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024 暗闇の蛸

 栄養補給も水分補給も、そして排泄も済ませて準備万端で九十七階層へと進む。


 階段を上り始めたらすぐに、足元も見えない暗闇だ。


「また真っ暗かよ」

「せっかく明るくなったのにね」

案内役(アン)、次の明るい階層は何階層だ?」

『九十五階層だね』

「九十五? それも三階層ごとなのか?」

『大当たりだよ! 素晴らしい推理力だね!』


 もはやこの手の案内役のふざけた言葉にツッコミを入れる者もない。そんなことは無視して九十七階層の情報について質問を繰り返す。道順や途中の危険な場所、()の種類や特徴など具体的に質問すれば答えは返ってくる。


「五キロくらいか。一時間ちょいでいけるかな」

「それは明るければの話じゃないか? 舗装道路でもないし、時速四キロは無理だろ」

「途中で何かあることも考えて、二時間くらいと思っておいた方が良いだろうね」

「何にしても、急ごうぜ。今日中に九十五階層には着いておきたいからな」


 何も食べずに歩き続けることは難しい。それぞれ梨を一つ持っているが、それは今日中に消費される想定だ。その後のことを考えたら、確保まではいかずとも階層にまで到着しておきたいのは当然ともいえる。


 この階層に棲息するのは巨大な陸蛸(おかたこ)だという。岩に擬態して潜んでいているので、目で見て探してもまず見つけられないだろうと案内役は楽しそうに言う。


「壁を叩きながら行ってみるか。この暗さだと目で見て探しても無駄だろ」

「叩くものあるか?」

「壊れない板がある」


 ステータスプレートをリュックからだし、阿知良(あちら)は岩壁を叩いてみる。ガンと音が鳴るだけで何も起きない。

 そんなすぐ近くに陸蛸はいないしそんなものである。


 しかし、十分も歩いていれば異変に気付いた。


「何か動かなかったか?」


 数メートル先に不穏な気配を感じて(かみ)(あきら)は足を止める。そして銃を握りつつスマホの光を前方に向ける。


「もう一回壁を叩いてみてくれ」


 ガンという音に、一瞬ぴくりと岩が動いたように見えたのは神玲だけではない。(すめらぎ)()真紘(まひろ)も険しい目で前を見つめる。


「撃ってみる。皇、阿知良、フォロー頼むぞ」

「らじゃ」


 怪しいところには銃弾を撃ち込んでみればいい。弾の出し惜しみをして怪我をしていては先がない。弾が尽きても歩くことも走ることもできるし、弾が無くなった分だけ軽くなるというメリットもある。


 ガギォァァォン!


 発砲音と弾が岩に跳ねる音が反響して周囲を襲う。撃った本人ですら顔を(しか)めて体を固くするくらいだ。


 そして、その効果は陸蛸の方にもあった。壁や床の岩がぐにゃりと歪み、その位置が露わになる。


「耳塞げ!」


 聞こえているか分からないが、叫んで神玲は陸蛸に向けて弾丸を叩き込む。一番近くの陸蛸は約八メートルほど先。弾丸が命中して動きを見せればその大きさも分かる。


「でかいぞ!」

「銃は効いているのか?」


 陸蛸の足の長さは二メートルほどもある。それを振り回して暴れているが、ベレッタM9の弾がどれほどダメージを与えているのか分からない。少なくとも、今にも死にそうになっているわけではなさそうである。


「できればベレッタM9(こいつ)でやってしまいたいんだけどなあ」

「急所も分かんねえし、無理じゃねえか? 荷電粒子機関銃で一掃しちまった方が早いと思うぞ」


 暗くてよく見えないし、どこを狙って撃てば良いのかも分からない。数撃ちゃ当たる戦法も効率が悪すぎると皇が指摘する。他に有効な手立ても思いつかず、の三人も「そうだね」と頷くしかない。


「まあ、そうだろうね。あ、その前に一つだけやることがある」


 言って神玲は銃を構えると、天井に張り付く一匹と、左右の壁に張り付いている二匹を狙う。これがうまく下に落ちでもすれば一射で全滅を狙えるためだ。


「上手く落ちてくれないな」

「当たってはいるんだけどなあ」


 天井の一匹は落ちたものの、壁の二匹はうにょうにょと足を動かすのみで落ちる気配もない。仕方がないので三発を消費して陸蛸を吹き飛ばす。


 胴体を吹き飛ばされても残った足がまだ動いているが、それは無視して進むしかない。捕まらないよう気を付けながら、体液で濡れた床を急ぎ足で進む。


「念のために聞くけど案内役(ブルー)、あの陸蛸は食べたらどうなる?」

『たとえ火を通しても、食べたら腹痛と下痢で苦しむことになるよ!』


 そんなものを食べようとは誰も思わない。振り向きもせずに先へと進む。


 その後も何度か陸蛸に遭遇したが、見つけ方が分かっていれば問題もない。小型のものが一匹だけ壁に張り付いているならば横を素通りすることもできる。ステータスプレートは欠けたり削れたりすることもないうえに軽いため、いくらでも岩を叩き続けていられる。


 都度、案内役に道を確認していたのに、三十分ほど歩いていると、行き止まりになってしまった。


「おい案内役(あお)、行き止まりだぞ? どうやって通るんだ?」

『奥の壁は押せば動くよ! 左側に押し込むのがコツさ!』


 言われるまま阿知良が壁に手をついて押してみると、ゴリゴリと音を立てて岩壁が左へ僅かに動く。


「ちょい手伝ってくれ。めっちゃ重い」


 一人で押していても、人が通れるまで開くのに何分か掛かりそうな速度だ。皇も手を貸してゴリゴリズリズリと岩の戸をこじ開けていく。


「そろそろ通れるか?」

「もうちょっと隙間ほしいね」

「我も力を貸そう」


 神玲ができた隙間に体をねじ込んで足の力で岩を押すと、どんどん動いていく。別に彼女が怪力というわけでもない。体勢の違いにより発揮できる力の強さが違うだけだ。


「よっしゃ、これで通れるな」


 一人ずつ通るのに必要な幅は一メートルも要らない。八十センチほどあれば引っかかることもなく隙間を通り抜けることができる。その先は一本の道だ。左右のどちらに行くのが正解なのかは案内役に聞けば分かる。


「もしかしてこれ、隠し扉だったのか?」

「ああ、こっちからだと分からなそうだね」


 出てきた隙間を見て阿知良が呟くと、皇も苦い顔で頷く。彼らはいとも容易く進んできているが、それは案内役から情報を得ることができているからだ。もしこれがなければ、いまだに百階層をうろうろしていた可能性も高いだろう。


 そのまま特に大きな障害もなく進み、十時十五分には階段を見つけることができた。


案内役(あお)、次の九十六階層は岩が微かに光っている階層で間違いないか?」

『そうだよ! よく分かったね!』


 案内役のこの人を馬鹿にしたような物言いにも慣れてきている。無視して聞きたいことをどんどん聞いていくと、案内役が段々と()ねたような口調になってくるような気がする。しかし四人はそんなことはお構いなしに、水場や九十五階層への道順や敵などの情報を次々に得ていくのである。

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