第148話 進退②
“リーシア姉上”が喋り終えられると、にわかには信じられないみたいで敵集団がざわつきだす。
けれども、
「静まれぇいッ!!」
“ラドン竜王陛下”に一喝されて、おとなしくなった。
そこから、
「モガン子爵はどうしている?」
「それと、邸宅の様子は??」
襲撃者達に“ルファザ侯爵”が質問する。
これに、先程の男性が、
「閣下は、執務室、もしくは寝室に、おられるかと。」
「あちらの守兵は20人ぐらいです。」
そう答えた。
“僕とエルーザの祖父”が〝ふむ〟と頷き、
「他に…、例えば普段とは違う点が何かあったりはするか?」
新たに訊ねる。
すると、
「今回の件に関係あるのかは分かりませんけど、1つ気になっている事がございます。」
同じ人物が口を開く。
「申せ。」
侯爵に促され、この男性が語りだす……。
数日前のこと、“サルバ・モガン子爵”に仕えている者たちのなかでも幹部の男性二人が、牢屋に入れられたらしい。
なんでも、お家の方針を巡って言い争いになったのだとか。
詳細は不明みたいだけれども…。
「時期的には、こちらが各諸侯に手紙を出したのよりも早いわね。」
姉上が呟かれたところ、
「ラダン殿下あるいはライニル公の書状が先に届いたのでしょう。」
「概ね、あちら側に付こうとした、もしくは、そもそもライニル公と繋がっていたのかもしれない、そうしたモガン子爵に、反発したところ捕らえられてしまった、という可能性がありますね。」
このように分析する“ハーフエルフのリィバ”だった。
そうした流れで“ルシム大公”が、
「なんにせよ。」
「次はこちらが乗り込むとしますかな。」
「子爵の邸宅へ。」
こう提案する。
「意趣返し、か。」
「ならば、この場はリーシア王姉に任せ、ラルーシファ王と、その“教育係”や“お世話係”に、ルファザ侯爵、ルシム大公が、赴くのがよかろう。」
「おっと、お前もな。」
“マンティコアのラバス”に〝ふッ〟と笑みをこぼしたラドン陛下が、
「念の為、我も一緒に渡ろうぞ。」
真顔となられた。
そこから、
「では。」
「万が一に備え、武器と防具を装着しておきましょう。」
このように侯爵が提案する。
▽
……、数分後。
“片目のベルーグ”と共に、ラバスに[装備品]を着けてくれたリィバが、
「よし。」
「できましたよ。」
「それでは、ラルーシファ王、乗ってください♪」
〝ニコニコ〟しだす。
ラバスの[鎧]は、ドワーフ族による改良で、[鞍]に[鐙]と一体化していた。
「いや、それは別にいいんじゃ??」
抵抗を試みる僕を、
「まぁまぁ、そう仰らずぅ~。」
リィバが勧める。
僕の教育係&お世話係はもとより、ラバスまでもが、期待の眼差しを向けてきた。
断れそうにない雰囲気だったので、跨ってみる。
そうしたところ、リィバ達が〝おぉ―☆〟と瞳を輝かせた。
何故かしら“妹のエルーザ”まで。
なんだか、とっても、恥ずかしい。
早く去りたい僕へと、
「無事に戻って来てください。」
“天空人のアンヌ”が声をかけてくれる。
思いがけなかったことに対し、
「う、うん。」
「必ず。」
嬉しくなる僕だった…。
▽
捕虜のなかでも50歳前後の女性によって、邸宅の敷地内に【瞬間移動】する。
[正面玄関]を“獣人のユーン”が開けようとするも、鍵が掛かっているみたいだ。
「破壊して構わんのでは?」
このように意見なさった竜王に、
「まぁ、そうですな。」
大公が賛成する。
月明かりの下、
「でしたら、ボクが。」
[弓]に矢をセットして、弦を引き、
「風の精霊よ、盟約に応じ、助力すべし。」
リィバが唱えた。
玄関からユーンが離れたところで、リィバが[矢]を射る。
直径25㎝くらいの[風の渦]を纏ったそれは、[木製の扉]の中心を貫いた。
そうして、僕たちは邸宅へと踏み込んでゆく……。
▽
[1階エントランス]に居た二人の兵士が、
「え?? 魔獣?」
「なんだ?? お前ら?」
各自、驚いている。
左右の廊下からは、応援の兵が、三人ずつ走ってきた。
それらを、あっという間に“ベルーグ/細長眼鏡のマリー/お世話係の5名/大公”が倒す。
殺してはいない。
負傷させただけだ。
個別で[アイテムボックス]に入れていたらしい縄で、守兵らを縛っていく。
こうしたところに、2階の[右側の廊下]から〝ズカズカ〟と歩いてきた男性が、
「何事だ??!」
「騒々しい!!」
怒鳴りつけてきた。
中肉中背で、[ワインレッドのガウン]を着用している。
後ろには、五人ほどの兵が見受けられた。
僕らを連れてきてくれた女性が、
「サルバ閣下です。」
そう伝えてくる。
「お任せを。」
ユーンが述べるなり、階段を一気に駆け上がった。
結構なスピードで距離を詰める“黒猫の獣人”に、子爵達が戸惑う。
ジャンプしたユーンが、子爵の左顔に〝右の蹴り〟を炸裂させる。
「ぶばッ?!」
吐血しながら[壁]に右側面を打ち付けた子爵は、全身が〝ズルズル〟と落ちていった。
着地したユーンが、籠手に付属している[鉄の爪]を子爵に突きつけて、
「攻撃してきたら刺しますよ。」
五名の兵士に告げる。
これによって、両手を軽く挙げ、降参する兵たちだった―。




