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凶星世界

運命に挑んだ竜の話―我々(オレサマ)頑張るのだ―

作者: ラン_krrr

 少しワガママに育ちました。

 お楽しみください。


     ◆Ⅰ◆


「あ〜ダルいのだ〜……面倒くさいのだ〜……」「――」


 その者達は山を歩いていた。

 街道からあえて外れ、人目のつかない道を行く。


「疲れた〜……帰りたい〜……ヴラド〜……」


 後ろを歩く少年のその口から、現状の否定と共に歩く男の名が発せられる。


「駄目ですよ主。物事を後回しにする者は総じて愚か者と呼ばれます。そうはなりたくないでしょう?」


「真面目な話はやめるのだ……疲れた〜……」


 主と呼ばれたその少年、後ろは肩甲骨、横は鎖骨まで伸びた流れる金の髪、陽の下で輝く緋色の瞳を持つ。

 例えるなら蜥蜴の様なその眼には、今は暗い光が灯る。

 牙は鋭利、背に黒翼、当然のように黒き尾が生え、改めるならそれは竜の眼を持った少年だった。

 服装は必要最低限に軽く、しかし胸に瞳と同じ赤に輝くブローチが留められている。

 心には落胆と後悔、嫌々と足掻きながらも前に合わせその脚を動かす。


 ヴラドと呼ばれた男、長くもなければ短くもない、主と同じく流れる明るい黒髪と、深くも浅くもない黒い眼を持ち、右頬の黒子を除けば特にこれといった特徴の無い顔をしている。

 その背丈は標準的だが、隣の少年と並ぶことで少し際立つ。

 服装も同じく最低限、目立つ装飾は無し。

 しかしその言動と合わせてどこか執事風の印象を受ける。

 その脚は速度を緩めることはなく、明確な指標を匂わせる。


 そう、指標がある。


 故にその歩みを止めるわけにはいかない。

 今が辛くとも、動かねば未来は変わらない。


 13年後に起こる、世界の命運をかけた戦いのために。


     ▶▶▶


 どうもどうも。我々(オレサマ)の名前はエンドラ・バルバゴア。

 カッコイイだろう?自分で名付けたらしいのだ。


 我々(オレサマ)は今、なんやかんやで世界の命運を背負っている。

 なぜ背負っているかは気にしなくていい。そういう運命だったのだ。

 生まれてから数百年、その運命を無視し続けて痛い目を見た。

 痛い目を見た結果が今の我々(オレサマ)だ。辛いのだ。


 運命に向き合って数十年、もうすぐこの大陸を回り終わる。

 それは力を蓄えるためであり、負けた場合はこれが我々(オレサマ)にとっての最期の旅行ということになる……にしては苦しみが大きすぎるのだ。


「主、そろそろ目的地です」


「やっとか〜?ここまで長かったのだ……」


 ヴラドの声で顔を上げ、正面を見る。

 とはいってもここは山頂近くだから、目的地は山の麓の方。


 ――見えたものを一言で表すと、森。

 端が見えないくらい巨大な森なのだ。

 結構高い所から見てるはずなのに、マジで見えないのだ。


「……ヴラド?目的地は遺跡じゃなかったか?」


「ええ、どうやら周りに木々を生やしたようです。姑息ですね」


「……正確な位置は?」


「こんな古い地図じゃ分かりませんよ。頑張って探しましょう」


 辛いのだ。

 いや、上手いこと丸め込まれて戦うことを決定づけられたあの時に比べたらまだ……まだ……


「ヴラド」「はい?」


「帰るのだ」「駄目です」


「帰るのだ」「駄目です。そもそもこの旅は主の――」


「イヤなのだっ!!もう帰るのだったら帰るのだ!!1箇所くらい回らなくてもなんとかなるのだーっ!!」


 ……この後暴れたけど普通に抑え込まれたのだ。

 本来の力は全部ヴラドに預けてるらしいから仕方ないのだけれど、少しくらい手加減してほしかったのだ。


     ◆Ⅱ◆


「地図の……多分……ここからここまで……何も無かったのだ……」


「この辺りに村がありました。少し話を聞きましたが、誰も遺跡の位置は知らないようです。明日からは拠点をもう少し北西へ移して探索しましょう」


 森に入ってから15日が経った。

 長寿の我々(オレサマ)にとっては一瞬の出来事――とかは特にない。

 長く生きていようと辛いことは辛いと思うのだ。

 それが成果無しなら、特に。


 もう本当に帰りたいのだ。


「そうか……今日も何も…………待て、人間がいたのか!?」


「はい。いましたよ」


「じゃあ……何で手ぶらなのだ……?」


「何を貰うと言うのですか。食糧は十分でしょう」


「精巧な地図とか……?」


「忘れたのですか?この旅は主の()()()()()に――」


「なんなのだお前っ!ずっとずっと嫌なことばかり!!我々(オレサマ)だって間違えることくらいあるはずだと言っただろ!なのにいつまでそれを持ち出してくるのだっ!!!ヴラドのバカぁ!!!」


