第135話 急報②
「は??」
耳を疑った僕は、その場でフリーズしてしまう。
「ラル君が驚くのも無理はないわ。」
「私もそうだったもの。」
「いえ、どこかで、〝こういう時がくるかもしれない〟と薄々は思っていたのだけど…。」
“リーシア姉上”は少なからず後悔しているかのような表情で俯く。
若干の間を置いて〝スッ〟と顔を上げ、
「取り敢えず座りましょう。」
「ルシム大公、貴方も同席してちょうだい。」
このように姉上が促された。
「はッ。」
「かしこまりました。」
大公が会釈したことで、僕ら四名は円卓の席に着く。
僕の右隣では、“獣魔のマンティコア”が床で伏せをする。
「その子が“ラバス”ね。」
「さっきレオディンから聞いた。」
姉上が喋るなか、〝じぃ――っ〟とラバスを見ていた“妹のエルーザ”が、
「にぃさま。」
「ナデナデして、いい?」
そう僕に尋ねてきた。
「あー、うん。」
「大丈夫、だよな??」
念の為に確認してみたところ、〝ガフッ〟と頷いたラバスが、妹の側に寄る。
たてがみに触れたエルーザは、
「おぉー☆」
「ふさふさぁ~♪」
瞳を輝かせた。
なお、ラバスは定期的に[専用の石鹸]で洗ってもらっている。
主に、魔物や魔獣に詳しい“ハーフエルフのリィバ”によって、浴室で。
とかく…。
妹がラバスを撫でている間に、
「それじゃ、話すわよ。」
“ラダン兄上”の謀反について語りだす姉上だった……。
▼
事の発端は、去年の冬にあるらしい。
まず、[ダイワ王国]における北方領の一部を治めている“ライニル叔父上”から、お城に報せが届いたそうだ。
〝北に隣接するスコーリ王国が戦準備を整えているらしい〟〝年明けには国境を越えて攻め込んでくるようだ〟〝都から援軍を送ってもらいたい〟といった感じの旨で。
これによって、父上は将軍や各大臣を急ぎ招集したのだと。
そうして行なわれた評定には、兄上も参加していたらしい。
この会議で、兄上は〝自分が赴く〟と立候補なされたそうだ。
いささか渋る父上に、“ラノワマ宰相”が〝将軍を補佐役にすれば問題ありますまい〟と勧めたのだとか。
大臣のなかでも、兄上の派閥である人たちが、それに賛同したらしい。
こうして、兄上は、軍勢を率いて北へと向かった。
そこから暫くすると、[王城]に単身で戻って来た“男性魔術師”がいたそうだ。
彼によれば、“ガーテル将軍”が突然の病に倒れ亡くなってしまったのだと。
この流れで、兄上が、父上に反旗を翻した。
およそ三ヶ月に亘って隙を窺っていた男性魔術師は、ようやく【瞬間移動】を使って、[王都]に帰れたらしい。
そうして、彼が、これらの件を父上に伝えたそうだ。
ただ、その時にはもう、兄上の軍勢が都まで迫っていた。
このため、父上は、姉上と妹を[大公の館]に送り出したのだとか。
僕が居ることを告げて。
父上は、姉上がたと一緒に母上も逃がそうとしたものの、「陛下と共に残ります」と拒まれたそうだ…。
姉上の“元・教育係”のなかに、かつて冒険者だった頃、[南の港町スブキィ]に訪れた人がいるらしい。
おかげで、その近くに【テレポート】し、町から[ユニコーン車]で半月ぐらいかけて、ここに到着したのだそうだ。
幸いにも、道中、魔物や魔獣に遭遇せずに済んだとも。
ちなみに、ライニル叔父上は、父の弟で“三男”にあたる。
[スコーリ]は“セゾーヌ”の生まれ故郷であり、以前、内乱を起こしていた王国だ……。
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「それで?」
「父上と母上は、ご無事なのでしょうか??」
僕が尋ねたところ、
「分からないわ。」
「でも、おそらくは、もう…。」
首を横に振った姉上が、
「ちょっと待ってもらえるかしら?」
「ラル君に渡さないといけない物があるの。」
そう述べて、
「亜空間収納よ、開きなさい。」
[小規模のアイテムボックス]を出現させる。
ここから姉上が幾つかの品を[テーブル]に置きだすと、
「それは!」
「もしや。」
大公が反応を示した。
「ええ、“王印”よ。」
「他に“印璽”と“宝物庫の鍵”を預かってきたわ。」
そう説明なされた姉上が、
「あと、これも……。」
[二つ折りにされた手紙]を、僕に差し出される。
内容に目を通してみたところ、
余は、子らのなかで次男に王位を譲るものとする。
ラルーシファはこれを謹んで受けよ。
民を、国を、忠臣を、家族を、そなたに託す。
第二十八代ダイワ国王 ライザー=イズモ
このように書かれていた。
紙の右下には、[王印]で判が押されている―。




