第1話 異なり
結論から先に言おう。
僕は“転生者”だ。
ただし、前世の記憶は10年に亘って失われていた。
いや、〝封印されていた〟というのが正しいみたいだ。
いろいろと思い出して、次第に旧友たちとの再会を果たした僕は、危険な異世界で生き抜くためにも協力体制を布いている。
ただ、ここに至るまでは紆余曲折あった。
まぁ、今も、善し悪しは別として、何かしら巻き起こっているのだけれど…。
取り敢えず、僕が7歳だった時に話しを遡らせよう――。
▽
僕の名前は、ラルーシファ=イズモ。
[ダイワ王国]の第二王子だ。
僕には、5つ上の兄と、3つ上の姉に、5つ下の妹がいる。
ただし、僕と妹は、兄と姉とは“異母兄弟”だ。
兄上と姉上の母君が病で崩御なされたあと、暫くしてから、王である父上が再婚なされた。
この女性が、僕と妹の母にあたる。
言い方を変えれば、現王妃だ。
さて……。
王城で何不自由なく育てられた僕は、7歳になった暁に、いろいろと学ぶ事になった。
兄上や姉上と同じように、数人の教育係が付けられる運びとなったのだ。
主に【魔法】と【スキル】に関しての指導を受けたり[勉学]に励むことになっている。
▽
ある日の朝。
お城の庭の片隅に、大木を切ったり削ったりして作られた人形…、と言うか、模型が二つ設置されていた。
どちらも高さは170㎝らしい。
「よろしいですかな? ラルーシファ殿下。」
僕に話しかけてきたのは、瞳が青い70代前半の男性だ。
長い髪とヒゲや眉は白い。
右手に持っているのは、鉄製で長めの[魔法の杖]だ。
先端には“緑色のクリスタル”が付属している。
[王宮魔術師]であり[言語学博士]でもある彼は“レオディン・セル―ロ”という名前だ。
ちなみに、僕は、標準的な長さの金髪が“ゆるふわ巻き毛”で、瞳は青い。
……、それはさて置き。
「まず、“能力開示”と仰ってみてください。」
レオディンに促されるまま、
「のうりょくかいじ。」
こう呟いたところ、脳内に幾つかの文字が浮かんだので、
「なにこれ?!」
僕は驚いてしまった。
「それが、現時点における殿下の能力でございます。」
「なお、“終了”と言えば、勝手に閉じますので、ご安心を。」
「あと…、これらは口に出さなくても行なえますので、今度お試しください。」
そうした説明を受けて、
「うん、わかった。」
承知した僕に、
「して??」
「殿下は、どのような能力をお持ちでしょうか?」
レオディンが尋ねる。
「えぇ―っと……、“しんぽう”に“あくうかんしゅうのう”と“かいどく”て、かいてあるけど??」
僕が答えたら、
「は?!」
「“神法”ですと!??」
ビックリされてしまった。
更に、レオディンは、
「……………………。」
呆然としたまま、固まっている。
「あの…、レオディン?」
僕が心配したところ、〝ハッ〟と正気に戻ったレオディンが、
「これは申し訳ございません。」
頭を下げた。
「それで??」
「“しんぽう”って、なに?」
「わるいことなの??」
不安に駆られた僕に対して、
「いえいえいえいえいえ!!」
「寧ろ、凄い事なのですよ、ラルーシファ殿下!」
レオディンが目を輝かせる。
この流れで、
「そもそも、魔法には詠唱が必要不可欠です。」
「魔物や魔獣のなかには、何も唱えずに魔法みたいな現象を起こせる存在もおりますが……、これはスキルの類とされています。」
「そうしたスキルは、例外もありますが、基本的には魔法に比べて性能が劣るものが多めです。」
「ところが!!」
「神法は、無詠唱で発動できるうえに、魔法よりも威力が高いとされています!」
「これは使えたのは〝ダイワ王国の初代陛下と、その近衛衆のみだった〟と記録に残されているのです。」
「しかも、〝かれこれ500年以上に亘って扱える者がいなくなった〟とも伝えられております。」
興奮を抑えられなくなるレオディンだった。
なんだか理解できず首を傾げる僕に、
「魔法には、低級、中級、高級、極級、といった4つがございます。」
「神法も同様の筈ですが…?」
レオディンが窺ってくる。
「んん―っとねぇ、……、“ていきゅう”てなってるよ。」
そう教えたら、レオディンが〝ふむ〟と頷いて、
「それでは、もともとの予定どおり、低級魔法をお見せしましょう。」
[魔法の杖]を“木製人形”へと向けた。
息を〝すぅ〟と吸ったレオディンが、
「彼処に揺蕩う力よ、我がもとに集まりて、敵を射るべし。」
このように唱えたところ、直径50㎝くらいで“ブルーホワイト”の魔法陣が構築された。
そして…、
「ウィンド・アロー!!」
50発ほどの【風の矢】が放たれる。
これらが当たった一体の“木製人形”が、前後に揺れた。
どうやら、50個の穴ぼこが生じているみたいだ。
「おぉ~、すごいねぇ!」
初めて見た魔法に喜ぶ僕に、
「次は殿下の番です。」
「ただ……、神法については、儂も詳しいことは知りません。」
「なので、一つ、試させてください。」
レオディンが難しそうな顔つきになる。
そこからは、レオディンの推測に従った…。
無傷な方の“木製人形”へと、僕は右の掌を突き出す。
さっきレオディンが飛ばした[風]を回想したところ、右手の先に“サークル”が現れた。
直径は50㎝ぐらいだったけど、色が違っている。
僕のは“ホワイトゴールド”だ。
「おぉおッ!!」
「まさに、文献にあった通りじゃ!」
「さぁ、殿下!!」
明らかにテンションが上がったレオディンに催促されて、
「ウィンド・アロー!」
こう口にすると、僕からもまた50発の【風の矢】が放たれた。
レオディンの倍あたりの速度で飛んだ【ウィンド・アロー】に貫かれて、蜂の巣状態になった“木製人形”が、向こう側へと倒れる。
この光景に戸惑う僕の左斜め後ろで、
「うっ…ひょお――――いッ!!!!」
「まごう事なき、本物の神法じゃっひゃあ――ぃッ!!」
我を忘れて小躍りする老体だった―。