「――――」


 気づけば走り出していたのだ。

 我々(オレサマ)じゃヴラドの足には敵わないと分かっていても(というかこうやって逃げ出すのは今回で5回目くらいなのだけれど)、逃げたくなる時がたまにあるのだ。


 走って、走って、走って……走り疲れてもヴラドが捕まえに来ないことに気付いて、困惑した。


 我々(オレサマ)、見放されたのだ……?


     ▶▶▶


 迷子なのだ。


 来た道を戻る前にここら辺の木の実を食べてから戻ろうと考えたからなのか、疲れたために一旦木の上で寝たからなのか、起きた時には寝相の悪さゆえ見知らぬ場所で転がっていたからなのか、その後何となくで歩き回ったからなのか、理由は定かでは無いのだ。


「ヴラド〜……どこなのだ〜……」


 右を見ても木、左を見ても木。

 下から見ても木、上から見ても木なのだ。


「ちゃんと謝るから……出てきてほしいのだ〜……」


 生きるか死ぬかの戦いのために苦しんできたのに、こんな最期は悲しすぎる。

 我々(オレサマ)()()()()頑張らなきゃいけないのに……


「ヴラド〜…………ヴラド……」


 ……なのにいつもワガママを言ってしまうのだ。

 でもそれはヴラドがいつも正してくれるはずのもので、まさかヴラドが我々(オレサマ)を見放すなんて、あるはずないと思い込んでいたのだ。

 そういうものだと、思い込んでしまっていたのだ。


「うぅ……あぁ……うわああぁぁん!」


 涙が、溢れたのだ。


     ▶▶▶


 まずは名乗りましょう。

 私の名前はヴラド。姓はあらず。


 常に主であるエンドラ・バルバゴア様に付き従い、時に道を正し、時に立ち直らせ、時に制圧する、その役目を持った者――だったはずなのですが……


「まったく……貴方方の邪魔のせいで主を見失ってしまいましたよ」


「――知るカ……侵入者ガ……!」


 主がこの場から走り去った直後、ずっと睨みを利かせていた男達が私に襲いかかってきました。

 おそらく何らかの優先順位を持って私を狙ったのでしょう。

 主に追従する者はいなかったために私も制圧を優先しましたが、思っていたより時間がかかりました。おそらく――


「――貴方方はこの森に古くより住まう者、ですね?戦い方を見ていれば分かりますよ。もしこの森を案内していただけるのであれば――」


「断ル。侵入者ニ乞いハせヌ」


 ふむ。面倒なことになりました。

 私に尋問や拷問の心得はありませんから、やったら手が滑ってしまうかもしれません。

 無益な殺生は禁じられてますので……時間はかかりますが、どうにかして説得することにします。

 無知な者を説得するのには慣れています。


「そう邪険に扱わないでください。私は竜の眷属ヴラド。主であるエンドラ・バルバゴア様と共に各地を回り、来たるべき戦いに備えております。危害を加えるつもりは一切ありません」


「知るカ」


「そう言わずに……」


     ◆Ⅲ◆


『――――』


「ひっぐ……ひっ……ぐずっ………うっ…………………ふえっ?」


 多分8時間くらい泣いて涙が枯れた頃、何処かから音が聞こえたのだ。

 その音は頭の中に響くようでもあったのだけれど、明確な発生源があるようにも聞こえ、よくよく聞くとそれは”声”だったのだ。

 そういえば泣き始めたあたりからずっと聞こえてたような気もするし、今初めて聞こえたような気もする。

 ずっと泣いてたから分からないのだ。


「ぐすっ……だれぇ?」


『――――』


 その”声”に導かれるままに歩を進め、そして気がつくと――


「えっ!――あった……?」


 ――目的の場所、探してた遺跡を、()()()()のだ。


     ▶▶▶


 この世界には昔からある幾つかの遺跡があるのだ。

 遺跡には魔力を循環させる特殊な機構があるため、ちょーっと弄って増幅させる機構に変えてから我々(オレサマ)の力を分離して置く。

 なるべく多めに、その時の最大魔力もついでに置いていってるから、慢性的な魔力不足。

 我々(オレサマ)の魔力は時間でしか回復しないから、あえて時間のかかる歩きで移動してどうにか遣り繰りしてきたのだ。


 そうして時間をかけて全ての遺跡を回る。

 ただし、()()()()()()()()()()()

