第120話 山岳での攻防戦①
“魔術師のレオディン”が、
「冥界の深淵より淀みを引き寄せん。」
「我が呼び声に応じて、出でよ混沌。」
「秩序を歪め、敵対せし者らに嘆きを与えるべし。」
詠唱を行なっていた。
見れば、[マジックワンド]を掲げている。
こうして、宙に“直径4Mの魔法陣”を構築した本人が、
「念のため全員しゃがんでくだされ!」
僕らを促す。
誰もが急ぎそのようにするなか、危険を察したらしい“ワイルドモモンガ達”が木々から一斉にレオディンめがけて飛んだ。
ほぼ同時に、
「デッドリーポイズン!!」
【猛毒の魔法】を発動する。
勢いよく真上に噴射された【紫色の霧】が、空中で広がっていく。
まともに浴びた約15匹のモンスターは、地面に落ちて、もがき苦しむ。
〝ふぅ―〟と安堵の息を吐いて、
「それでは、皆さん。」
「止めを、お願いします。」
僕たちに声をかけるレオディンだった…。
▽
それからは魔物に遭遇する事なく、三合目を通過して、四合目に来ている。
なお、相変わらず雑木林が続いていた。
太陽の位置からして、今いるのは、山の東あたりだろう。
こうした所で、モンスターの気配を感じ取った“マンティコアのラバス”と“お世話係の獣人達”が、知らせてくれる。
僕らが足を止めて構えた数秒後、前方より“アルミラージの群れ”が現れた。
およそ18羽といったとこだろう。
「ひとまず、接近戦といきますかね。」
“隻眼のベルーグ”による提案で、僕は[ダガー]を握っていた両手に力を込める。
そこから、魔物たちとのバトルが展開されてゆく。
飛び跳ねてくるアルミラージを、ラバスが“右の前足”を払って左に弾く。
この一撃で敵は絶命したみたいだ。
戦闘に慣れている顔ぶれも、余裕で対応している。
僕は[剣術]が“弐”になっているので、以前よりも動き良くなり、振り下ろした[ダガー]で魔物を斬ることができた。
まだ“壱”だった頃は、躱されがちで、武器が当たるのに時間が掛かっていたけど……。
そうしたなか、バトルが初体験のアンヌは、少なからず躊躇っている。
ここへ、モンスターの1匹が、ツノから【雷】を発した。
ヒットされてしまったアンヌは、ダメージを負うのと共に、ちょっとした感電によって軽めに痙攣する。
そこに、別の魔物がジャンプした。
ツノでアンヌを狙っているようだ。
彼女の側にいた僕は、
「危ない!」
咄嗟に片手で[短剣]を突き出す。
これが“首の左側”に刺さったアルミラージが、倒れる。
先ほど【サンダー】を用いた一角兎は、アンヌの従姉妹にあたる“レミンさん”が[スピア]で仕留めた。
それらの間に、アンヌの母親である“ザベルさん”が、
「神域より叡智の結晶を喚び起こさん。」
「奇跡の波動よ、苦痛を消し去れ。」
「ディスオーダー・リカバリー。」
光属性の【異常回復】を施す。
痺れの解けたアンヌが、
「すみません、助かりました。」
ザベルさんに伝えた流れで、
「日之永く…、ラルーシファ王子。」
「ありがとうございました。」
僕にも会釈してくれる。
彼女に感謝されて、
「あ、いや、うん。」
「無事で、良かった。」
いささか照れる僕だった。
ちなみに、“ハーフエルフのリィバ”は[弓矢]で前線を援護してくれていたけれど、レオディンは出番がなかったみたいだ……。
▽
大人たちがモンスターを[アイテムボックス]に収納し終えてから、改めて進んでいる。
道は途中で北西方角へと曲がっていた。
これに逆らわず、山を登る。
五合目を越え、六合目に達した。
暫く歩いたところで、ラバスやユーンなどが再び報せてくれる。
すると、幾つもの木々から20数ぐらいの魔物が素早く下りてきた。
そうして僕らを囲んだのは、1M大の“一角栗鼠”だ。
“細長眼鏡のマリー”が、
「“ラタトクス”ですね。」
このように述べる。
更にはリィバが、
「王子、アンヌ嬢。」
「ラタトクスはアルミラージよりも速度があるので、今のお二人には神法のほうが有効的だと思います。」
「武器を使うよりも。」
そう教えてくれた。
ユーンの指示で、お世話係のうちの4人が、モンスターを刺激しないよう、ゆっくり後ろに移動する。
レオディンとリィバに助力するため。
魔物たちは、様子を窺いながら〝ジリッ ジリッ〟と僕らとの距離を詰めだした。
「彼方に在りし結晶よ、この手に冷たき力を捧げ、我が前に現れろ。」
レオディンが【低級魔法】を唱えていったところ、全てのラタトクスが息を合わせて突撃してくる。
「アイス・アロー!!」
25本の【氷の矢】をレオディンが後方に扱うなか、
「ホーリー・ボール!」
アンヌと、
「ウィンド・アロー!!」
僕は、【聖玉】に【風の矢】を前方へと放った―。




