第129話 森林での攻防戦③
“|ヴァイオレントタートル《暴力的な亀》”の正面で伏せた“マンティコアのラバス”が、口から【火の玉】を放つ。
それが直撃して燃えたことで、魔物が慌てたように頭を出した。
この右側から、“片目のベルーグ”が[ロングソード]を振り下ろし、亀の首を斬る。
“ルシム大公”は、別の個体の首に[バトルアックス]を払う。
残りは“トラヴォグ公爵”が[ウォーハンマー]で殴打する。
頭部を狙って。
なお、三者ともに返り血を浴びていた。
それらの血液は、紫色だ…。
▽
合計六体の“ヴァイオレントタートル”を回収し終え、
「父上。」
「闇雲に歩いてもロードを発見するのは困難だと思うのですが、何か手掛かりはあるのですか?」
“ルムザさん”が大公に尋ねる。
「ギルドマスターによれば、冒険者たちが最後に遭遇したのは、ここから5分ほど北東へ進んだ所あたりらしい。」
「ま、とっくに移動しておるだろうがな。」
このように大公が答えたところ、
「ならば、皆さんは少し待っていてください。」
“ドォーゴ王子殿下”が翼をはためかせる。
そうして、森の上に出ると、北東へ飛んでいった。
……、2分ほどが経ち、ドォーゴ殿下が南東から戻って来て、着地する。
「あちらで、ロード級らしき魔物などが戦闘を行なっています。」
ドォーゴ殿下の報せによって、
「では、そちらを目指すと致しましょう。」
このように告げる大公だった……。
▽
南東へ3分ぐらい歩くと、新たに開けた場所が見えてくる。
池が在った地帯より広そうだ。
確かに、“モンスターの群れ同士”が激突していた。
「“バローボア”と“ウォリアーベア”みたいですね。」
そう述べたのは、“細長眼鏡のマリー”だ。
およそ4Mの“バローボア”は八頭いるようだった。
赤毛の“ウォリアーベア”は、全部で五体だ。
熊は各自でヴァイキングみたいな甲冑を装備しているけど、武器は持っていない。
これらのうち四頭は約6Mの背丈で、一体だけ10Mありそうだ。
ちなみに、森の木々は20Mある。
あと、六匹の猪に、三頭の熊が、倒れたまま流血していた。
そうした魔獣達の血は、赤い。
なにはともあれ。
「最も大きいのがロードに違いないでしょうから、私が引き受けます。」
ドォーゴ殿下が自薦したところで、バトルを行なっていたモンスターらが、一斉に〝ピタッ〟と動きを止める。
どうやら気配を感じたらしく、僕たちのほうに顔を向けた。
次の瞬間、こちらに突進しだす。
“バローボア”も“ウォリアーベア”も、巨躯なうえに、結構なスピードのため、迫力がある。
距離を詰めて来る計十三体の魔獣に、僕などの子供は恐怖と緊張が走った。
こうしたなか、ドォーゴ殿下がモンスター集団へと飛行する。
狙われているのを察したらしい“ロード”は、二本の後ろ足で立ち上がり、雄叫びをあげた。
一方で、長めの詠唱は時間が掛かるため手遅れになると判断したのか、
「天より集いて形成すべし。」
「煌めく玉よ、自由を奪え。」
「サンダー・ボール!」
“魔術師のレオディン”と、
「彼方に在りし結晶よ。」
「冷たき力を、この手に捧げ、我が前に現れろ。」
「アイス・アロー!!」
“魔女さん”が、【低級の魔法】を放つ。
それらがヒットして負傷したモンスター達は、動きを止める。
けれども。
すぐにダッシュを再開した。
【雷】で痺れているはずの面子までもが。
僕ら子供の盾になろうと、“近距離戦型の大人たち”が最前に出る。
ドォーゴ殿下は、“ウォリアーベアロード”が振るう右前足を、[ハルバード]で弾く。
こうして、無防備になった熊の喉元を[武器]で刺す。
ロードが仰向けで崩れゆくなか、“大公/トラヴォグ公/ベルーグ/マリー/ユーンなどの獣人族5名/アシャーリーの教育係のうち2名/アンヌの母親ザベルさん”が体当たりされる。
それらのメンバーは、派手に転倒して、吐血した。
魔獣らが態勢を整え直しだしたところで、
「王子がた!!」
「戦ってください!」
「今よりも強くなるために!!」
珍しく厳しめに言葉を発する“ハーフエルフのリィバ”だった―。




