第172話 来訪⑥
「取り敢えず、私が伝えたかった事は済んだから、気楽に歓談しましょう。」
そう告げられた“リーシア姉上”が、
「例の物を。」
“お世話係達”を促す。
これによって、[ドーナツ]が配膳されていった…。
行き届いたところで、何名かが〝ビクンッ!〟と反応する。
ある女性と少女が【瞬間移動】してきたのが原因だ。
「何者?!!」
姉上を始めとして、面識がないヒトの殆どが、急ぎ立ち上がって身構えた。
けれど、やはり起立した“ラドン竜王陛下”などが、深々と頭を下げたので、〝え??〟と困惑しだす。
そうしたなか、
「お久しぶりですね。」
挨拶した僕を、
「ラル君、知り合い?」
姉上が窺われる。
「ラダーム様にムラクモを授けてくださった“武神カティーア様”と、孫君にあたられる“闇ノ神カッティ様”です。」
このように教えたところ、初見の多くが〝は??!〟と驚いた。
「嘘……。」
疑い掛けた姉上は、お辞儀しているメンバーを目視なさって、
「じゃなさそうね。」
信じることになされたらしい。
そして、
「失礼いたしました。」
上品に跪き、
「私は、“リーシア=イズモ”です。」
「ラルーシファ王陛下の姉にございます。」
自己紹介なされる。
これに、臨戦態勢になっていた者たちが倣う。
〝ふむ〟と頷かれたカティーア様が、
「皆、ラクにせよ。」
そう勧められた。
ちなみに、“エルーザ”だけは座ったままだ。
こうした妹は、カッティ様と〝じぃ――っ〟と見合っている。
それぞれが姿勢を戻すなか、〝ピョン!!〟と椅子から飛び降りたエルーザが、神様がたに〝スタスタスタスタ〟と歩きだす。
すると、カッティ様が、エルーザに向かいだされた…。
至近距離で止まった2名は、お互いから目を離そうとしない。
この状況に、誰もが〝ん?〟と首を傾げて不思議がる。
妹がトラブルを起こしやしないかと焦った僕が、
「ちょ、エルーザ。」
声をかけるなり、2名は〝ガシッ!〟と握手して、微笑んだ。
「え??」
僕が戸惑うなか、
「どうやら分かり合ったみたいですね。」
そのように結論づける“ハーフエルフのリィバ”だった……。
▽
二柱の神々にも[席]と[飲み物]に[ドーナツ]が用意される。
なお、カッティ様は、エルーザの隣に座られた。
こうした2名が、同時にクチへドーナツを運んだところ、揃って目を細めつつ〝んっふぅ~♪〟と幸せそうにする。
その周囲だけ、いくつもの花が咲いたかのようだ。
あくまで僕のイメージだけど…。
さておき。
カティーア様が、
「イズモ王家にとっては辛く悲しい事態になってしまったな。」
「だがしかし。」
「時空神の話しでは、もともとの歴史の流れで命を落としていたのはラルーシファ達のほうだ。」
「地球の料理を提供する店舗や、鍛錬と実戦を重ねた結果、未来が変わった。」
こう述べられた。
「はぁ、ですが、大規模な戦闘はなかったので、これといった実感はありません。」
僕が返したところ、
「ま、そうであろうな。」
「とは言え。」
「“チキュウビストロ”のおかげで、竜王であるラドンとの繋がりが出来た。」
「それに、初めの頃はムラクモの“閃光”を1回使っただけで神力切れを起して、具合を悪くし、倒れていたそなたが、持ち堪えられるようになったではないか。」
「よって、殆ど戦わずして勝てたのだ。」
そうカティーア様が説明してくださる。
「……、あー、成程です。」
理解を示した僕が、
「まぁ、何はともあれ。」
「これから先、いろんなヒトたちと仲良く平和に過ごしていければ、と思います。」
このように喋ったら、
「残念だが、安寧の日々とはならない。」
「〝今後も災難が降り掛かる〟とのことだ。」
「時空神によれば、な。」
そう御報せになられるカティーア様だった―。




