第145話 談論①
僕やアシャーリーにアンヌの“お世話係”が、大きな[テント]を設営してくれた。
この中に、“ルシム大公”が新たに[アイテムボックス]から取り出した[長テーブル]と[椅子]が置かれる。
皆の勧めで僕は上座に腰かけた。
椅子は、全員ぶんはないので、“リーシア姉上/妹のエルーザ/大公/ルファザ侯爵”に、【神法】を扱えるメンバー&保護者が座る。
ただ、“セゾーヌの母親”は遠慮して、立っていた。
他の顔ぶれも。
“マンティコアのラバス”は、伏せているけれど。
あと、正直、手狭になっている。
それなりの人数なので…。
さておき。
「ルファザ殿。」
「説明を頼みます。」
大公に促され、
「それでは、僭越ながら。」
「……、現在、国内の南方や東方と西方の領主たちに、ラルーシファ陛下の署名と王印がなされた書状を、ペガサス便で配達させております。」
「あれは国際便ですが、緊急を要するので。」
「何せ、国内便のケンタウロスより早いですからな。」
こう切り出した“僕とエルーザの祖父”が、
「失礼。」
「いささか話しが逸れました。」
「本題に移らせていただきます。」
そのように前置きし、語っていく…。
侯爵によれば、まず、中央はラダン兄上派が多いみたいだ。
兄上の婚約者の父である“ラノワマ宰相”の影響もあって。
南方は、逆に、僕の支持率が高めなのだとか。
これは祖父である侯爵の存在によるものだろう。
東方と西方は、だいたいが中立もしくは国王派のようだ。
北方は、兄上に付いたであろうと考えられるらしい。
あちらに軍勢を率いて向かった兄上が謀反を起こしたので、〝協力を得たに違いない〟との推測だ。
また、中央は今ごろ兄上の派閥によって反対勢力が押さえられてしまっているとも、予想されていた。
そのため、中央と北方には[手紙]を出していない。
こちらのことが知られてしまうので。
……、侯爵の話しが終わったところで、
「つまり…、〝ライニル叔父上がラダン兄上に味方した〟という事よね??」
「ラグール叔父上ならいざ知らず。」
「意外にも。」
姉上が眉間に軽くシワを寄せられる。
「ん?」
「そうですか??」
「不思議でもなんでもありませんけど?」
首を傾げた“ハーフエルフのリィバ”に、
「え??」
姉上が瞼を〝パチクリ〟なされた。
ちなみに、僕らの父上が長男で、ラグール叔父上が次男、ライニル叔父上が三男だ。
ラグール叔父上は西方の一部を、ライニル叔父上は北方の一部を、それぞれに治めている。
なにはともあれ。
「ライニル公は、もともと陰険陰湿でしたよ。」
「本人は上手く隠しておられましたが、何名かは本性に気づいていました。」
「その1人がラグール公です。」
「ライニル公のことを〝姑息な奴〟と評していましたから。」
「逆に、ラグール公は、良くも悪くも開けっ広げな性格なため、誤解を受けやすかったですけれどね。」
「それによって、かつて国王であった父君、あー、お三方にとっては祖父君、に、地方へ飛ばされてしまいましたが。」
そう述べたリィバへ、
「となると……。」
「〝ラダン兄上はライニル叔父上にそそのかされて反旗を翻した〟という事かしら?」
姉上が訊ねられた。
「可能性は高いでしょうね。」
「何故ならば…。」
「1つ、ガーテル将軍が、北方で突然亡くなった。」
「2つ、そこから、ラダン殿下が謀反を決意した。」
「3つ、王都の守りが薄くなっている。」
「これらのことが挙げられますので。」
「おそらく、〝王にのみ忠誠を誓う〟としてきた将軍は、ライニル公にしてみれば邪魔でしかないので、消されてしまったのでしょう。」
「また、ラダン殿下が殆どの兵を連れて都を発ちもすれば、守備力が低下するというものです。」
「これらを踏まえ、〝北に隣接するスコーリ王国が攻め込んでくる〟というのは虚報だったと考えられます。」
「単に、ライニル公が、ラダン殿下と将軍を自分の領地に誘い込みたかったのではないでしょうか??」
「ライザー前国王と切り離すために。」
このようにリィバが喋ったところ、
「ちょっと待って。」
「それでいくと、〝ラノワマ宰相も怪しい〟という事にならない?」
「将軍を兄上の補佐に推薦したのは宰相なのだから。」
姉上が別の疑問を投げかけられる。
「ええ。」
「多分、ライニル公と宰相は、水面下で繋がっていたのでしょう。」
「いつの頃からか。」
肯定したリィバを、
「いや、しかし、ラノワマ宰相は、かつてラルーシファ陛下が城の庭で襲われたとき、身代わりとなって毒矢に刺されていましたが??」
“隻眼のベルーグ”が窺う。
「それは自作自演、だとしたら、どうです?」
そうリィバが返すと、
「成程!」
「あり得るわね。」
反応なされた姉上が、
「あの当時、私や、ラル君の派閥の者たちは、宰相に目を付けていたわ。」
「勿論、父上も。」
「〝暗殺を画策した黒幕なんじゃないか??〟って。」
「それに勘づいた本人が誤魔化すために一芝居打ったのは否めないわね。」
こう結論づけられた。
その流れで、
「もしかして。」
「中立を保ってきた人々は〝実のところライニル叔父上を支持している〟のかしら?」
姉上が呟くようにして誰ともなくお尋ねになる。
「ま、全員ではないでしょうけどね。」
このように答えたリィバに、
「だとしても、あちらの兵数のほうが上回っているのではありませんか??」
今度は先生が質問なさった。
それに対し、
「大丈夫ですよ。」
「ルファザ侯爵が手を打っておられますから。」
「各領主へ、書状で。」
リィバが〝ニッコリ〟と微笑んだ―。
 




