派の貴族”の領地であるものの、実際は〝ライニル叔父上と繋がっていた〟らしい。
ここに、軍勢を率いたライニル叔父上が駐屯した。
他の派閥を、交渉で傘下に加えるなり、戦で制圧するために。
けれど、すぐに撤退したとの事だ。
そこで、更に調査を進めてみたところ、ライニル叔父上の[北方領]へと、[西方]の“ラグール叔父上”が攻め込んだらしい。
このため、慌てたライニル叔父上は、そこへ急ぎ向かったのだとか。
おさらいとして、ラグール叔父上が次男で、ライニル叔父上が三男だ……。
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「ラグール叔父上の動きが早いわね。」
「前々から西方領をまとめあげていないと難しいんじゃないかしら?」
「反対勢力に邪魔されて。」
首を傾げられた姉上に、
「〝ラダン殿下の謀反などを予め知っておられた〟ということですかな??」
レオディンが質問した。
「んー、その可能性は否めないわね。」
「何が目的なのかまでは分からないけれど。」
「だって、自分が国王になりたいのであれば、こちらに向かって来る筈だから。」
そう答えて、
「ま、なんにしたところで、ラルく…、陛下が書状を認められては如何でしょう?」
「こちらの現状を記す流れで〝恭順の意を示しに赴くべし〟みたいな感じの内容を。」
僕に勧めた姉上が、
「あなた、ラグール叔父上がどの辺りにおられるのか、見当は付くかしら??」
こう密偵に訊ねられる。
「はい、お任せを。」
“密偵役の男性”が会釈した事で、[手紙]を書く運びとなる僕だった―。




