第156話 漸進⑤
“ラドン竜王陛下”が力強く〝うむッ!〟と頷かれたところで、
「条約の内容が問題となりますな。」
ふと切り出した“ルファザ侯爵”が、
「貿易は、当然、行なうとして…。」
「仮にドゥユール王国で戦争が起きた場合、こちらから援軍を送ったとしても、さほど助けにはならないでしょう。」
「寧ろ、足手まといにしかなりますまい。」
「まぁ、竜人族に喧嘩を売るような愚か者は、そうそういないでしょうが……。」
「要は、他にも何かとドゥユール王国にとって不平等な同盟になりかねない事を、個人的には懸念します。」
「貴国の方々を怒らせてしまわないかと…。」
「それを踏まえたうえで、如何いたしましょうか??」
不安要素を口にする。
「そうようのう……。」
少し考えたラドン陛下は、
「今となってはもう構わんのではないかと思うのだが、我の所にも“地球の料理や調味料”の技術を教えてくれんか?」
「さすれば、文句を言うやつなぞおるまい!!」
こう主張なされた。
“ストラング伯爵”や“密偵の女性”に、“ウィリ男爵”が、「チキュウ??」といった感じで首を傾げるなか、
「いや、ですが、あれらは、僕ではなく…。」
半ば困りながら“ルシム大公”に視線を送る。
察してくれたらしい大公は、
「それでは、アシャーリーとセゾーヌに聞いてみましょう。」
「製法を紙に認めるか、ラドン陛下の王城へ直に伝授しに赴くか、を。」
そのように引き受けてくれた。
「じゃぁ、そのぶんの報酬を支払うわ。」
「それ相応の金額で。」
「ラルく、いえ、ラルーシファ陛下が。」
突然こう述べられた“リーシア姉上”に、僕は〝え?〟と固まる。
そうしたなかで、
「それであれば、二人とも納得することでしょう、快く。」
大公と、
「よし、決まりだな。」
ラドン陛下が、〝ニカッ〟とした。
このような流れにて、
「良かったわね! ラル君♪」
姉上が満足なさる。
……、完全に僕を置いて話しが進んでいってるんですけど??
う~ん…、ま、いいか。
上手く事が運びさえすれば。
一方で、
「儂の所も教えて欲しいが、同盟となると国王が首を縦に振らん限り無理だしのう。」
“トラヴォグ公爵”と、
「私も、似たようなものですわ。」
“ザベルさん”が、〝むぅ~〟と眉間にシワを寄せた。
「まぁ、そこらへんは追々にして。」
「〝これより砦に向かう〟といった考えでよろしいかな?」
「チェスター殿。」
そのように大公が尋ねたところ、
「こちらは今から兵士に召集をかけますので…、早くとも夜になるでしょう。」
こう伯爵が答える。
それによって、お開きとなり、領境へと【テレポーテーション】する僕らだった……。
▽
ひとまず、野営地に[テント]が張られていく。
作戦本部の[大きな天幕]には、“僕/姉上/妹のエルーザ/大公/侯爵/ラドン陛下/ヴァイア/ガオンさん/アシャーリー&両親/セゾーヌ&母/マンティコアのラバス”が居る。
大公が代表して経緯を説明してくれたところ、
「了解しました。」
「レシピ…、〝調理法を書いてお渡しする〟ということで大丈夫でしょうか??」
「数日かかりますけれど。」
このようにアシャーリーが伺った。
「急ぐ必要はないため、それで大いに結構である。」
優しく返されたラドン陛下に、
「でしたら、私もそうさせてください。」
セゾーヌがお願いする。
「うむ。」
「これで一件落着だな。」
上機嫌になられたラドン陛下が、
「いや、ドォーゴには伝えておかねばならんか。」
〝スッ〟と起立し、
「ガオン、ヴァイア。」
「我は、一旦、城に帰り、お前らの父に会うてくる。」
「こっちには、すぐにでも戻って来れよう。」
そう告げて、外に出て行かれる。
【テレポート】するために……。
▽
数十分後。
ラドン陛下が“ドォーゴ王子殿下”を連れて【瞬間移動】してこられた。
まずは、姉上と妹や、侯爵である祖父を、紹介する。
結果、エルーザのなかでは“りゅうおーじ”になった…。
なにはともあれ。
「お久しぶりです。」
「王位を継承なされたそうで、これからは“陛下”とお呼びせねばなりませんね。」
微笑まれたドォーゴ殿下が、
「それにしても、すみません。」
「父上の思い付きで、いきなりこのような事になってしまい。」
「ご迷惑だったのでは?」
こう訊いてこられる。
「いえいえ、そんなことありませんよ。」
「“竜ノ王国”との同盟はとっても心強いので、非常に有り難いです。」
そのように返答したら、
「それであれば何よりです。」
「安心しました。」
穏やかに述べられた。
こうしたところで、
「今回は、時間的に、いろいろと準備する余裕がなかったので、取り敢えず、協定という形にしましょう。」
「正式な条約は、そちらの内戦が済んでからにでも、改めて。」
ドォーゴ殿下が提案なさる。
それを受諾する僕だった……。
ちなみに、〖協定〗は、〝国家間の取り決めで、あまり厳重な手続きをしないで結べるもの〟なのだとか。
〖条約〗は〝文書による国家間の合意〟であり〝国際上の権利や義務に関する取り決め〟らしい。
つまり、〝協定のほうが条約よりも簡易的〟との事だ。
噛み砕いて言えば―。




