015 案内を頼りに迷宮へ
足下の確認は案内役の青い光だけとして進んでいくと、分岐点に出た。
「右に学校を回ってみる? それとも左?」
「出口を探すなら左、学校の周囲を確認するなら右だね。案内役、出口はどっち?」
『出口は上だよ!』
「ンなこた分かってるよ!」
怒りに任せて余は案内役を思い切り引っ叩く。青く光るピンポン玉はカチンと乾いた音を立てて足下の岩にぶつかるが、何事もなかったようにふよふよと肩の高さまで浮かび上がってくる。
「まったく、出来の悪いAIかよ。イヤガラセみたいな言葉の解釈しやがって……」
「順番にいこう。案内役、ここは迷宮とやらの百階層で間違いないな?」
『その通りさ!』
「ここから迷宮の外に出るには、九十九階層、九十八階層と順に進んでいく以外の道があるか?」
『そんなの、ありませんよ!』
「ここから、九十九階層へ行くための道順を教えてくれ」
『この大空洞には五つの横穴があるけれど、そのうちの東南東のものから進めば良いよ。途中で分岐があるけれど、最初が左、次は右を選べばすぐさ!』
「教えてくれるのかよ⁉」
まさか道順を教えてくれるとは思っていなかったのか四人でツッコミを入れるが、最初から案内役と名乗っているのだから道案内もしてくれると考えても良かったのではなかろうか。
「とにかく東南東の横穴を探そう」
「案内役、東南東以外の横穴にはそれぞれ何がある?」
『南西と南東は奥で繋がっていて、とても貴重な赤陽鉱の鉱床があるよ! 北はハラハラドキドキな罠が盛り沢山! そして北東にあるのは一つだけ、ボス部屋さ!』
神玲が質問してみると、案内役は意外と細かく答えてくれる。相変わらずふざけた口調である上に、質問した言葉の解釈がやたらと独特だが、言葉に気をつけて質問すれば案内役と自称するだけの回答は得られるらしい。
案内役に質問を繰り返しながら谷底に沿って校舎をぐるりと右回りに東に回り込み、目的の横穴を見つけた。
「この道、他の人にも教えようか」
「隠す選択肢があるんだ?」
「隠すっていうか、伝えるタイミングってのはあるんじゃね?」
全校生徒がパニック状態で突撃していっても良いことは起きないと言うのは皇だ。彼らが校舎外に出て既に十分以上も経っているのに、誰も自分たちを追ってきていない。青く光る案内役を連れていれば後者の側からも見えるはずなのにだ。
「進んでから戻るのもダルくない?」
「そうだけど、足手纏いに邪魔される方が嫌だよ」
「合理的にいこう。他のみんなに教える目的は何?」
「見捨てて行くのも感じ悪いからかな? 別にみんなに死んで欲しいわけでもないし」
彼ら四人の気が合う理由がこれだ。何かあったときの話し合いの仕方が同じなのだ。何を気にしていて、どうなれば満足できるのか。それを明確に言語化することで最適な道を選ぶ。
ここでも、足を運んで伝えに行くのではなく、大声で呼べばそれで済むという結論に至った。その言葉を無視する者もいるだろうが、それは校舎に出向いてみたところで同じことだろう。
「おーい、出口こっちだぞー」
ライトを点けたスマホを振りながら叫ぶこと五回。そろそろもう良いだろうというころに校舎側から「おーい」と返事があった。
四人のところからも、何人かがライトを振り回しているのが見える。
「出口こっち! 他の人にも伝えて!」
それだけ言うと、四人は横穴へと向かう。岩の壁にぽっかりとあいたトンネルは直径が三メートルほど。案内役が言うには分岐がいくつかあるとのことだが、光の届く範囲にはそれらしきものは見えない。
「よし、行こうか」
トンネルに踏み込むと、足下は小さな石が大量に転がる砂利道になる。足音を響かせながら進んでいくと、最初の分岐を見つけた。事前に道は聞いているが、これが案内役の言っていた分岐なのか念のために確認する。
「案内役、九十九階層に行くにはこれを左に進めば良いんだよな? 右はどこへ行くんだ?」
『そうだよ! 右は九十八階層行きさ!』
「は? 階層は一つずつ上がっていくんじゃないのか?」
「落ち着きなさい皇。そっちは、地上には行けないルート、ということなんでしょう?」
『その通りさ!』
「じゃあ、右の道から九十八階層に行ったら何がある?」
『荷電粒子機関銃があるよ!』
「はあ⁉ 何だそれ?」
洞窟内で入手できるものとして全く似つかわしくない言葉が出てきて、四人のツッコミが重なった。
「荷電粒子機関銃とやらの威力を教えろ」
『人間に当たったら跡形もなく消し飛ぶくらいだよ! 百階層のボスに通用する数少ない武器の一つだからね!』
「荷電粒子機関銃は他の敵にも通用するのか?」
『もちろん!』
「百階層以外にもボスはいるのか? ボスに会わずに通り抜けることは可能か?」
『ボスは九階層につき一ついるよ。戦わずに素通りするのは運が良ければ不可能じゃないけれど、まあ、成功率は百万分の一以下だね』
「よし、機関銃を取りに行こう」
ボスとやらがどんなものなのかが分からなくても、戦って勝たねばならないならば武器は必要だ。そんなことは一々説明するまでもなく、皇の提案に全員が頷いた。
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