第154話 進退③
“ストラング・チェスター伯爵”などが立ち上がり、正面を空けてくれる。
そうして、僕が[神剣ムラクモ]を抜くと、
「おー、真でしたかぁ。」
喜びの表情となる伯爵だった。
“隻眼のベルーグ”が[鞘]を預かってくれたところで、僕は両手で握った[ムラクモ]を斜め上に向ける。
ここから【神力】を流し込み、最大幅15㎝×長さ4Mといった【金色のビーム】を放つ。
この反動で二歩ぐらい退がってしまうなか、
「まさに閃光貫ッ!!」
「およそ五百年ぶりに見たわぃ!」
“ラドン竜王陛下”が、はしゃぐ。
これによって、周囲が〝おぉ――ッ!!〟と騒ぎだす。
一方の僕は、少なからず腰と両膝が落ちるのと共に[ムラクモ]を下ろした。
約2年前に比べて、背丈が伸びているのと、筋力が付いたので、あの時みたいに転倒せずには済んでいる。
ただし、長時間に亘って振るったりするのは[神剣]の重量的にまだ無理だ。
彼方へと【閃光貫】が消えゆくなか、〝ふぅ―〟と息を吐いた僕に、
「素晴らしいわ、ラル君!」
“リーシア姉上”と、
「にぃさま、すっごぉ―い!!」
“妹のエルーザ”が、瞳を輝かせた☆☆
そうしたところで、
「ラルーシファ王陛下に、心よりの忠誠を、お誓い致します。」
伯爵が跪き、
「自分も、改めて!」
急ぎ“ウィリ男爵”が続く。
これらに、全ての兵隊と料理人達が倣う…。
「あー、うん。」
「皆、ラクにしていいよ。」
僕が促した事で、再び誰もが起立する。
そうして、“ルシム大公”が、
「チェスター殿。」
「いろいろと話しをしたいのだが、如何する??」
「すぐにでもここに天幕を張らせようか?」
「ちなみに、儂は、タケハヤ島の大公である。」
伯爵を窺った。
「これは、お初にお目にかかります。」
会釈した伯爵が、
「ひとまず、主だった方々だけでも私の屋敷にお越し頂ければ幸いです。」
僕に声をかけた。
これによって、メンバーを選出していく……。
なお、補足させてもらうと、ラドン陛下によれば、僕の【閃光】は“初代ラダーム様”に比べて小さかったらしい。
けれども、〝神気を感じたので、本物であるのは疑いようがない〟そうだ。
あと、僕が強くなるにつれて〝閃光も進化するだろう〟と予測された。
何はともあれ。
数十秒後、“姉上/妹/ラドン陛下/大公/トラヴォグ公爵/ザベルさん/ルファザ侯爵/ウィリ男爵/僕の教育係&お世話係/マンティコアのラバス”に決定する。
そこから、伯爵の護衛である1人の男性が【テレポート】してくれて、[屋敷]の正面に渡った…。
▽
[広間]にて。
“僕とエルーザの祖父”が、
「この領地より北は中央区なので、何か情報を掴んでいたりはしないだろうか??」
「王都などの。」
こう切り出す。
「……、時系列から説明しますと、四日ほど前、ケンタウロス便で、陛下の兄君から書状が届きました。」
「〝故あって王位を継承した〟〝南方で反乱を起こす者があらば、これを討ち、余に恭順の意を示せ〟と。」
「しかしながら、王印ではなく手形が押されていたり、印璽が簡略的なものでしたので、不審に思った次第です。」
「配下の者を何人か中央に送り込みましたが、まだ戻っていないため、現状は分かりかねます。」
「そうしているうちに、昨日、ラルーシファ王陛下よりの書状を受け取りました。」
「そこに書かれていた指定の場所と日時に、先ほど赴いたところ、拝顔が叶ったという訳でございます。」
そのように語った伯爵が、
「ライザー先王が病に伏せられでもしたのかと案じておりましたが、まさか謀反だったとは…。」
首を軽く横に振る。
こうしたタイミングで、
「失礼します!!」
「密偵の1人が帰って来ました!」
屋敷の守兵を務める男性が伝えてきた。
「通せ。」
伯爵が命令したことで、20代後半あたりの女性が入室してくる……。
▽
彼女によれば、中央の殆どを“ラダン兄上”が制圧したようだ。
中央区は、もともと、三割ずつが僕と兄上の支持者に分かれており、残りの二割ずつが“中立”と“国王派”だったらしい。
兄上は、まず、僕を支持している人々を粛清していったみたいだ。
それぞれに兵隊を進軍させて。
完全に虚を衝かれた各領主は対応が遅れ、敗れてしまったらしい。
国王派のなかには、兄上に付いた人がチラホラいるそうだ。
逆に敵対する者は攻撃されていった。
また、中立を保つ人々にも従うか否かを迫ったらしい。
半数は恐れをなし、傘下になったのだとか。
残りは、きっと、昔から“ライニル叔父上”と繋がってきたのだろう。
こうしたなか、中央の最南端に在る領地で戦準備が行なわれているそうだ。
そこを治める人物は“兄上の派閥”であり、ここ[チェスター領]を標的にしたらしい…。
聞き終えたところで、
「どうやら、こちらも探られていたみたいですな。」
伯爵が推理する。
「我々の接触が、あちらに洩れたと?」
そのように訊ねた侯爵に、
「いえ、この件はまだ知られていないでしょう。」
「おそらくは、なかなか動こうとしない私を叩きたいのかと。」
「見せしめとして。」
伯爵が答えたところ、
「つまり、〝兄上が何もかも予め指示しておいた〟ということよね。」
「まぁ、正確には“ラノワマ宰相”の同派への根回しによるものでしょうけど。」
こう睨む姉上だった―。




