第104話 過ぎゆく季節のなかで⑦
[広間]にて。
「そういえば、特殊スキルの“気焔”だったっけ??」
「使った事ないよね?」
なんとなく僕が尋ねてみたら、
「あー。」
「あれは、自分より弱い相手にしか通用しない。」
「なので、これまでは控えていた。」
「だが…、渓谷の戦闘でいくらかは強くなっただろうから、次の実戦あたりで試してみる。」
そのように答えるヴァイアだった。
こんな感じで雑談すること約10分。
[別館]に渡っていたメンバーが、[本館]に戻ってきた。
“ルシム大公”を中心に、今後の事を軽く確認し合い、竜人族とドワーフ族が、それぞれの地元に【テレポート】する……。
▽
お昼は、大公が〝キラービーの蜜を用いた調理〟をアシャーリーに頼んだ。
結果、“フレンチトーストにハチミツを掛けたもの”が出てきた。
“キラービーの蜂蜜”は濃厚で、とても美味しい。
糖分などを摂取できて疲れが癒えていくようだ。
他にも、チーズ/トマト/きゅうり/ゆで卵/キャベツによる“サラダ”や、“フライドポテト”に、“冷製オニオンスープ”が、配膳されている…。
▽
二日が経った。
中央都市で展開する予定の[チキュウビストロ関連店]が、まだ定まらないそうだ。
幾つかの候補はあるものの、これといった決め手に欠けるらしい。
そうしたなか、“大公家の料理人”のなかで、噂を聞き付けた女性が、自薦してきたのだとか。
なんでも〝この都市の南東区で家族が飲食店を経営している〟らしい。
彼女は〝実家を手伝うために帰りたい〟と思っているそうだ。
それに大公達が前向きになった。
本人は、アシャーリーの調理法や、僕らの存在を、知っているので、〝いろいろと話しが早い〟と考えたらしい。
また、お店がヒトの往来が多い[大通り]に面しているので、好条件だったようだ。
このため、彼女は家族の了承を得るべく、お休みを貰って、一旦、戻る運びとなった。
なお、快諾してもらえるよう、大公も共に赴くらしい。
そうした女性の実家は〝南門から徒歩で15分ぐらい〟の所に在るそうだ。
[大公家の本館]からだと、歩いて二日以上になるので、“魔女さん”によって[南門]の外に【瞬間移動】することになったのだとか。
ちなみに、この料理人は“レイエル・ローザ”という名前だ。
スラッとしており、“後頭部で束ねているセミロングの髪”や“眉”はホワイトシルバーだった。
肌が白く、瞳はライトグリーンだ。
彼女によれば〝祖母がハーフエルフ〟らしい。
かつて、人間の男性と結婚し、飲食店を開いた。
そのヒトたちの娘さんが、レイエルの母にあたるのだそうだ。
婿養子である父親も“人族”らしい。
23歳のレイエルには、二つ下の妹がいるようだ。
彼女以外の家族全員で営んでいるのが[ビアクト]という名称の店舗との事だった。
これは[絆]といった意味らしい。
▽
PM15:30頃。
大公達が帰宅した。
アシャーリーに作ってもらった数品を試食してもらったのもあり、喜んで賛同してくれたらしい。
そのため、後日、暫く休業して、調理の修行に勤しんでもらうのだとか。
魔女さんによって【テレポーテーション】する“アシャーリー母子”が、お店に通うみたいだ。
大公と“次男のルムザさん”は、もう一店舗を選ぶべく、改めて精査しだす……。
▽
およそ十日が過ぎている。
“レイエル一家”は吞み込みが良かったらしく全料理をマスターした。
こうしている間に、大公が、“製麺機/コーヒーミル/業務用ジューサー/食パンの型箱”を揃えてくれたみたいで、プレゼントしている。
余談になるもしれないけど、前々から[東の町]の職人に大量発注していた“コーヒーフィルター”が完成したそうだ。
その町は〝島内で最も製紙技術が盛ん〟らしい。
〝なかでも特に優れた工場に依頼しておいた〟のだとか。
とかく。
レイエルファミリーの飲食店は、[チキュウビストロ・ビアクト]になった。
勿論、[大公家御用達]だ。
このような経緯で、彼女たちの新しい日々が始まる。
あと、アシャーリーの【特殊スキル】が進化したらしい―。
現時点での[アシャーリー=イズモ]
【神法】
・浄化もしくは負傷/治癒/異常回復などの使用が可能
※どれもが中級の光属性
【スキル】
・亜空間収納
※小規模
【特殊スキル】
・地球の洋食
※一ツ星レベルの料理人
【戦闘スキル】
・狙撃術
※段階は[壱]
前世での名前は[嶋川由美]