 我々(オレサマ)が旅を始める前にヴラドと結んだ()()らしいなのだ。

 それが、我々(オレサマ)が背負うべき責任。


 ……だからといって、家にあったというあの古い地図だけで各地を回るのは本当に辛かったのだ。


「――やっと、終わる」


 遺跡の最深部近く、第二なんとか室と書いてあった部屋に入る……難しくて読めなかったのだ……。


 その第二なんとか室の中にはなんと――巨大な絡繰が目を光らせていたのだ。

 どれくらい巨大かというと、マタタジャングルで我々(オレサマ)を丸呑みにしたウミハジキミナミウミオロチくらい大きいのだ。

 あの時は大変だったのだ。


 その巨大な絡繰は、我々(オレサマ)と目が合うと……


『――――侵入者よ、その武勇を示せ』


「え……え……?こ、こんなの聞いてないのだ……」


 ずっと我々(オレサマ)を呼んでいた声の正体を明かすと同時、その巨大さを雄弁に物語るその右腕を、振り下ろしてきた。


「ぎゃあああああ!!!?」


 我々(オレサマ)を押し潰すために放たれたその右腕は、破壊の音を鳴らして床を砕く。

 地面が揺れて上手く立てず、尻餅をついてしまう。

 ――絡繰の光る目が、我々(オレサマ)を睨んでいる。


「はっ……早く来てぇ〜!!!ヴラド〜!!!!」


 我々(オレサマ)の悲痛な叫びが部屋に響く。

 これだけ悲痛なんだから、流石に手加減してくれるかもなのだ。


 ……先に言うけどダメだったのだ。 


     ▶▶▶


「急ゲ!あの子ハ既ニ遺跡ニ入っていル!」


「そういうのはもっと早く教えてほしかったですね」


 思い付く限りの説得方法を試し始めて僅か2日ほど、主がまだ未熟な子と同等の精神であると伝えた途端、顔色を変えて遺跡の場所を教えてくれました。

 どうやら金銭や食糧などではなく子を大切にする者達のようです。

 子かどうかの判断基準は容姿ではなく精神のようで、よくよく見れば私を襲った者の中にも少女が混じっていました。


「見えタ!あノ遺跡ダ!」


「ええ、このまま内部の案内の方を――」


「済まヌ!あノ遺跡ハ試練ノ場所!我ラ男衆ハ入るコト許されヌ身!どうカおひとりデ!」


「ふむ。良いでしょう。ここまでありがとうございました」


 森の民(仮称)に別れを告げて遺跡の中へ入ることとします。

 急いでいるために名前を聞くことも叶いませんでしたが、また会うことがあればこの世界の行く末についてでも話し合いたいものです。

 話せるとしたらこの旅を終えてからになるでしょうが……


「父上!ユメなら問題ないだロウ!ユメにも戦わセロ!」


 背後から少女の抗議の言葉が聞こえましたが、私には関係なきこと。

 先で待つであろう主の元へ、足を運ぶのでした。


     ◆Ⅳ◆


 亀裂が入り、揺れる床と天井。

 亀裂の原因となった鉄の巨人は、絶えず目を光らせて竜を睨む。

 ――睨むだけに留めているのは、既に竜が地に伏しているからだ。


 決着はあまりにも呆気ないものだった。

 初撃を運良く避けた竜は、返す腕に反応できず壁へと弾かれた。

 壁を砕き、そのまま地に落ちた竜。


 先程まで叫声が響いていたとは思えないほど静かな部屋の中、鉄の巨人は役目を終え、定位置へと戻る。


「――何をしているのですか?」


「……死んだフリしてるのだ。お前もやるのだ」


 気づくと、竜の傍に男が立っていた。

 新たな侵入者を発見し、鉄の巨人が再度目を光らせる。


『――――侵入者よ、その武勇を示せ』


「ふむ。示せば良いのですね」


 振り下ろすための右腕を男へと構え――


遮断カット……主、魔力の使用を許可します――()()()()()()()()()()()


