第15話 始まりの地
二度目の襲撃があった翌日の夜。
ユーンの所に在る“余っていたベッド”が、僕の部屋へと移された。
〝これからは、お世話係が交代で寝泊まりします〟〝いつ現れるか分からない襲撃者どもに即座に対応すべく〟とのことだ。
まずは“リーダー格のユーン”が当番するらしく、赴いている。
そこへ、“王宮魔術師のレオディン”を伴った父上が、訪問なされた。
すぐに跪いたユーンを、
「よい。」
「ラクにせよ。」
父が許可する。
「それでは、失礼しまして…。」
ユーンが起立したところで、
「表向き〝ラルーシファたちの確認〟として赴いたのだが……、そなたらに申す事がある。」
「あれから宰相達と評定を重ねた結果、お前を〝どこか安全な場所に匿ったが良いのでは?〟との意見が多く出た。」
「幾つか候補が挙がったのだが、誰が敵か分からん以上、内部から情報が洩れる心配がある。」
「そこで、先ほどレオディンと話し合い、ラルーシファと“教育係”に“お世話係”の計10名を、ある場所に逃がすことにした。」
「行き先については五日後の朝に知らせる故、余の執務室に集まるように。」
「この間に“着替え”や“装備品”などを揃えて、旅立つ準備を済ませておけ。」
「また、伴う者たちには、明日以降、そなたより伝えてくれ。」
「決して余を除いた家族にすら気づかれぬよう、くれぐれも内密にな。」
このように告げ、
「とりあえず、今日は、ゆっくり休め。」
優しく微笑んだ父上が、レオディンと去っていく…。
▽
午前中の鍛錬や勉学の際にも、お世話係達が僕の近くで目を光らせるようになっている。
少し離れた位置では、数十人の城兵が、警護を固めていた。
そうしたなかで、父に指示された内容を、周りに聞かれないよう教育係にも語ってゆく僕だった……。
▽
“約束の日時”になっている。
僕らは、[大執務室]に揃い踏みしていた。
ここには母上も足を運んでいる。
ラダン兄上は1人で修行しており、リーシア姉上は勉強中らしい。
妹のエルーザは、自身の“お世話係”と遊んでいるそうだ。
室内の静寂を破るかのように、
「さて…。」
「ラルーシファには“タケハヤ島”の中央都市に避難してもらう。」
そう述べる父上だった。
▽
いつだったか、“細長眼鏡のマリー”が[歴史]の授業で講義してくれた事がある。
タケハヤ島は、もともと[レナンイセ島]といった名称だったらしい。
およそ五百年前、ここで生まれ育ったのが、後の“初代ラダーム陛下”と“150人の近衛衆”だ。
初代様は、昔から島長を務めてきた〝ジャルク家の血筋〟とのことだった。
そのため、もともとの名は“ラダーム・ジャルク”なのだそうだ。
少し脱線するけど、この世界には[四つの大陸]と[数百の大小様々な島]が存在しているらしい。
なかでも特殊なのは、[浮遊島]だ。
世界の北側を、一年かけて、西から東へと巡っているとの話しだった。
ただし、年に一回は海に着水して、一ヶ月ほど貿易しているらしい。
まぁ、それはさて置き……。
大陸は“北東/南東/南西/北西”の計四つとなっている。
ダイワ王国が在るのは、[北東の大陸]の最南西だ。
ここから更に、船で五日ぐらい進んだ所に位置しているのが[タケハヤ島]との事だった。
そこは、北東と南東の大陸にとって“重要拠点”に成り得るため、いろんな国々から狙われてきたのだとか。
特に一番しつこかったのが[イクアド王国]らしい。
タケハヤ…、当時の[レナンイセ島]は防戦一方だったものの、大将の“ラダーム・ジャルク”を含めた151人が立ち上がった。
10代後半だった彼らは、中級の【神法】を扱えたのだそうだ。
しかも、“ラダーム・ジャルク”は[神剣ムラクモ]までをも使いこなせていたらしい。
こうした面子が、[イクアド王国]に乗り込み、瞬く間に制圧したとのことだった。
そして、[ダイワ王国]と[タケハヤ島]に変えたり、“ラダーム=イズモ”と改名したのだそうだ。
ここからは、[北東の大陸]における国々との戦争に突入する。
基本的には〝売られた喧嘩を買ったまで〟らしい。
それでも20ヵ国の半数を統べるに至ったのだそうだ。
残りのうち、二つは同盟を結び、八つは従属したとの事だった。
やがて70歳を越えたラダーム様は、二代目に託して、[タケハヤ島]に帰郷したらしい。
このときに[近衛衆]も“お供”したけれど、50人くらいは既に病などで亡くなっていたのだそうだ。
そこから十年が経ち、初代様が崩御なされた。
なお、この期間に、近衛衆の60人あたりも寿命を迎えていたらしい。
大陸側では、初代様を失った影響で、[ダイワ王国]が次第に衰退していく。
徐々にではあったけど、いくらかの国が独立していくなか、どうにか盛り返そうとした六代目が無茶な政策を取ってしまう。
これが決定打となり、謀反が相次いだ。
長年に亘って攻防を繰り広げた“イズモ王家”ではあったものの、十二代目のとき[旧イクアド王国]の範囲と[タケハヤ島]のみが領土となった。
ただ、[タケハヤ島]は、初代様が晩年を過ごしていた際に“自治領”と定められたので、ダイワ本土との関係は希薄になっている。
そんな[タケハヤ島]に、僕らは渡ることになったのだ……。
▽
[王の大執務室]にて。
「レオディンが冒険者だった頃に、あの島に訪れた事があるらしい。」
「そこで、レオディンが得ている“瞬間移動”で赴いてもらう。」
「こちらで“黒幕”を捕らえたならば、すぐに皆を呼び戻す。」
「だが、上手く捗らない場合は、ラルーシファの誕生日に一泊だけ帰省するのを認めよう。」
「マリーの母には、この件を余から知らせておく。」
「それから…。」
「ラルーシファや“お世話係”にレオディンの部屋と、リィバにベルーグの住まいは、こちらで管理する。」
「故に案ずるな。」
父上が全員に伝える。
僕を抱きしめた母上は、左の耳元で、
「あなたに幸あらんことを祈っていますよ。」
このように囁いた―。




