第160話 訳柄⑦
“パップ・モナイ伯爵”によれば、中央の約八割を“ラダン兄上”が支配したとの事だった。
およそ二割は中立を保っていた者達のかなでも“ライニル叔父上の派閥”らしい。
こうした間に、ライニル叔父上が、北方の七割を手中に収めたそうだ。
なお、北方の三割は、ラダン兄上の支持者と、本当の中立派が、半分ずつらしい。
そのため、ライニル叔父上は、ラダン兄上の派閥が治める各領地に別動隊を送り込んだとのことだった。
こういった流れで、主力部隊を率いて[中央区]に入ったライニル叔父上は、なに憚らず「謀反人ラダンを誅す」と宣言したそうだ。
それによって、遠からずラダン兄上の軍勢と衝突すると予測されている。
つい昨日ライニル叔父上に関する情報を得たモナイ伯爵は、既に[チェスター領]の攻略に取り掛かっていたので、こちらを優先したとの事だった。
版図を広げ、少しでもラダン兄上を有利にさせるため。
〝そうすれば出世できるだろう〟との打算で…。
▽
“リーシア姉上”が、
「西方や東方の動きは?」
「何かしら知っていれば全て白状なさい。」
そのようにモナイ伯爵に命じられる。
「なんだ?? 小娘。」
「偉そうに!」
不機嫌になるモナイ伯爵の後ろから、“50歳ぐらいの女性”が、
「無礼千万!!」
「ラルーシファ王陛下の姉君であらせられる!」
「今すぐ謝罪せよ!!」
こう怒った。
もともと第一陣にいた“リーダー格の1人”であり、第二陣に降るよう交渉した人物だ。
“長めの髪/眉/瞳”は金色で、“瞳”は青く、勇壮な雰囲気がある。
“スーザン・チルシー”という名前の[女子爵]だ。
補足として、男性は普通に[子爵]だけれども、性別が異なれば[女子爵]となるらしい。
それは正式な爵位なのだそうだ。
なかには[女男爵]や[女準男爵]というのもあるのだとか。
こうなると〝女性なのに男爵や準男爵?〟といった感じで、ややこしい。
……、さておき。
振り返ったモナイ伯爵が、
「チルシィ~ッ。」
「裏切りおってぇ!」
恨めしそうな声を出す。
「さまざまな真実が明らかになった以上、もはや従えるか!!」
「本当の国王ラルーシファ陛下にこそ忠誠を誓うべきだろ!」
「慎まねば、その首、刎ねるぞ。」
右腰に帯びている[剣]を左手で抜こうとするスーザン女子爵を、
「待ちなさい。」
「まずは話しを聞いてからよ。」
「それに、貴女が処遇を決めるのは越権行為にあたるわ。」
姉上がお止めになる。
柄から手を放した女子爵が、
「分をわきまえず、申し訳ございません。」
頭を下げた。
姉上に小声で、
「ラル君、許してあげて。」
このように促され、
「あ、はい。」
「えーと…。」
「不問に付す。」
そう告げたところ、
「ありがたき幸せにございます。」
女子爵が感謝を口にする。
ここからモナイ伯爵を改めて問いただすも、何も分からなかった。
ちなみに、姉上や“ルファザ侯爵”が懸念していることが二つある。
一つは、西方のラグール叔父上だ。
おそらく挙兵なさると想定して、僕らの味方になるかは定かでない。
都を目指しラダン兄上を倒して王を名乗るかもしれないし、西方を支配して勝手に独立する可能性もある。
“ハーフエルフのリィバ”も「長年お会いしていないので考えは読めませんね」との事だった。
東方には、“ラノワマ宰相”の領地が在る。
本人は[実家]と[王都]を行き来していた。
とは言え、お城や都への直接的な【瞬間移動】は許可されていない。
そのため、お抱えの魔術士によって、王都の外に【テレポート】するのが常となっていた。
ここから、都内の[邸宅]に赴き、評定などがあるときに王城まで足を運ぶ。
それは、各大臣や、軍の上層部メンバーたちも、似たようなものだった。
一年のうち、六割から七割を王都で、残りを地元で、暮らす。
なかには領地を欲しがらず都で生涯を過ごすヒトもいるらしい。
だいたい〝統治が面倒だから〟や〝田舎は嫌だ〟といった理由で。
いずれにせよ。
宰相が[私領]に戻って東方を征服しつつあるかもしれない。
これらを封じるために、数日前、僕らは、南方だけでなく、西方や東方の権力者達にも手紙を送って、恭順を促した。
また、〝ラノワマ宰相など、兄上を支持しているヒトらを、討伐するか、難しければ牽制するように〟とも。
西方のラグール叔父上には、〝僕が父から正統に王位を継承した〟という件はもとより〝臣下の礼をとるべし〟といった概要が認められたものを[ペガサス便]で届けさせている……。
▽
姉上が、
「ひとまず、モナイ伯爵などの処遇を決めるとしましょう。」
「あと、第三陣に状況を伝えたがいいわね。」
「指揮官たちに教えた後、解散させたら、お昼ご飯にしましょうか。」
「お腹が空いたままだと冷静な判断ができなくなるし。」
そのように提案なさる。
これによって、“僕/姉上/ルシム大公/ルファザ侯爵”が[作戦本部のテント]に入った―。