 ――拳を振り下ろすより先に、世界が()()に包まれた。


     ▶▶▶


「ふはは……ふふはは……ふわぁーっはっはっは!」


 爆炎の中に、竜の高笑いが聞こえる。


 煌々と照る金色(こんじき)の髪と対敵を睥睨する緋色ひいろの眼光。

 秩序ちつじょを裂き混沌こんとんを呑むために存在する白き爪と牙。

 天空てんくうを統べ大地だいちを薙ぐために存在する黒き翼と尾。

 竜たる所以を証明するように、その身を世界に焼き付ける。

 

「来たれっ!『火竜剣かりゅうけんバルバゴア』っっ!!!!」


 声高らかに腕を伸ばす竜。

 空間を支配する炎熱により世界が融解する。

 それは天からか、それとも()からか。

 竜に呼ばれるべくして顕現し、竜に握られるべくして静止する。


 ――『火竜剣かりゅうけんバルバゴア』、祖なる竜から生まれ裔なる竜へと還る剣。


「はははっ!必殺ひっさぁぁぁあつ!!!」


 構えもなければ矜持もなし、その一振りの先にあるのは殲滅のみ。

 爆炎を纏いし剣が、通過した全てを蒸発させる。


ほん りゅう せい っ!!!!!」


 身体を一回転させ、その勢いのまま下から上へと斜めに斬り上げる。

 地から天へ剣閃が流し込まれる。


 その昇る猛炎に、悉くが飲み込まれた。


「まだまだぁー!!来たれっ!『土竜剣どりゅうけんフェル――」


「――そこまで。使いすぎですよ主」


「……まだ存分には楽しんでないのだ……最後くらい好きに振り回したかったのだ」


「お役目をお忘れになって、とは言ってませんよ。常識の範囲内でのお言葉です」


 ヴラドがパチンと指を鳴らし、溶け切った空間が歪む。

 全てを溶かした爆炎は形を失い、景色と同化する。

 爆炎は炎に、炎は火に、火は煙に、煙は風の中へ消えていく。


 そこには融解した鉄の巨人らしき物体と、焦げ付きすらない部屋があるのみだった。


「おおっ!話に聞いてたより凄いな、お前の遮断カットとやらは!」


「ありがとうございます。主も、素晴らしき一振りでしたよ」


 その一振りの先にあるのは殲滅のみ。

 竜の軌跡に、残火無し。


     ▶▶▶


「――――流石に4本目ともなると手際が良いですね」


「お世辞は要らん……我々(オレサマ)はお前が教えてくれたやり方しか知らんし、我々(オレサマ)は頭が良くないから……多分前より遅いのだ」


 教わったやり方で魔力の循環機構を弄り、増幅機構へと変える。

 ヴラドではなく我々(オレサマ)がやるのは、「ヴラドにやらせるのは酷だから自分でやる」という最初の我々(オレサマ)との()()なのだ。


 この先に待つのは力の分離であり、つまりは我々(オレサマ)の一部が剥がれていくということなのだ。


 分離前――つまり最初の我々(オレサマ)は、例え自分が自分でなくなろうとも分離して個別に増幅させる方法を選んだ。

 なぜその方法を選んだのかは今の我々(オレサマ)には分からないが、何か深い考えの元だというのはヴラドの話を聞いていれば予想はつく。

 だから、我々(オレサマ)は前に倣って自身を分離させる。


「――できたのだ」


「後は依代に主の力を詰めるだけ、ですね」


「……来たれ、土竜剣……」


 空間が小さく揺らぎ、1本の剣が出現する。

 これが最後の剣。

 この剣に、残る魔力を含めた我々(オレサマ)の力を込める。

 我々(オレサマ)の失敗のせいで一振り分の魔力を使っちゃったから、増幅期間の短さも相まって土竜剣は少し幼くなりそうなのだ……


 13年後に目覚めた時、土竜剣は寂しくないだろうか。

 我々(オレサマ)が置いていける知識なんて限られてる。

 右も左も分からないまま、この森で……


「……こいつは……独りぼっちなのだ」


「……それはいつものことでは?」


「そうなのか?……でも我々(オレサマ)、ヴラドが追いかけて来なかった時、凄く悲しくなったのだ……でもそれは我々(オレサマ)がワガママ言って逃げ出したのが悪かったのだ。ごめんヴラド。」


「――それも、いつものことですから」


「そうだったな。で、その時我々(オレサマ)、たくさん泣いてしまったのだ。凄く悲しくて、凄く寂しくて、世界に独りぼっちだと、この世界には絶望しかないと、そう思い込んでいたのだ」


「それを強いるのは、酷だと?」


我々(オレサマ)の寂しい思いは、こいつに残ってしまうのだろう?それが、最初の我々(オレサマ)が決めた『()()()()()()』ってことなのだろう?……我々(オレサマ)にはヴラドがいる。でもこいつには何も無い。何も……無いのだ……」


