第147話 進退①
深夜のことだった。
何処からか突如として現れた数百の兵隊が、野営地に突撃してくる。
こちらの陣営の見張りたちが応戦するも、数が少ない。
そこへ、いろんな[テント]から仲間の兵士が次々に出てきた。
各自、鎧などは軽装で、何かしらの武器を手にして。
乱闘になっていくなか、僕は戸惑っている。
左隣では、“マンティコアのラバス”が身構えていた。
こうしたところに、
「ラルーシファ様!!」
“黒猫のユーン”を先頭にした“お世話係の獣人達”が駆けて来る。
別の方角からは、“教育係一同”が走ってきた。
“魔術師のレオディン”は寝ぼけ眼みたいだけど。
それだけでなく、外には主だったヒトたちも見受けられる。
“リーシア姉上”が、
「1人だけ馬に乗っているのが指揮官でしょうね。」
「ただ…、ここからだと遠めだから矢は届かないだろうし、魔法や神法は味方を巻き込みかねない。」
「困ったわね。」
こう喋られたところ、僕達の背後から、
「ならば我に任せよ。」
“ラドン竜王陛下”が、述べられるなり、頭上を飛んでゆく。
結構な速さで、一直線に。
そのままの勢いにて、右手に握っている[大剣]で、隊長らしき男性の左胸を突いた。
急には止まれなかった様子のラドン陛下は、司令官が刺さった状態で暫く進んだ。
馬を置き去りにして。
宙で〝ピタッ〟とストップし、ゆっくりと回れ右した竜王が、剣を振り下ろす。
これによって、隊長が地面に叩き付けられる。
そこから〝すぅ―ッ〟と息を吸い、
「敵将! 討ち取ったぁ――ッ!!」
こう告げられるラドン陛下だった。
味方が喜びを表すなか、“謎の集団”は愕然としている。
そこへ、いつの間にか上空に浮いていた“ヴァイアの三兄 ガオンさん”が、
「敵兵ども! 聞こえただろ?!!」
「お前らの大将は、竜王が倒した!」
「これ以上の争いは無益だ!!」
このように声をかけられた。
「りゅう、おう??」
「サウスト大陸の?」
「嘘、じゃなく??」
「本物か?」
「何故、ここに??」
といった感じで、ざわつきだす襲撃者達に、
「分かったら、おとなしく投降しやがれ!」
「さもなくば、皆殺しにすっぞ!!」
“ガオンさん”が宣告する。
敵兵は、全員が素直に従い、武器を捨てた。
そうして、後頭部に両手を添え、地に両膝を着いていく……。
▽
幾つもの[篝火]が風に揺れている。
僕らにとっての仲間の兵隊が“謎の集団”を取り囲んだところで、着地したガオンさんが、
「ざっと400はいるみたいだ。」
そう伝えてくれた。
なお、敵味方問わず、何名かが亡くなっている。
このような状況で、
「もしや、モガン子爵の手の者らか?」
“ルファザ侯爵”が問い質すと、揃って俯いた。
そうした襲撃者たちの後ろから、
「何を黙っておる??!」
「一人残らず拷問にかけられたいかッ!!?」
ラドン陛下が怒鳴る。
これに敵兵らが「ひぃッ!」と怖がった流れで、30代半ばあたりの男性が、
「わ、私が、おこ、お答え、します。」
「ので。」
「い、命、ばかり、は…。」
怯えつつ立候補した。
そして、今回の犯行について語りだす……。
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彼ら…、まぁ、女性もいるけれど、このグループは、侯爵の読みどおり“サルバ・モガン子爵”の配下たちだった。
急に集められたうえ、僕らが寝静まった頃を見計らって奇襲を仕掛けるよう指示されたらしい。
〝王国に反乱を起こそうとする不逞の輩どもがこちらに攻め込もうと企んでいる〟〝領境を越えられる前に討伐せよ〟と。
更には〝奴らのなかに子供がいたとしても容赦するな〟〝必ず息の根を止めろ〟とも言っていたそうだ。
ちなみに、この場所には【瞬間移動】で訪れたらしい……。
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“ルシム大公”が、
「つまり、子爵は嘘を吐いて出兵させた、という訳か。」
ふと呟く。
襲撃者らが〝キョトン〟としたところで、“リーシア姉上”が〝ズイッ〟と一歩前に出られ、
「あんた達、誰に刃を向けたか知らないみたいだから教えてあげるわ!!」
「こちらは、ダイワの新しい王、ラルーシファ陛下よ!」
そのように知らしめられる。
〝は??〟と理解できないでいる敵兵たちに、
「いいわ、説明してあげる。」
こう仰せになられる姉上だった―。




