第153話 漸進④
僕たちは[野営地]に戻っている。
約30分後、昼食となった。
[海老や牡蠣のフライ]と[タルタルソース]の組み合わせに、
「ぬはッ!」
「雇ってもらったの正解だったぁ―ッ!!」
カトリーヌの父親が歓喜する。
その様子に、
「もぉ~う、調子いいんだからぁー。」
恥ずかしそうにするカトリーヌだった。
ちなみに、彼女の母親と兄も[地球の料理]に感激している…。
▽
“フォード・ヴァルタ子爵”が従軍させてくれる兵隊が、こちらに訪れるまで、だいぶ時間がある。
なので、ちょっとした話しをしようと思う。
それは、“妹のエルーザ”に関してだ。
まず、僕などの“元担任”を、「せんせー」と呼ぶようになった。
きっと面白がっているのだろう。
他に、“アシャーリー”はアシャ、“セゾーヌ”がセゾ、“カトリーヌ”はカトゥー、になっている。
アンヌだけが、令嬢を意味する“アンヌじょう”だった。
理由としては「なぜだか、わたしをそうさせる」「しぜんに」とのことらしい。
あと、ヴァイアが“りゅうでんか”で、ガオンさんは“あにでんか”だ。
長兄さんと次兄さんの存在を教えたところ、“おおあにでんか”と“ちゅうあにでんか”になった。
まだ一度も会った事ないのに。
ヴァイアたちの祖父君には「りゅうおー」と言っていたので、さすがに“へいか”を付けるよう注意した。
しかしながら、“ラドン竜王陛下”が「構わん」と笑っていらっしゃったので、OKになっている。
これもあってか、ルシム大公は“たいこぉー”で、トラヴォグ公爵が“トラこうしゃく”となった。
なお、ルファザ侯爵は“おじぃさま”だ……。
▽
午後二時あたり。
野営地の近くに、およそ100人が【テレポート】してきた。
その集団のなかに“ウィリ・ホルット男爵”の姿がある。
「男爵も一緒に来たの?」
何気なく僕が質問したところ、
「ま、自分は政治とかはあまり得意なほうではないので、そっちはフォード子爵にお任せします。」
「戦闘であれば少しはお役に立てるかと。」
微笑んで述べるウィリ男爵だった。
これ以外には、何名かの料理人を伴っている。
とかく。
昨夜、[子爵邸]に[牢屋]などへと【瞬間移動】してくれた女性によって、北の領境へ渡る僕らだった…。
▽
主だったメンバーは、輪の中心にいる。
周りを兵隊が囲んでいる状態だ。
【テレポーテーション】し終えた数秒後、前方の兵士たちが左右に分かれた。
僕らへと走ってきた1名の兵が、跪いて、
「“ストラング・チェスター伯爵閣下”が、既にお待ちになっていました。」
「ラルーシファ王陛下への謁見を求めておられます。」
そのように報告してくる。
「あちらの護衛の数は??」
“ルファザ侯爵”の問いに、
「4人だけです。」
「それと、チェスター閣下は武器も防具も装備しておられません。」
こう答えた。
「ふむ。」
「どうやら我々と敵対するつもりはないみたいですな。」
誰ともなく“ルシム大公”が呟いたところで、
「ラル君、会いましょう。」
そのように“リーシア姉上”が勧められる……。
▽
僕の正面で片膝を着いた“長身の男性”が、
「拝顔の栄に浴します。」
「“ストラング・チェスター”にございます。」
こう自己紹介した。
年齢は五十歳くらいだろう。
そうした伯爵に、配下が倣う。
余談かもしれないけれど、この5名は、最初、“マンティコアのラバス”に驚いていた。
それだけでなく、“竜人族”にも。
さておき…。
僕の左横で、
「ラルーシファ陛下の姉にあたるリーシアよ。」
「チェスター卿は〝こちらと歩みを共にする〟と考えて間違いないかしら?」
こうお訊ねになられる。
すると、
「私は“国王派”なので、勿論そのつもりでおります。」
「ですが、その前に。」
「恐れながら、ラルーシファ王陛下に、お願いの儀がございます。」
伯爵が窺ってきた。
「ん??」
「僕にできることあれば。」
そのように返したところ、
「予て、ラルーシファ王陛下が“神剣ムラクモ”をお抜きになられた、と、耳にした事があります。」
「実際にこの目で確かめてみとうございますので、何卒お聞き届けくださいませ。」
こう伝えてきた伯爵が頭を深々と下げる。
その流れで、
「“閃光”を扱えるようになったのだったわね。」
「ついでに、それを見せてくれないかしら?」
姉上にまで催促され、
「じゃぁ、取り敢えず、一度だけ。」
[アイテムボックス]を開く僕だった―。




