第150話 巡り会い⑥
“ルファザ侯爵”が〝どこまでラノワマ宰相が関与しているのか〟や〝ガーテル将軍の死因〟についても訊ねる。
だけど、“サルバ・モガン子爵”は、それらの詳細を知らされていなかった。
こうしたところで“ルシム大公”が、
「ひとまず、この家族を牢に入れ、〝中立を保つべし〟と主張したという者らを解放しては如何でしょう?」
「そして、ラルーシファ陛下の名のもと、その二人に然る身分を与え、ここの領地を新たに任せるのがよろしいかと。」
そう僕に提案してくる。
「確かに。」
「それであれば、双方とも、ラルーシファ陛下に感謝し、忠誠を誓うかと。」
「モガン子爵達の最終的な処罰は、ラルーシファ陛下が王城に辿り着き、一連の決着がついてからでも構わないでしょう。」
「あと、この守兵らは縄を解き自由にして問題ないかと思われます。」
祖父である侯爵の意見もあって、
「分かりました。」
「そのようにしましょう。」
了解する僕だった……。
▽
先刻 [子爵邸]に渡らせてくれた50歳ぐらいの女性によって、僕らは牢屋の近くに【瞬間移動】する。
子爵ファミリーを伴って…。
正面の[門]は鉄製のようだ。
この両脇に佇んでいる兵士たちが、慌てながら[槍]を向けてきた。
「私はウィンスト領を治めるルファザだ!」
「こちらにおわすは、ダイワのラルーシファ国王陛下であらせられる!!」
「謀反人モガンと、その妻子を、連行した!」
「直ちに門を開けよ!!」
そう告げた侯爵に、二人の兵が不審がる。
このため、
「儂はルシム!」
「タケハヤ島の大公である!!」
「首を刎ねられたくなければ、おとなしく従え!」
大公が加勢した。
それによって、半信半疑ながらも、兵達が[鉄門]を押していく。
もしかしたら“マンティコアのラバス”や“ラドン竜王陛下”の存在も効いたのかもしれない……。
▽
建物内に居た数名の“牢番”とも似たような事が起きた。
ま、結局は、こちらの言う通りに動いたけれど…。
子爵たち三人は、それぞれ別の牢屋に入れられた。
個々に投獄されていた例の二名を釈放させ、取り敢えず[邸宅]に【テレポーテーション】してもらう……。
余談になるかもしれないけど、牢の石床には[太めの鉄鎖]が固定されている。
この鎖に、やはり鉄で作られた[足枷]が付属していた。
鎖も枷も両足ぶん在る。
それによって〝瞬間移動を使っての脱走ができなくなる〟とのことだった。
要は〝対象者を縛り付けておける〟のだそうだ。
また〝片足だけでも大丈夫だけれど念の為〟らしい。
こうした鉄鎖を、囚人がアイテムボックスに収納している[武器]や【爆発魔法】で壊してから【テレポート】するいう手もあるけど、そんな事やっているうちに牢番に攻撃されて失敗しやすい、との話しだった…。
▽
[広間]にて。
侯爵から説明を受けた両名が、僕に跪く。
“フォード・ヴァルタ男爵”と“ウィリ・ホルット準男爵”だ。
どちらも、30代半ばで、精悍な顔立ちをしている。
侯爵の勧めによって、僕は、二人の地位を1つずつ上げることにした。
今後は“フォード子爵”と“ウィリ男爵”だ。
そして、[モガン領]から[ヴァルタ領]にも変わる。
「もう深夜ですので、ラルーシファ陛下の勅書は明日にしましょう。」
このように侯爵が判断したので、“魔術師のレオディン”に野営地へ【テレポート】してもらう……。
▽
待ってくれていた皆が、
「お帰りなさい!!」
嬉しそうに笑みを浮かべた。
興奮して寝付けなくなっていたらしい“妹のエルーザ”の姿もある。
[邸宅]での件を報せたところ、
「許せないわ、ライニルッ!」
叔父上を呼び捨てにして怒りを滲ませる“リーシア姉上”だった。
ともあれ。
僕らを襲った兵隊を町に戻してあげる。
分け隔てなく全員で冥福を祈った遺体と共に。
そこから、アシャーリーと料理人達が[ホットミルクティー]を味方の陣営に振る舞ってくれた。
お湯は予め沸かしておいてくれたようだ…。
▽
翌朝、食事が済んで暫くすると、仲間の兵の数名が[タケハヤ島]や[ウィンスト領]へ一時的に帰る。
亡くなった同僚を遺族に届けるため。
他には、[大公の館]の料理人たちが、女性魔術士さんによって【テレポート】した。
パンを補充したいそうだ。
僕などは合同鍛錬を開始する。
何分か経って、女性魔術士さん達が戻ってきた。
“兎の耳を有した獣人の四名”と一緒に。
なお、大人と子供が二名ずつだ。
〝ん??〟と不思議がる僕らに近づいて来た“白い耳&クリーム色ゆるふわショートヘアーの少女”が、
「“ユミちゃん”と“いいんちょー”は?」
人懐っこく尋ねてくる。
「僕だけれども??」
こう返したところで、
「その呼び方、もしかして?!」
アシャーリーが何かに気づく。
「私は、カトリーヌ・パウル。」
「元“高瀬千紗”だよ♪」
無邪気に自己紹介した“兎の獣人”に、
「やっぱり!!」
「チサちゃん♬♬」
喜びを表す“嶋川由美さん”だった―。




