第12話 不測②
[ロングソード]を抜いて、鞘を捨てた“ベルーグ”が、四人組へと走りだす。
こちらに駆けて来ていた“黒ずくめ達”のうちの一人が、ベルーグの右側を通過しようとする。
ベルーグは〝右目が見えない〟ので、それを狙ったのだろう。
「こいつ!」
すぐにベルーグが対応しようとした。
ここへ、残りの三人が襲い掛かる。
動きを察したベルーグは、
「ふんッ!!」
剣を右から左に払って、牽制した。
ベルーグたちが睨み合うなか、その一人が、僕と“ラノワマ宰相”に近づこうとする。
焦った僕は右手を突き出して直径50㎝の【神法陣】を構築し、
「アイス・アロー!」
25本の【氷の矢】を放った。
けれど、一足早く右に躱されてしまい、殆どが外れる。
それでも、右の胸あたりから太ももに掛けて、10本ぐらいが命中したらしい。
【アイス・アロー】は、対象者に刺さるなり、1本ごとに直径10㎝の範囲が〝ピキピキィ〟と凍り付き〝パリンッ!!〟と割れる仕組みだ。
これによって、敵は、軽めではあるけども血を噴射しながら、仰向けに転けた。
ちなみに、[低級魔法]だと1本につき直径5㎝の範囲が凍る。
とかく。
【氷の矢】がヒットした“黒ずくめ”から割と近い位置に居るベルーグが、それに気付き、ソードで首を刺す。
この背中に、三人が飛び掛かるも、
「甘ぇッ!」
ベルーグが反転するのと同時に、今度は左から右に剣を振るう。
それによって、三人とも腹部が斬れる。
特に左端の敵は深手を負ったみたいだ。
三人が倒れるなか、城内から十人ほどの兵士が走ってきた。
こうしたタイミングで、僕の視界に“別の黒ずくめ”が映る。
いつの間に訪れていたのか、先ほど[弓矢]を使った敵の左隣に佇んでいた。
しかも、黒い柄に“白色のクリスタル”が付属している[魔法の杖]を用いて、何やら〝ブツブツ〟と唱えている。
既に、直径1Mはありそうな[ブルーホワイトのマジックサークル]を形成していた。
規模としては[中級]に間違いなさそうだ。
なんだかヤバイ気がした僕は、
「伏せてぇえッ!!」
ベルーグと兵達に告げる。
彼らが慌てた様子で“うつ伏せ”になるなか、魔術士が直径1Mでホワイトイエローの[球体]を放った。
焦った僕は、急ぎ、[神法陣]を展開して、
「エクスプロージョン・ボール!」
直径50㎝ではあるものの同じ色の[球体]を飛ばす。
双方の【爆発の玉】が、宙で直撃する。
それによって、大きめの音と共に、爆風が巻き起こった。
誰もが驚き固まっているなか、黒ずくめ集団の六人のうち四人が逃げて行く。
「このッ!!」
立ち上がったベルーグに、
「待って!!」
「宰相が!」
僕は声をかける。
ラノワマ宰相は、地面で左向きになって、脂汗を掻いていた。
更には、呼吸が乱れていて、かなり苦しそうだ。
「皆はアイツらを追ってくれ!!」
こう兵士に指示したベルーグが、僕たちに駆け寄る。
地に両膝を着き、宰相を仰向けにしたベルーグは、
「暫し、ご辛抱を。」
そのように述べて、矢を抜くなり、
「開け、亜空間収納。」
[アイテムボックス]から“透明の小瓶”を取り出した。
中身の液体はイエローグリーンだ。
栓を抜き、
「飲ませるのは難しいか…。」
こう判断したベルーグが、傷口に液体を垂らしていく。
そこへ、
「ラル君!」
「何事!!?」
リーシア姉上が走ってくる。
この傍には、ガタイの良い50代前半の男性が居た。
天然パーマの髪をオールバックにしており、立派な鼻髭を貯えている。
基本的に黒い髪と髭には、白い毛が入り混じっていた。
彼は、姉上に[歴史]と【武術】を教えている元冒険者だ。
それなりに離れた後方には、ユーンを筆頭に僕の“お世話係一同”が見受けられる。
彼女らの反対側より、
「如何した??!」
将軍と大臣達を伴った父上が、早歩きで向かって来た。
こうした最中で、ゆっくり上半身を起こしたラノワマ宰相が、
「うッぐッ!!」
顔を歪める。
「まだ毒の影響が?」
そのように窺ったベルーグに、
「いや、そっちは、もう、問題ない。」
「傷口が痛んだのだ。」
宰相が答えた。
「ならば、“治癒ポーション”を渡しましょう。」
ベルーグが述べたところ、
「私も持っているから大丈夫だ。」
こう返したラノワマ宰相が、
「亜空間収納、解放。」
白銀色で小規模といった[楕円形の渦]を出現させた。
僕らの側に全員が集まる流れで、横たわっている“二人の黒ずくめ”に視線を送った父が、
「また襲撃してきたのか??」
眉間にシワを寄せる。
ラノワマ宰相が[透明の瓶]から“スカイブルーの液体”を飲むなか、国王に跪いたベルーグが経緯を説明していく……。
▽
爆発音が聞こえていたらしく、新たに五十人の城兵が訪れている。
「明るいうちから堂々と…。」
「虚仮にしおって!」
怒りを露わにした父上が、
「コヤツラを地下牢に」と言いかけた瞬間、“二人の黒ずくめ”の近くに幾つかの道具などが自然と現れた。
それらは、[アイテムボックス]に納められていた品物らしい。
これは〝所有者が亡くなった際に起こる現象〟なのだと、かつてレオディンが僕に教えてくれていた。
ただし、[亜空間収納]のスキルを持ち合わせていない者もいるので、誰にでも当てはまる訳ではない。
立ち上がった宰相が、
「絶命してしまったとなれば、もはや情報を得るのは不可能です。」
「これからの対応も含めて、取り敢えず評定を行ないましょう。」
王に進言する。
〝うむ〟と応じた父は、
「然るべき場所に死体を移して、燃やしておけ。」
「腐敗すると伝染病が蔓延しかねんからな。」
待機している兵士たちを促した。
「ラルーシファ殿下とベルーグのお陰で助かりました。」
「ありがとうございます。」
お辞儀したラノワマ宰相に、
「こちらこそ、ありがとう。」
僕も礼を述べる。
「それでは、これにて。」
改めて会釈した宰相は、父上らと一緒に去っていく。
父達を眺めながら、
「まさか、ラノワマ宰相がラル君を助けるとはね。」
リーシア姉上が呟いた。
「自分も意外でした。」
頷いたベルーグに、
「そういえば、宰相を警戒していなかった?」
僕が確認したところ、
「ええ。」
「数日前にラルーシファ殿下を狙った暗殺未遂の黒幕は、あの男だとばかり思っておりましたので。」
そのように喋りながら、苦笑いする。
これに対し、
「私もよ。」
そう告げて、目を細める姉上だった―。




