第116話 従魔①
小瓶の蓋を開けた“ハーフエルフのリィバ”が、マンティコアの怪我している箇所に、[上級ポーション]を優しく掛けてあげた。
「……、ふむ。」
「血は完全に止まりましたね。」
「傷跡は残りますが、まぁ、支障はありませんよ。」
リィバが全員に伝えたところで、
「さて。」
「〝このマンティコアをどうするか〟ですが…。」
「確かにラルーシファ殿下に敬服しているので、従魔になされてよろしいかと思います。」
「ただ、その場合はいくつか手を打たねばなりませんがな。」
「〝野に返す〟という選択肢もありますが……、如何なされます?」
このように“ルシム大公”に訊かれる。
「じゅうま??」
僕が首を傾げたら、
「そう言えば、まだ、そこら辺に関しては授業していませんでしたね。」
「では。」
「この機会に、お教え致しましょう。」
眼鏡の中央を、右の中指で〝スチャッ〟と上げた“マリー”が、
「知能が高い魔物達のなかには、人間などに服従する者もいます。」
「そこのマンティコアみたいに。」
「こうした魔物らに“契約の証”を与えるのです。」
「なにせ、町中とかで普通に生活する事になるので、多くの人々が混乱に陥りかねません。」
「それによって〝誰かしらが飼っていた魔物が兵士や冒険者などに殺害されてしまう〟といった騒動が過去に何度かあったそうです。」
「これらを未然に防ぐため、分かりやすい形で示すようになりました。」
「例えば、郵便局に勤めているケンタウロスが嵌めている腕輪が、それになります。」
「ペガサスやユニコーンは、前足に1つ、後ろ足にも1つの、計2つです。」
「これによって〝危険性はない〟と周囲に理解してもらうべく、その昔、国際的に取り決められました。」
「そうして、いつしか“従魔”と呼ばれるようになったのです。」
そのように説明してくれた。
かつて見たことがあるユニコーンなどの[契約の証]に、
(あー、あれか。)
と僕は納得する。
確か、なんらかの模様が彫刻されている[銀の装飾品]だった。
「あのぉー。」
「郵便や馬車以外の従魔は、どの国でも当たり前に存在しているんですか?」
こうセゾーヌが尋ねたところ、
「いい質問ですね。」
微笑んだマリーが、
「“人間、ドワーフ、エルフ、天空人”、これらの国々では少ないみたいです。」
「一方、“獣人、竜人、鬼人”の所は〝珍しくない〟と聞き及んでいます。」
「特に“魔人”と“ダークエルフ”の国は多めのようです。」
そのように語った。
こうした流れで、
「“契約の証”はトラヴォグ公爵に依頼するとして…、何処で用を足させるかだな。」
「……、ひとまず、庭の一ヵ所に穴を掘って、そこを使わせるか。」
「その間に、この都市の専門業者に便所を作らせるとしよう。」
独り呟いた大公が、
「ラルーシファ殿下の事を内密にするため、このマンティコアは表向き“大公家の従魔”とさせてください。」
僕に視線を送ってくる。
「うん、分かった。」
そう納得したタイミングで、
「じゃぁ、話しもまとまったことですし。」
「名前を付けてあげてください、王子。」
リィバが〝ニコニコ〟しだす。
「え??」
「僕?」
突然の提案に戸惑うも、
「殿下が主になられる訳ですから、それが道理というものでございましょう。」
このように“魔術師のレオディン”に促され、考えざるを得なくなってしまった。
(ん~、どうしよう??)
(マンティコアを略して、マンティ?)
(いや、安直な気がする。)
(…………。)
(ライオン、バット、スコーピオン、それぞれの頭文字を取ってみるとか??)
悩んだ結果、
「ラバス、でいいかな?」
念の為マンティコアに声をかけてみる。
そうしたら、
「ガウッ!」
大きく頷いて応じたので、正式に採用する運びとなった―。




