第152話 ターニングポイント④
“高瀬千紗さん”は、“兎の獣人”に転生していた。
こちらでは“カトリーヌ・パウル”という名前らしい。
そうした本人によれば、一昨日の朝、[タケハヤ島における中央都市]の南門あたりに着いたそうだ。
そして、昨日の昼頃、大公家の料理人だった女性が営んでいる[チキュウビストロ・ビアクト]で情報を得たのだとか。
ここから、馬車で[大公の館]に訪れるも、僕らは既に遠征に赴いていた。
事情を理解した“大公の長男さん”に、「明日、朝食を済ませてから、また来るように」と言われ、出直したらしい。
ルーザーさんは、僕達に従軍している料理人が〝パンを補充しに一時的に戻る〟のを知っていたので。
要は“女性魔術士さん”に僕らの所へ連れていってもらおうと考えたみたいだ。
そうした経緯にて、幼馴染だという“カトリーヌ”と“アシャーリー”が両手を握り締め合って盛り上がる。
話しが一段落したところで、
「大変なことになってるんだね。」
カトリーヌが状況を理解した。
「まぁ、特に、王様…、委員長が。」
このように返したアシャーリーが、僕ら[転生組]を紹介していく……。
「おぉー。」
「城宮くん、吉野さん、山仲さんに、先生までいるとは、驚きだよぉ~。」
そう喋ったカトリーヌが、
「良かったぁー。」
「再会できてぇ~。」
涙を溜めながら微笑む。
こうしたところで“黒猫のユーン”が、
「それにしても、“ビッテマ王国”ですか……。」
「私どもの先祖が、そこの出身でした。」
「およそ三百年前、悪政に嫌気が差して、それぞれ脱国しておりますが。」
独り言かのように語る。
僕の“お世話係”は5人とも、そういった家柄らしい。
いずれにしろ。
「〝とっくに住みやすくなっている〟と、聞き及んでおりますが?」
ふと窺ったユーンに、
「あ、はい。」
カトリーヌが頷く。
そんな彼女を、
「俺たちは、そろそろ帰るとしようか??」
「長居しては邪魔になるだろうし。」
“成人の男性兎”が促す。
後ろを振り向いたカトリーヌが、
「お父さん。」
「ごめんだけど、それはできない。」
「私は、ユミちゃん達と一緒に行動する。」
「放ってはおけないから!」
こう伝えたところ、
「いや、しかし…。」
父親が困惑した。
そこへ、
「貴女たちは冒険者でもあるのよね?」
「だったら傭兵として雇ってあげるわ。」
「国王のラル君がね。」
不意に告げられた“リーシア姉上”に、僕は〝え??〟と耳を疑う。
「お金なら心配ないわよ。」
「王城を出る前に、父上がくださったから。」
こう姉上が教えてくださったので、
「了解しました。」
「雇用します。」
承諾する僕だった。
「あなた、いいんじゃないの?」
「カトリーヌのためにも、そうしてあげましょうよ。」
奥さんであろう女性に勧められ、〝ふぅ―〟と溜息を吐いた旦那さんが、
「分かった。」
「そのようにさせていただこう。」
「ただし、カトリーヌ。」
「言葉づかいには気を付けるんだぞ。」
「前世では友人だったかもしれないが、こっちでは身分が違うんだからな。」
そう釘を刺す。
これに、
「あー、普段は別に構わないよ。」
「公の場とかで注意してもらえれば。」
代表して述べる僕だった。
そこからは、カトリーヌ家族も合同鍛錬に参加する。
カトリーヌの武器は[刃渡り15㎝のダガー]だった。
稽古用なので[木製]だけれど。
ま、実戦で使っている本物も同じ大きさらしい。
ちなみに、彼女の両親は、70歳前後らしいけど、見た目は30代半ばといったところだ。
何もなければ200年は生きるという獣人族も、普通のヒューマンより老化が遅いらしい。
あと、[ビッテマ王国]には従魔が割と存在しており、カトリーヌの祖父母が経営している[ギルド]で働いている者もチラホラいるとかで、“マンティコアのラバス”に平然としていた……。
▽
皆より早めに鍛錬を切り上げた僕などは、“魔術師のレオディン”によって[子爵邸]に【テレポート】する。
同行しているのは“姉上/妹のエルーザ/僕の教育係&お世話係/ルシム大公/ルファザ侯爵/ラバス”だ。
小さめの[広間]にて。
昨夜の囚人服とは異なり[貴族らしい格好]をした“フォード・ヴァルタ子爵”と“ウィリ・ホルット男爵”が跪く。
僕の[勅書]を侯爵が読み上げたら、
「謹んでお受けいたします。」
子爵と、
「陛下に忠義忠節を尽くします。」
男爵が、頭を深く下げた。
「ところで…。」
「陛下がたは、これからすぐにでも何処かに出発なさるのでしょうか??」
こう質問してきたフォード子爵に、
「牢屋でモガンに爵位の剥奪を報せた後、ここの北に隣接している領地に赴く。」
「あそこを治める伯爵に会う予定だ。」
「昼前には移動しようかと思っておる。」
「何せ、そこら辺に訪れた事のある者が我々の陣営には1人もおらんので、領境まで歩かねばならん。」
「それだと最低でも二日は掛かるだろうから、できるだけ急ぎたい。」
「こちらが何かと不利になりすぎる前に。」
“僕とエルーザの祖父”が答える。
「でしたら、兵を百名ほど従軍させます。」
「領境に瞬間移動できる者を含めて。」
「それと、モガンに引導を渡すのは、ぜひ自分にお任せください。」
「領主として、最初の務めにしとうございます。」
そう立候補した子爵を、
「ふはッ!!」
「頼もしいではないか!」
気に入ったらしい大公が、
「望みを叶えてやっては如何ですかな?」
力添えしたので、[勅書]を委ねることにする僕だった―。




