第114話 訳柄⑤
以前、“細長眼鏡のマリー”に授業で教わった事がある。
この世界の鉱石類は、大きさによって違いはあるものの、半月から百年ぐらいで何度も生まれてくるらしい。
つまり、〝掘り尽くすことがない〟のだ。
それを踏まえたうえで、[オリハルコン]と[ミスリル]は浮遊島にしか存在していないとも。
年に1度、一ヶ月しか着水しない[カルスム王国]は、これらの鉱石を目当てにしたヒト達が、貿易のため集まってくるらしい。
とは言え、[オリハルコン]や[ミスリル]を武器/防具/装飾品に加工できるのは、“通常のドワーフ”と“ハイドワーフ”の職人だけなのだとか。
また、錬金術を施せるのは“通常のエルフ”と“ハイエルフ”のみだそうだ。
このため、購入者の多くは、ドワーフ族らしい。
なかでも、北西の[ノウエスト大陸]に在る“ドワーフの王国”に流通しやすいようだ。
それは、先生などの[サウスト大陸]とは異なる。
一方で、ドワーフ以外の他種族のなかにも買い求める者がいるらしい。
“ドワーフの職人”に割増しで売り付けるのを目的として。
こうした経緯で、“トラヴォグ公爵”の町では[オリハルコン]も[ミスリル]も希少みたいだ。
それらの理由もあって、トラヴォグ公は、山仲さ…、アンヌ一族と直に商売を行ないたいらしい。
アンヌの所は“あちらの大公家”だし、先生と僕らは“転生仲間”なので、融通を利かせてもらえる可能性はある。
何はともあれ。
「ビールとかいう代物とオリハルコンやミスリルを交換する事や、アンヌが週に一度こちらの鍛錬に参加させていただくお誘いの件は、やはり母に訊いてみないと、私の独断ではお答えしかねます。」
このようにアンヌの母親にあたる“ザベルさん”が告げた。
「では、また七日後にでも集まるということで、如何ですかな?」
“ルシム大公”の提案によって、場がまとまる。
「じゃぁ、私は、厨房に行きますね。」
そう述べたアシャーリーに続き、
「それでは、ボクらは庭に赴きましょうか、ラルーシファ王子、ヴァイア様。」
「フリント様は、こちらに残って、セゾーヌさんやアンヌ嬢の話し相手になってあげてください。」
“ハーフエルフのリィバ”もまた席を立つ。
こうして、“竜人の双子さん”も、僕たちと一緒に向かう。
個人的には、アンヌと同じ空間にまだまだ居たかったけれど、稽古だから仕方ない。
ちなみに、アシャーリーの料理は【スキルアップ】した事で、“作る速さ”も“味”も段階が1つ上がっている……。
▽
一週間が過ぎた。
今回、ヴァイアには、父である“ドォーゴさん”が付き添っている。
それと、天空人族に初めて見る女性がいた。
この80歳くらいの方は、ロングヘアーだ。
優しそうな雰囲気だけど、威厳も感じられる。
そうした女性が、
「娘や孫達がお世話になっています。」
「私は、ルレア=ルター。」
「カルスム王国の大公です。」
僕らに会釈した。
要は、アンヌなどの祖母にあたる人だ。
補足として、アンヌの、母親はセミロングで、“従姉妹のレミンさん”はボブショート、といった髪型をしている。
さておき…。
ルレア大公が、
「先日いただいた品々、とぉっっっっても、おいしゅうございました!」
〝パァ――ッ☆〟と笑顔になった。
この流れにて、
「それで、ビールというのは、どのような代物でしょうか??」
軽く首を傾げる。
「では、ひとまず試飲してくだされ。」
そう返したトラヴォグ公が、[アイテムボックス]を小規模で開く。
ここから、広間のテーブルに、[銀製のジョッキ]を三つ置いた。
それらは、既にビールが注がれた状態になっている。
今朝がた入れてきたばかりらしく、まだ新鮮なままみたいだ。
アンヌ以外の天空人が、
「それでは失礼して。」
ビールを何口か飲んで、
「これは……、“エール”とは比べものになりませんわね!!」
おもいっきり瞳を輝かせる。
こうして、商談に入るトラヴォグ公とルレア大公だった―。




