第168話 談論②
“リーシア姉上”と“妹のエルーザ”が泣き止んだところで、僕らは靴を履き直す。
ちなみに、姉妹ともども瞼が腫れていた。
こうしたなか、僕達は部屋の外に向かう。
後ろからは“マンティコアのラバス”が付いて来る…。
廊下に出ると、1人の女性給仕がお辞儀した状態で立っていた。
両手で[大きめの封筒]を握っている。
姉上が、
「……、アリアルね。」
「顔を上げなさい。」
そのように促される。
「失礼します。」
こう従ったのは、50代前半の[給仕長]だ。
名前を“ベサニー・アリアル”という。
その給仕長が、
「これを、ラダン様よりお預かりしておりました。」
[封筒]を差しだしてくる。
中には何枚かの書類が収められていた。
僕が引っ張り出してみたところ、一緒に入れられていた[小さめの封筒]が落ちる。
〝ん?〟と首を傾げたら、
「そちらは御両親からお三方へのお手紙だそうです。」
アリアル給仕長が教えてくれた。
これを拾ったタイミングで、
「私は業務に戻らせていただきます。」
一礼した給仕長が、回れ右して、去ってゆく。
おそらく気を使ってくれたのだろう。
姉上とエルーザの視線を感じた僕は、封を開け、広げた手紙を読んでいく。
結果…、また姉妹揃って泣いてしまった。
プライバシーのため内容については僕たちだけの秘密にさせてほしい。
ただ、父上と母上の愛情が痛いほどに伝わってきた……。
▽
[広間]に戻った僕らを、皆が迎えてくれる。
僕達より先に足を運んでいたらしい。
着席したところで、
「それはなんです??」
“ルファザ侯爵”が質問してきた。
「兄上が遺しておいてくださった書類です。」
「この王都で、僕を支持してくれていた人々や、国王派に、本当の中立者を、始末する方向で動いた者たちの名前と肩書が記されています。」
そのように伝えたら、
「ふむ?」
「つまり、〝粛清せよ〟と??」
“ルシム大公”が確認してくる。
「そうみたい。」
「で。」
「説明文によれば、兄上は僕の派閥のヒトなどを国外追放にする予定だったのに、幹部が勝手に命を奪った、と。」
こう知らせたところ、
「兄上自身は、反対勢力を死なせた件は相当に不本意だったらしく、関わった者達を取り敢えず謹慎処分になさったそうよ。」
姉上が続かれた。
それによって、“僕とエルーザの祖父”が、
「では、これより捕縛しますか?」
「だいぶ雨も弱まってきましたし。」
このように述べる。
ふと窓に視線を送ってみると、雲の切れ間から太陽の光が差し込んでいた。
雨は小振りだけれども…。
「そうですね。」
「後は無期限での投獄にでもし「ダメよ、それじゃ。」
僕を遮られた姉上が、
「兄上によれば、連中は、ラルく、ラルーシファ陛下の支持者や国王派に中立派の当事者たちだけでなく、その家族までも殺害している。」
「これは命をもって償わせなければ、彼ら彼女らが浮かばれないわ。」
「それに、甘めの処罰で済ませてしまったら、悲しんでいるに違いない親戚や友人に恋人などを納得させられないでしょう。」
「故人と生人、どちらの怨みも晴らしてあげないと。」
「これらの理由で、早々に死刑を執行すべきよ。」
そう主張なされる。
「ですが。」
異議を唱えかけた僕ではあったけど、
(あー、そっか。)
(ここは日本じゃないし、前世での考え方が何もかも通用するわけがないんだった。)
すぐに思い直す。
しかしながら、抵抗感を拭えない僕は、賛成することもできず、黙ってしまう。
こうしたところ、
「……、陛下。」
真剣な目つきの姉上が、
「国内でこちらに敵対している全勢力への警告に繋がります。」
「それと、陛下の体制に疑問を抱いた人々が反旗を翻すのを未然に防げるでしょう。」
「なかには、〝まだ子供だから〟といって、舐めて掛かる者もいるはずですから…。」
「強気で臨まねば内戦が悪化しかねません。」
そのように仰せになられる。
こうした意見を受け、長めに〝ふぅ――〟と息を吐き、
「分かりました。」
「了承します。」
そう決断する僕だった―。




