第144話 漸進③
作業を終えたところで、“僕/リーシア姉上/妹のエルーザ/ルシム大公”が、“ルファザ侯爵”と[謁見の間]に向かう。
あと、手紙などが乗せられている[高級感のある四角いトレイ]を持った屋敷の給仕が4人ほど。
他の面子には[広間]で休憩してもらっている…。
▽
僕らが[謁見の間]に入るなり、待機していた二人の男性が跪いた。
どちらも50代前半みたいだ。
椅子に座るよう僕に勧めた侯爵が、
「すまない。」
「待たせた。」
男性達に声をかける。
各自、
「いえ。」
「大丈夫です。」
と答えたところで、
「こちらはラルーシファ新国王陛下と、リーシア王姉殿下にエルーザ王妹殿下であらせられる。」
そのように告げた。
〝は??〟と意味が分からずにいる双方に、ラダン兄上の謀反などについて、侯爵が簡略的に説明していく……。
▽
「そういう訳で。」
「これより、そなたらに書状を渡す。」
侯爵の合図にて、給仕たちのうち二名が、数十枚の手紙が乗っている[お盆]を、個別に運ぶ。
「頼んでおいたように、すぐにでも方々にペガサス便を出せるな?」
こう尋ねた侯爵へ、
「勿論でございます。」
「いつでも配達させられます。」
男性たちが会釈する。
そうした二人は、どちらも、この町の[郵便局長]なのだそうだ。
1つは北西区に、もう1つは南東区に、店舗があるらしい。
それぞれ[小規模のアイテムボックス]に書状を収納した局長らに、今度は別の給仕達が[トレイ]を持って近づく。
これらには[コインが詰められた革袋]が乗せられていた。
「事前に伝えおいた料金だ。」
「約束どおり通常の倍はある。」
「これより先は一分一秒を争うことになろう。」
「我らの未来が懸かっておる故、滞りなく務め上げよ!」
そのように侯爵が述べると、全てを理解した二人が、
「はい!!」
「必ずや!」
揃って誓う。
▽
郵便局長たちが去った後…。
僕らは屋敷から出ている。
玄関あたりにて、
「留守を頼んだ。」
侯爵に声をかけられ、奥さんと孫たちが頷く。
この流れで、お抱えの男性魔術士によって【テレポーテーション】する僕らだった。
ちなみに、屋敷で働いている料理人の三割が伴われている。
補足として、[大公の館]からはコックの半分が連れてこられていた。
とっくにラドン竜王陛下達と町の外へ【テレポート】したけど。
大公の長男にあたる“ルーザーさん”とその家族が館に帰っているため、[港町スブキィの屋敷]にいた料理人や給仕などの全員もまた戻っている。
なので、半数が一緒に来たところで問題ないそうだ。
経緯としては……、戦や長旅のときの食事は[硬いパン/干し肉or干し魚/薄味のスープ]が殆どらしい。
お馴染みのメンバーは[アシャーリーとセゾーヌの調理コンボ]によって舌が肥えてしまっている。
〝そうしたヒトたちがやる気を失くさないように〟との考えで、[大公の館]から何名かのコックがお供させられたのだった…。
何はともあれ。
平原に、何百かの[テント]が設営されている。
こちらに小走りで寄ってきて、正面で止まった兵隊が、
「陛下と両殿下に御挨拶を!!」
先頭の40代半ばくらいの男性による号令で、一斉に片膝を着く。
「この者達は、我が町の兵士です。」
「今回は急なことだったので、100名しか動員できませんでした。」
「もう少し準備期間があれば、5倍から6倍は召集できたのですが……。」
そのように語った侯爵に、
「儂の所も似たようなものです。」
「中央都市の兵を十分の一だけ同行させるのが限界でした。」
大公が続いた。
なお、ルファザ侯爵の町には1000人、ルシム大公の中央都市には2000人の、兵士がいるそうだ。
侯爵が治める[ウィンスト領]は総勢で1万ほど、[タケハヤ島全土]は20万ぐらいの、兵数になるのだとか。
[ダイワ王国]の規模では、およそ50万の兵が存在していると、かつて[隻眼のベルーグ]が言っていた覚えがある。
さておき…。
「儂の亜空間に入れてある天幕のなかで最も大きな物を張るとしましょう。」
「主だった方々と今後について話しをするのに使うため。」
こう提案する大公だった―。




