第157話 君主として①
作戦本部の[テント内]で、二枚の紙が用意される。
その両方に、“ルファザ侯爵”が共通の文章を記していった。
同盟に関する簡単なことを。
厳密なものは書類の量が多くなるらしいけれど、それはまたいつか条約を結ぶときに準備するそうだ。
今回は、時間に余裕が無いなかでの協定のため、大まかになっている。
〝それでいいのかな??〟と疑問が生じた僕に、
「ま、此度は、父上とラルーシファ陛下さえ問題なければ、構わないでしょう。」
このように“ドォーゴ竜王子殿下”が承認なされたので、OKという事になった。
どちらの紙にも、僕と“ラドン竜王陛下”が、署名して、王印を押す。
それらを、各自一枚ずつ、[アイテムボックス]に保管する…。
▽
天幕の外にて。
「ガオン、ヴァイア。」
「もしも父上が暴走したときは頼んだ。」
「二人だけでは押さえきれないだろうから、ドッシュとラッスも加わるように。」
こうドォーゴ殿下が喋られたところ、
「ふんッ!」
「見境なく暴れたりせんわッ。」
「こわっぱじゃあるまいし。」
ラドン陛下が不機嫌になった。
〝はぁー〟と溜息を吐いたドォーゴ殿下に、
「その可能性があるから言っているんじゃありませんか。」
「気を付けないと、いつぞやみたいに、母上に怒られ続けますよ?」
そう注意されて、〝ギクッ!!〟となったラドン陛下が、
「わ、分かっておる!」
「あれは若気の至りというものだ!!」
「我とて自重できるようになっておるわい。」
このように返す。
「だといいのですけど。」
「くれぐれも、この国で迷惑かけないでくださいね。」
「ラルーシファ陛下はヴァイアの親友であり、父上にとっては同盟相手なのですから。」
そうドォーゴ殿下に念を押され、
「うむ。」
「任せておけ!」
ラドン陛下が約束なさる。
「それでは、また後日。」
会釈なされたドォーゴ殿下に、
「はい、了解しました。」
頭を下げる僕だった……。
ドォーゴ殿下が【テレポート】で帰られてから、
「昔、何かあったの??」
気になってヴァイアに尋ねてみる。
すると、
「あー。」
「およそ七百年前、隣国の王が喧嘩を売るような真似をしたらしい。」
「頭にきた祖父上は、竜の姿になって飛んで行き、城を破壊したうえ“フレイムブレス”で焼き払ったそうだ。」
こう教えてくれた。
それに、僕は〝え――ッ?!!〟と引いてしまう。
また、(絶対、敵に回さないでおこう)とも思った…。
▽
夕刻。
アシャーリーたちが[ハンバーグ/ポテトサラダ/玉ねぎ&キャベツのスープ]を調理してくれる。
パンが足りなくなるので、[大公の館]に作りに戻っていた“料理人の何名か”が、“女性魔術士さん”によって帰って来た。
こうして、“ウィリ男爵”など、[地球の食べ物]を初めて体験した人々が、
「なんだッこれぇ―ッ!??」
「美味すぎるぅ――ッ!!」
といった感じで、はしゃぎまくる……。
▽
二時間近くが過ぎた。
満天の星だ。
そうしたところへ、“ストラング伯爵”と200数の兵隊が【瞬間移動】で訪れる。
「お待たせ致しました。」
「既に砦には状況を伝えておきましたので、いつでも渡って大丈夫です。」
そのように伯爵が報せたことで、[北の領境]にテレポートしてもらい、テントを張り直す。
僕らから割と離れた後方には[石造りの砦]が見受けられた。
方角は、[野営地]の南側みたいだ…。
▽
翌朝。
伯爵達も、[地球の料理]に感激する。
一時間ほどが経ち、北の方から、
「敵が現れましたぁ―ッ!」
などの声が聞こえてきた。
場が緊迫した空気に包まれだすなか、
「ラル君!! 手筈どおりに!」
「竜王陛下がたもお願いします!!」
“リーシア姉上”が指示なさる。
これによって、僕は急ぎ“マンティコアのラバス”に跨った。
ちなみに、いつでも応戦できるよう、全員が既に装備を済ませている……。
▽
味方が慌ただしく陣形を整えいくなか、僕は空中から前線に出てゆく。
背後には、ラドン陛下たち“竜人族”が付いてきてくれていた。
相手集団は〝ざわざわ〟している。
待ち伏せされていた事に驚いているのだろう。
そうしたなか、
「ここら辺で。」
ラバスに宙で止まってもらい、息を〝すぅ―ッ〟と吸って、
「ぼ…、余はラルーシファ!!」
「父ライザーの意向にて、王位を正統に継承した!」
こう告げた。
その流れで、左腰に帯びている[武器]を抜き、両手で掲げ、
「見よ!!」
「これは“神剣ムラクモ”だ!」
「そして!!」
【神力】を注ぎ込み、
「これがッ! 閃光貫だぁ―ッ!!」
ほぼ真上に【金色のビーム】を放つ。
目撃した“敵グループおよそ三千”の多くが、興奮のるつぼと化す。
なお、反動で若干ふらついた僕は、ラバスから落ちかける。
けれども、どうにか踏ん張り、
「余に忠誠を誓うか、反乱軍として討伐されるか、好きなほうを選べ!」
毅然とした態度で勅命を下した。
緊張で心臓を〝バクバク〟させながら―。




