第111話 巡り会い⑤
僕たちは、“魔女さん”の【テレポート】で[大公家の館]に戻ってきた。
[庭]にて。
「あれで魔素は完全に消滅したのですか??」
先生が誰ともなく尋ねたところ、ヴァイアの次兄にあたる“ドゥーラさん”が、
「いいえ。」
「あくまで〝弱まった〟というだけですよ。」
「まぁ、それによって、あの地域では当分スタンピードは起きません。」
「ただ、魔素は世界中を巡っているので、いつかまた溜まっていきます。」
「何年後か何十年後か、あるいは何百年後か。」
「魔素は無作為に漂っているため、詳しいことまでは読めませんが…。」
このように教えてくれる。
そうしたところで、
「ラルーシファ殿下がた、子供達は先に広間へ赴き、ご休憩ください。」
「大人は、集めた魔物をリィバ殿に預けましょう。」
「解体を行なっていただきたいので。」
「欲しい素材があれば、遠慮なく言ってくだされ。」
“ルシム大公”が述べた。
これによって、僕らは、一旦、別れる……。
“子供グループ”は[アイスコーヒー]や[アイスティー]を飲みながら何かと話していく。
なお、今回、僕たちの【神法】や[戦闘スキル]に変わりはなかった。
事前に“ハーフエルフのリィバ”が説明してくれていた内容によれば、【魔法】は“中級”から、[戦闘スキル]は“参”からが、上がりづらいそうだ。
「神法も同じかもしれないですね」とも推測していた…。
▽
およそ一ヶ月が過ぎている。
夏が本格化し、だいぶ暑くなっていた。
屋外では蝉が忙しなく鳴いている。
そうした午後に、先生と“トラヴォグ公爵”が訪れた。
結構な数の[ビール]が完成したらしい。
あと、ヴァイアに“ラドン竜王陛下”も現れた。
この日に集まるのを予定していたそうだ。
「ひとまず分配しましょう」とのことで、大公/トラヴォグ公/ラドン陛下が[食堂]に足を運ぶ。
僕は、先生やヴァイアと一緒に[客間]へと移動した。
ちなみに、アシャーリーとセゾーヌは発酵具合をチェックするため[別館]に赴いている。
いつぞや、モンスター達を解体しているリィバに「作業を見学しますか?」と聞かれたらしいけれど、グロそうとの理由で断ったのだとか。
そんなリィバには、今度アシャーリーが沢山ポテトチップスを作ってくれるみたいで、とても喜んでいた……。
[南北の港町]では拡張に伴う工事などが着々と進んでいるみたいだ。
これに関連して、[宿屋]と[娯楽施設]で従業員を雇って研修を実施するらしい。
そのため、スタッフを募集している最中だそうだ。
あと、中央都市で営業している二つの[チキュウビストロ店]も順調とのことだった…。
▽
約一週間が経っている。
[ビール]はまだ市場には出回ってない。
品質は良いみたいだが、数が足りないらしい。
なので、現在は、大公家の大人たちが消費している。
かなり美味しそうに。
おそらく、竜王陛下やトラヴォグ公の所も似たようなものだろう。
こうした日々の、とある朝に、来客があった。
なんでも、北の港町に在る[チキュウビストロ・リジュフィース]で“例のカード”を貰ったらしい。
つまり、〝日本語が読める〟という事だ。
僕らが[広間]に行ってみると、3人の女性が起立した。
1人は三十代後半で、もう1人は二十歳くらいだろう。
残る1人は、僕などと同じ年齢に違いない。
3人とも、髪や眉は“ライトゴールド”で、瞳は“コバルトブルー”だ。
服は“純白のワンピースドレス”であり、胸元に“紋章”があった。
エンブレムは、“円の中に翼”といったもので、銀糸で刺繍されている。
そのうちの“セミロングヘアーの少女”が、スカートの左右を指で抓み上げ、
「突然の訪問、失礼します。」
「私は“アンヌ=ルクー”です。」
「前世では“山仲智美”という名前でした。」
お辞儀した。
これに、
「え??!」
僕は〝ドキッ!!〟とする。
一方で、
「学級書記の?」
呟くように質問したセゾーヌに、
「……、貴女が嶋川さんですか??」
山仲さんが軽く首を傾げた。
「いえ、私は吉野です。」
「クラスメイトだった…。」
「嶋川さんは、こちらの方ですよ。」
そうセゾーヌが紹介したところで、
「今は“アシャーリー=イズモ”です。」
嶋川さんも淑女らしく挨拶する。
理解を示した山仲さんは、僕へと視線を送り、
「日之永くん?」
こう確認してきた。
〝うん〟と答えたら、
「お久しぶりですね。」
〝ニコッ〟と微笑んだ。
その笑顔に、僕の鼓動が速くなる。
何故ならば、山仲さんは、僕が前世で片想いしていた相手だからだ。
こうしたところで、
「あの。」
「不躾で申し訳ございませんが……。」
「左胸の紋章は、天空人族のものではないでしょうか??」
“細長眼鏡のマリー”が聞いてみた。
「ええ、そうですよ。」
肯定した山仲さんは、一緒に来た女性達と顔を見合わせ、それぞれに頷く。
正面を向き直した山仲さんが、
「ご覧にいれますね。」
このように告げる。
そうした流れで、3人が揃って“白い翼”を背中に出現させた。
まるで天使みたいな山仲さんに、僕はまた恋してしまったようだ―。




