第158話 進退④
敵集団およそ3000の六割から七割が跪く。
あちらこちらに、馬に乗っている人が点在している。
きっと“指揮官クラス”だろう。
40名ほどのうち、過半数が下馬して、片膝を着いた。
そうしたなか、
「待て! 軽率だ!!」
「本当にラルーシファ王子殿下なのか、まだ分からんぞ!」
「ムラクモや、閃光も、偽者かもしれん!!」
「王位を継承したというのは嘘の可能性がある!」
「簡単に信じるな!!」
といった否定的な意見が聞こえてくる。
けれども、次の瞬間、騒いでいた人々が〝ひぃいッ??!〟と恐れをなした。
僕と“マンティコアのラバス”の背後で、“ラドン陛下”が竜に化したからだ。
全長は200Mあたり、らしい。
とにもかくにも。
「我は、ラドン=カナム。」
「サウスト大陸はドゥユールの王である。」
このように名乗られる。
ラドン陛下の大きさに、相手、いや、味方までもが固まるなか、他の竜人族も姿を変えた。
ガオンさんは40M、ドッシュさん&ラッスさんの双子はどちらも20M、ヴァイアが5Mだ。
そうしたところで、
「我は、つい先日、ラルーシファ王と同盟を結ぶべく、協定に至った。」
「意味は分かるな?」
「ラルーシファ王に背くは、我ら竜人とも敵対するという事だ!!」
「我から、もう一度だけ、己らに問う!」
「ダイワの真の王のもとで団結するか、国賊となるか、を。」
「後者を選べば、我が“火炎の息”で灰燼に帰すぞッ!!」
こうラドン陛下が告げられる。
驚いてフリーズしたままの人達に、次は三兄さんが、
「どうした?? 死にたいのか?」
そのように訊ねた。
これによって、相手の兵が、一人残らず、かなり焦った様子で跪く。
補足させてもらうと、“ルシム大公/ルファザ侯爵/ストラング伯爵/ウィリ男爵/味方の各隊長”も馬を連れて来ている。
今更だけど…。
▽
僕らの陣に、敵の指揮官たち約40名が呼ばれている。
野外に[長テーブル]が1台だけ置かれ、そこに僕が[父上の手紙]を広げた。
ちなみに、僕は“マンティコアのラバス”から降りている。
ラドン竜王陛下がたは、ヒトの容姿に戻っていた。
少し逸れてしまうかもしれないけれど、“天空人のアンヌ”が「ご立派でしたよ」と褒めてくれたので、僕はとても嬉しくなっている。
それはさておき。
だいたいで四人一組になって、代わる代わる手紙を黙読した指揮官達が、
「確かに。」
「間違いない。」
誰ともなく理解を示し、
「ラルーシファ王陛下の御即位を、心よりお祝い申し上げます。」
改めて片膝を着いていく……。
▽
相手の兵隊3000が、こちらの傘下に入った。
全員が起立したところで、
「第二陣以降は、それぞれ、いつごろ現れる??」
「また、それらの数は?」
侯爵が、指揮官らに質問する。
なかでも一番偉いのであろう50歳くらいの女性が、
「予定では2日後に第二陣が訪れます。」
「我々と同じ、およそ3000で。」
「そのまた2日後には、約5000の第三陣が来ることになっており、“パップ・モナイ伯爵”が自ら率いるそうです。」
このように知らせた。
そこから、僕たちは新たな作戦について話し合う…。
おさらいとして。
僕らは、[チェスター領]の最北端にいる。
この北側に隣接しているのが[モナイ領]だ。
チェスター領は[ダイワ王国の南方区]に、モナイ領は[中央区]に在る。
ついでに説明するならば、ラグール叔父上が治めている地域は[西のイズモ領]で、ライニル叔父上の所は[北のイズモ領]と、呼ばれてきた。
都がある地帯は[イズモ王領]だ……。
▽
取り敢えず、3000の兵士の殆どを解散させている。
〝そこまでの数の料理を作るのは厳しい〟との声があがったので。
よって、リーダー格の40名あたりと、5人ずつの家臣だけ、留まらせる事になった。
計240といったところになる。
こちらと合わせると、総勢840くらいだ。
ただし、[砦]には500の兵が居るので、出撃させれば、もっと増える。
それでも、“モナイの第二陣”よりは少ない。
このため、とある案を採用する運びとなった…。
▽
翌日。
朝食を済ませてから、“アシャーリー&母/セゾーヌ/料理人たち”が、一旦、館などに戻る。
何かと調理するために。
各々が[館/屋敷/邸宅]へ帰り、いろんな品を作ってくれるそうだ。
製法は、アシャーリーとセゾーヌが伝え、必要最低限の読み書きができる者がメモしている。
なお、ウィリ男爵が伴っている料理人達は、“フォード・ヴァルタ伯爵”に仕えているので、あちらの[邸宅]に渡るらしい。
もともとは“サルバ・モガン子爵”の。
“獣人のユーン”が顔を蹴った。
まぁ、おいといて。
“兎の獣人 カトリーヌ”がアシャーリー&セゾーヌに付いて行く。
何かしら手伝うために。
の筈だったんだけど……。
[ドーナツ]を完成させてきた。
何名かに加勢してもらって。
種類は[オールドファッション]というものらしい。
なんでも[別館の厨房]を使わせてもらったそうだ。
「設備と食材が揃っていたから、念願が叶って作れた♪」との事だった。
さすがは、前世の実家が[洋菓子屋さん]なだけはある。
僕などの“転生者組”は、久しぶりの[ドーナツ]に喜んだ。
初めてクチにしたヒトたちは感激していた。
そうした流れで、ラドン陛下などが「うちの料理人らにも教えてほしい」と頼みだす。
一方で、“妹のエルーザ”が、カトリーヌに、より懐いた。
カトリーヌは“ムードメーカータイプ”なのもあって、エルーザにしてみればそもそも接しやすかったらしい―。




