第136話 ターニングポイント①
背後に佇んでいる“ハーフエルフのリィバ”が、
「なんて書いてあったんです??」
「ライザー王の手紙には。」
そう訊いてきた。
振り返って、
「……、僕に、王位を譲る、らしい。」
このように教えたところ、
「なんと?!!」
目を丸くして数秒フリーズした“魔術師のレオディン”が、〝ハッ!〟とするなり、
「ラルーシファ陛下。」
床に片膝を着き、
「残り少ない年寄りではありますが、御君のため、粉骨砕身、働く所存にございます。」
お辞儀する。
それに倣い、教育係&お世話係の全員が跪く。
僕の左横に座っていた“ルシム大公”が、急ぎ床に膝を着いて、
「微力ながら、陛下の助けになれるよう、最善を尽くします。」
こう述べた事で、アシャーリー親子も跪いた。
「いや、その…。」
まだ継承するとは断言しきれず戸惑うところに、
「エル、貴女も立ちなさい。」
妹を促す“リーシア姉上”の声がする。
そちらに視線を送ってみると、姉上が起立していた。
この後ろでは、共に[館]へ訪れていたメンバーが、とっくに片膝を着いている。
そうしたなかで、“マンティコアのラバス”を撫でるのを止めた“エルーザ”が、椅子から〝ぴょん〟と飛び降りた。
ちなみに、姉上と妹はドレス姿だ。
どちらもリボンに[イズモ王家の紋章]が金糸で刺繍されていた。
さておき。
左胸に右手を添えた姉上が、
「どうか、父上を尊重し、その意を受けてください、新王。」
〝スッ〟と会釈する。
これに続き、同じポーズを取った妹も、
「ください!!」
頭を下げた。
「……、でも。」
踏ん切りがつかない僕に、
「ラル君、貴方にだけ重責を押し付けるつもりはないわ。」
「私達が、陰に日向に、必ず支えるから、お願い。」
「まずは、ラダン兄上に引導を渡し、海より深く反省させましょう。」
姉上が告げる。
その真剣な眼差しによって、〝ふぅ――〟と長めに息を吐きつつ覚悟を決め、
「分かりましたので、姿勢を戻し、ラクになさってください。」
「皆も。」
こう伝える僕だった…。
▽
各自が、椅子に腰掛け直したり、立ち上がった流れにて、
「ところで。」
「今後の計画案はおありですか?? リーシア王女、いえ……、王姉殿下。」
リィバが口を開く。
「あー、そうか。」
「これからは呼び方が変わるわね、確かに。」
〝ふむ〟と頷いた姉上が、
「まぁ、それはおいといて…。」
「いきなりダイワ王城に乗り込むのは無謀すぎると思うのよ、当然。」
「むこうは、私たちがいなくなっているのを警戒して、守りを固めているでしょうから。」
「〝それなりの軍勢を伴って敷地内に瞬間移動して来かねない〟って感じで。」
「だから、ひとまず、ラル君とエルの祖父を頼ろうと考えているの。」
そのように説明なされる。
「“ルファザ・ウィンスト侯爵閣下”ですな。」
「かの御仁は誠実な方だと聞き及んでおりますので、きっと大丈夫でしょう。」
「陛下がたを捕らえて、売り渡すような真似は、しますまい。」
レオディンの見解に、
「ええ。」
「それに、義を重んじる性格とのことだから、兄上による謀反を嫌悪するでしょう。」
こう姉上が語られた。
補足として、ルファザ侯爵の娘にあたるのが、僕とエルーザの母上だ。
名を“エルシファン”という。
そんな母と、ラダン兄上にリーシア姉上は、血の繋がりがない。
二人の実母は〝ダイワの東に隣接する国の王女だった〟そうだ。
何はともあれ。
「数年前、あちらのお祖母様が具合を悪くした事があって、エルシファン母上とお見舞いに行ったの。」
「ラル君はまだ1才ぐらいだったから、覚えていないだろうけど……。」
「あの時、瞬間移動で往復してくれた王宮魔術師は、昨年末に寿命で他界してしまったけれども、屋敷に関しては私が記憶しているから問題ないわ。」
「という訳で…。」
「早速出発しましょう!」
こう意気込む姉上の横で、妹がまたもやラバスを〝ナデナデ〟している。
なお、僕などの祖母は、今も存命だ―。




