第155話 ターニングポイント⑤
「“ラノワマ宰相”が黒幕ということですか??」
ふと伺った“ストラング・チェスター伯爵”に、
「どうかしらね?」
「私などの叔父の1人、“ライニル”が企んだみたいだけど…。」
そう答えられた“リーシア姉上”が、
「詳細を説明してあげてもらえるかしら??」
“ルファザ侯爵”を促す。
あの時、僕らと一緒に、話しを直に聞いたというのもあって……。
▽
「なんと。」
「そのような事態になっていたとは。」
信じられない様子になった伯爵が、
「しかし、となれば…。」
すぐに真顔となり、
「ライニル殿下は、北方を束ね、王都制圧に乗り出すつもりでしょうな。」
「それより先に我々が都に辿り着かねば、国家の混乱が窮まりかねないかと……。」
こう分析した。
そして、
「この領地に攻め込もうとしている敵の兵数はどのくらいだ?」
こう訊ねた伯爵に、
「およそ三千です。」
「ただし、これはあくまで第一陣であり、日を追うごとに、第二陣、第三陣、と続き、やがては1万を超えると予想されます。」
“密偵の女性”が答える。
〝ふむ〟と頷き、
「手始めに領境の砦を狙うであろうな。」
そのように呟いた伯爵が、
「連中が南下するのはいつ頃になる??」
改めて女性に質問した。
「現在、集まりだしている最中ですので、早くても明日の朝になるかと思われます。」
こうした見解を受け、
「こちらの兵を急ぎ呼び寄せたとして、時間的に200揃えばいいほうか。」
「砦の500と合わせても、厳しいな。」
軽く眉間にシワを寄せた伯爵に、
「我らは約400なので、総勢1100あたりになろう。」
「ま、それでも、あちらが三倍近くは多いが。」
“ルシム大公”が声をかける。
この流れで、“ラドン陛下”が、
「ふんッ。」
「たかが数千、我が竜に変じれば、瞬く間に焼き尽くせる故、心配には及ばん。」
「ただし。」
「この国の王がそれを容認するか次第だがな。」
僕を窺われた。
皆の注目を浴びるなか、
「……、できれば、やめてほしいです。」
「きっと甘いのでしょうけれど、なるべく犠牲を出したくありません。」
「敵味方問わず。」
そう僕は意思表示する。
「ま、正解よ。」
「国力を減少させ過ぎずに内乱を終わらせれば、民衆の支持を得られるでしょうから。」
「ラル君はまだ11歳というのもあって、今後、舐めて掛かる者が出てくる筈よ。」
「そうなれば謀反や暴動が頻発しかねないわ。」
「これを抑止するためには、誰もが認める実績が必要になってくるのだから。」
このように賛同してくださった姉上に、
「ですが、どう戦わずして勝利を収めるか、そこが問題となります。」
「何か有効な策がお有りで?」
“僕とエルーザの祖父”が尋ねた。
〝ふッ〟と笑みを浮かべた姉上が、
「無いわ。」
〝キッパリ〟と告げられる。
それに大半のヒトたちが〝ええ―ッ??〟と困惑した。
こうした流れにて、
「でしたら、ラルーシファ王が、さっきみたいにムラクモの閃光を使ってみるのは如何です?」
「この国は特に敬服する者が多いでしょうからね。」
「“初代ラダーム王”の人気が根強く残っているのもあって。」
“ハーフエルフのリィバ”が提案してくれる。
密偵の女性が、
「え??」
「ムラクモ? 神剣の??」
「閃光? 伝説の??」
驚きを隠せずにいるなか、
「ある程度はそれで靡くでしょうが、完璧を期すのは難しいかもしれませんな。」
「にわかには信じられない者もおるでしょうから。」
「もう一つぐらい術が欲しいところです。」
そのように“魔術師のレオディン”が述べた。
これによって、各自が〝どうしたものか??〟と頭を悩ませだす。
すると、
「で、あらば。」
「ラルーシファ王よ、我と同盟を結ぶが良い。」
「ただし、これは、そなた一代限りのものとす。」
「さすれば、ラルーシファ王に従う者が増えようぞ。」
そうラドン陛下が提案してくださった。
この考えに、“隻眼のベルーグ”が、
「成程。」
「〝竜王陛下が、ラルーシファ陛下と対等であり、更には味方に付いている〟ともなれば、大勢が戦意を喪失する可能性が高くなるに違いありません。」
表情を明るくする。
「それに、一代限りの同盟であれば、ラル君を害し、王位を簒奪しようとする輩は、現れないでしょうね。」
「救いようのないお馬鹿さんでさえなければ。」
「何せ、“竜ノ王国”はもとより、いろんな所を敵に回して、自滅しかねないのだから。」
そうした姉上の後押しもあって、
「分かりました。」
「ぜひ、よろしくお願いします。」
ラドン陛下にお辞儀する僕だった―。




