第161話 進退⑤
相談の結果、“パップ・モナイ伯爵”は、地位を剥奪し、領地や住まいを没収して、家族ともども牢屋に入れることになった。
その後任に選ばれたのは“スーザン・チルシー女子爵”だ。
これからは、[女伯爵]になって、治めていってもらう。
そうした[勅書]を作成し、外に出る僕たちだった…。
▽
全て言い渡したところで、第三陣の殆どを解散させる。
今回、残らせたのは、モナイ元伯爵が自身の町から連れて来た400数のうち100程だ。
これらの兵と、スーザン女伯爵&配下の5名が、【テレポート】した。
元伯爵の[邸宅]を押さえ、モナイファミリーを捕らえるために。
そこから、元伯爵と家族達を牢屋に送る手筈となっていた。
なお、勅書は、スーザン女伯爵に持たせてある。
むこうで無駄な抵抗をする者がいないよう。
縄で縛られた元伯爵を人質として同行させているので、可能性は低いだろうけれど。
……、暫くして、女伯爵&部下5人のみが帰ってきた。
滞りなく済んだとの事だ。
数分後、昼食となる…。
▽
小一時間が経ち、“僕/リーシア姉上/ルシム大公/ルファザ侯爵/僕の教育係&お世話係/エルーザの教育係”が[天幕内]で軍議を開く。
この場に“妹のエルーザ”と“マンティコアのラバス”も居るけど、ま、それはおいといて……。
姉上が、
「最悪は、ラダン兄上が、ライニルに敗れ、処刑されたうえ、真実を改竄されてしまうことよ。」
「まぁ、もう既に全責任をラダン兄上に押し付けようとしているけれど。」
「それと、ラグール叔父上の動きも気になるわ。」
「なので、それらに先んじて、お城を制圧すべきだと思うの。」
「今すぐにでも瞬間移動で渡って。」
「こちらが勝利を掴んだなら、ラル君が正統な王である事や、ライニルの件を、報せ広めましょう。」
「それによって、反対勢力を牽制したり封じ込められるんじゃないかしら?」
「一刻も早く内戦を終わらせるには、きっとこれが最善よ。」
こう主張なされた。
「ですが、あちらはラダン殿下によって守りを固められているのでは??」
「ライニル公なども兵を率いて王城に瞬間移動するのは可能なので、きっと警戒しておられるでしょう。」
「となれば、攻略は難しいかもしれません。」
“僕とエルーザの祖父”が意見したところ、
「こちらには“ラドン竜王陛下”がおられるので大丈夫でしょう。」
「負けることは、まずないかと…。」
そのように“片目のベルーグ”が予測する。
誰もが〝あー、確かに〟といった感じで納得したので、
「じゃぁ、決まりね♪」
姉上が満足された。
更には、
「念の為、味方の兵士を結束させるのに“新たな将軍”が必要かも。」
「あくまでダイワの内輪揉めなんだから、外部に頼りすぎないようにしておきたいわ。」
こう告げられた姉上が、
「そうねぇ……。」
「ベルーグはどうかしら?」
そのように窺われる。
「は??」
「俺が、ですか?」
驚く本人に、
「師団長を務めていた経歴があるんだし、そもそも貴方はダイワで生まれ育っているのでしょ??」
「それに、ラルく…、ラルーシファ陛下の教育係でもあるのだから、申し分ないわよ。」
こう姉上が説得なされた。
「いや、ですが、自分には荷が重い、というか……。」
ベルーグが困惑すると、端のほうに佇んでいた“黒猫の獣人 ユーン”が一歩だけ〝ズイッ〟と前に出て、
「それでしたら、補佐役を御提案させていただきます。」
「例えば、“副将軍”は如何でしょう?」
「これにマリー殿を推挙します。」
そのように述べる。
「え??」
「私?」
“細長眼鏡のマリー”が驚くなか、
「そうすれば、ダイワ王国に移住しているヒトたちや女性からの支持も得られるかと、考えられます。」
このようにユーンが続けた。
「成程。」
「いいわね、それ!」
理解を示された姉上に、
「陛下、御許可を。」
促された僕が、
「了解です…。」
「ベルーグを将軍に、マリーを副将軍に、それぞれ任命する。」
「勅書は後で用意するから、二人ともよろしくね。」
そう伝えたところ、双方が椅子から立ち上がる。
この流れで、
「恐悦至極に存じます。」
ベルーグと、
「身に余る光栄です。」
マリーが、跪いた。
そうしたなか、ユーンを筆頭にした“僕のお世話係達”が耳と尾を〝パタパタ〟させて喜んでいる。
何故かしら……。
▽
1000以上の兵数になっている僕らは、テントを収納し、円形に隊列をむと、“魔術師のレオディン”によって、[ダイワ王城]の正面に【テレポーテーション】した。
こちらは小雨が降っている。
そこへ、もともと開け放たれていた扉から、[黒いウィザードローブ]を纏った“初老の男性”が徒歩で現れた。
大半が攻撃態勢を執ろうとしたところで、“短めの髪/眉/鼻髭”は白く、瞳は青色であり、やや腰の曲がった痩せ型の老体が、
「ラルーシファ様。」
「ラダン様がお待ちにございます。」
僕へと会釈する。
その男性に、
「“バルリック”ではないか。」
ふと声をかけるレオディンだった―。




