第146話 逐日④
“ルファザ侯爵”が、
「正直、いくらかの不安要素は残っております。」
「まず、中立派の動きが分かりませんので。」
「先程の話しにあったように、ライニル殿下を支持しておる者らがいれば、とっくにラダン殿下に味方している事でしょう。」
「それと…、あちらも至る所に書状を出しているに違いありません。」
「此度の件に私などが反発すると睨んで、軍勢を増やすべく。」
このように述べられた。
「まぁ、やり手の“ラノワマ宰相”がいれば、それぐらいは既に終わらせているでしょうね。」
納得した“リーシア姉上”は、
「もしかしたら“国王派”や“ラル君を支持する人々”のなかで寝返りそうな者も勧誘していると、予想しておいたがいいかもしれないわ。」
そう指摘なされた。
「確かに。」
「ですが、ラルーシファ陛下の手紙が届けば、踏み止まるでしょう。」
「ただ、懸念すべきは、私の所と隣接している北の“モガン領”です。」
「あそこは長年に亘って中立を保ってきましたが、もし仮にライニル殿下の息が掛かっているとすれば、こちらと敵対するでしょう。」
「我々が王都に赴いている間に、留守を狙ってこの地に攻め込む危険性がございます。」
「あの領主に送った手紙には〝できればこちらと行動を共にするように〟〝難しければ今までと同様に中立を守るべし〟と認めておきました。」
「また、〝書状を受け取ってから24時間以内に決定を伝えること〟〝指定の場で待つ〟とも。」
侯爵が説明したところ、
「ふむ。」
「では、移動するかな。」
「“ラルーシファ王”よ。」
こう“ラドン竜王陛下”に促される……。
▽
侯爵お抱えの“男性魔術士さん”によって、全員が領境の南側に【テレポーテーション】した。
そこから、[テント]を張り直す。
僕などのぶんは、先日、ユーン達“お世話係”が[タケハヤ島の中央都市]で購入しておいてくれたらしい。
とにもかくにも。
僕とかは、どこかキャンプみたいな感じに少なからず〝ワクワク〟していた。
ちなみに、この世界では領地に統治者のラストネームが付けられる。
“僕とエルーザの祖父”の所であれば[ウィンスト領]だ。
その北側に接しているのが“サルバ・モガン子爵”の領土らしい。
年齢は41歳だとか。
こうした[子爵の邸宅]には、[ルファザ侯爵の屋敷]から〝徒歩で6日くらい、ペガサス便だと12時間ほどで到着できる〟そうだ。
途中で休憩を入れての計算で。
なお、祖父の[ウィンスト領]においては、東隣が“国王派”で、南と西は“僕の支持者たち”らしい。
ま、取り敢えず。
暫く暇になるので、のんびりする僕らだった…。
▽
夕方になっている。
“ルシム大公”のもとで働いている料理人の数名が、アシャーリーの教育係である“女性魔術士さん”の【瞬間移動】で、[館]より帰ってきた。
それらのメンバーは[アイテムボックス]を備えているため、[大公の館]で作ってもらったソフトパンを収納して戻ったらしい。
ここで生産するのは無理なので。
それと、まだまだ肌寒いため、こちらではアシャーリーを筆頭に[ビーフシチュー]が調理されてゆく……。
▽
食事となった。
[ビール]は数に限りがあるので、出されていない。
[ジュース]は振る舞われているけど。
[ソフトパン]や[ビーフシチュー]も含めて、初めてクチにしたヒト達が驚いたり興奮したりしている。
ある種の“お祭り騒ぎ”だ。
別に構わないけれどね。
割と楽しいし…。
▽
お風呂は[金属製で薄めの桶]だ。
地球で言うところの[ドラム缶]に近い。
これらが、幾つかの[専用テント]に設けられていた。
“マンティコアのラバス”は入れないので、野外に並べられた[簀子]の上で“ハーフエルフのリィバ”が洗ってくれる。
いつも、ありがとう。
変態だと思って、ごめん。
頭が良いのもよく分かったので、重ね重ね申し訳ない……。
▽
翌朝は、[ソフトパン/目玉焼き/ハム×2/コンソメスープ]だった。
いろんなヒトが再び歓喜する…。
小休止後、広めの場所で合同鍛錬を行なう。
その側では、エルーザが“教育係”と稽古していた。
こうした具合に僕らは過ごしていく……。
▽
僕の天幕内は、地面に敷物がある。
そこに[ベッド/小さめのテーブル/椅子]が置かれていた。
あと、館から[亜空間収納]で運んできた“ラバス用の寝床”も。
夜も遅くなっているため、必要最低限の見張り以外は眠っている。
熟睡していたところにラバスがおもいっきり吼えたので、僕はビックリして起きた。
「え??」
「どうした?」
困惑するなり、テントの外から、
「敵襲―ッ!」
「敵襲だぁ―ッ!!」
といった何名かの声が聞こえてくる。
これによって、慌てて靴を履き、天幕から急ぎ出る僕だった―。