 ヴラドが少し考え込み、そして案を出す。


「……では、先程主が壊された絡繰を適当に修復しましょう。機能は最低値まで下げます。目的は、13年後の目覚めの日までここに在り続けること……残された循環と増幅の機構があれば問題は無いかと」


「……ありがとなのだ。ヴラド」


 これでこいつも寂しくないはず……お喋りできないのは少し悲しいだろうけど……だけど……独りじゃないのだ。


 こうして、我々(オレサマ)は自分の分身に別れを告げることとなる。

 いつかこいつも自我を得て、我々(オレサマ)と一緒に戦うことになる。

 その我々(オレサマ)は今の我々(オレサマ)とは違うけど、でもきっと、友達になれるのだ。


 運命を背負うことに決めた最初の我々(オレサマ)も、その自己を分離して生まれた我々(オレサマ)達も、こうやって遺跡に置いていかれる我々(オレサマ)達も……次に生まれる我々(オレサマ)も……


 全て、元は同じ我々(オレサマ)なのだから。


     ◆Ⅴ◆


「主、行きますよ」


「――?……おじさん、だれぇ?」


 力を分割したことでまた少し幼くなられた主。

 人でいう5歳児くらいでしょうか……人には詳しくありませんが。

 言葉が分からなくなる程度まで小さくなる可能性を考えていましたが、これくらいの年齢なら説得に苦労はしないでしょう。

 ――或いは主がそこまで考えた上で残してくれたのか……


 ……いえ、私の知る全てを見通すような眼を持った主と、先程までの主は別人のようなもの……流石に私の思い過ごしでしょう。

 むしろ言葉が分からない方が連れ歩くには楽だったかもしれません。


 思えば今回の主は、本人の認識通りかなり我儘でした。

 疲れたから休もうと1時間毎に言い、旧世代の蛇が恐いと言って大声で叫んでみたと思えば、何故か自分から死地に飛び込んで行き、それでいて思い通りにならなければ直ぐに逃げだし、直ぐに泣き……


 一つ前の主はあまり口を聞いてくれませんでしたが、文句を言うことはありませんでしたから、それと比べても今回は手を焼きました。

 まったく……同じ主とは思えないほどにコロコロと性格を変えて、前回の経験が生きたことなど一度もありません。

 一度だって、同じ主は―――


「……おじさん、泣いてるのぉ?……寂しいのぉ?」


「――っ……いつものことですから」


 気づくと、私の目からは涙が零れていました。

 4本目であると同時に別れも4回目、ここまで来ても慣れること叶いませんでしたね。

 しかしこれも主との()()、全て覚悟の上ですから……


「寂しいのはイヤだよねぇ……よし!我々(ボク)が一緒にいてあげる!これで寂しくないねぇ、えへへ」


「……ありがとうございます、主」


 何度記憶を失っても、主は優しき言葉を発してくださる……私はそれを、誇らしく思います。


     ▶▶▶


「ねぇヴラド〜?」「なんでしょう?主」


 その者達は野を歩いていた。

 街道からあえて外れ、人目のつかない道を行く。


「えへへ、呼んだだけ!」


 隣を歩く幼き少年のその口から、共に歩く男の名と無邪気な言葉が発せられる。


「そうですか。ではまたお好きな時にお呼びください」


「えへへ……」


 主と呼ばれたその幼き少年、後ろは首筋、横は耳下まで伸びた流れる金の髪、陽の下で輝く緋色の瞳を持つ。

 例えるなら蜥蜴の様なその眼には、今は明るい光が灯る。

 牙は鋭利、背に黒翼、当然のように黒き尾が生え、改めるならそれは竜の眼を持った幼き少年だった。

 服装は必要最低限に軽く、しかし胸に瞳と同じ赤に輝くブローチが留められている。

 心には高揚と希望、嬉々と跳ねながらも横に合わせその脚を動かす。


 ヴラドと呼ばれた男、長くもなければ短くもない、主と同じく流れる明るい黒髪と、深くも浅くもない黒い眼を持ち、右頬の黒子を除けば特にこれといった特徴の無い顔をしている。

 その背丈は標準的だが、隣の幼き少年と並ぶことでかなり際立つ。

 服装も同じく最低限、目立つ装飾は無し。

 しかしその言動と合わせてどこか執事風の印象を受ける。

 その脚は速度を緩めることはなく、明確な指標を匂わせる。


 そう、指標がある。


 故にその歩みを止めるわけにはいかない。

 今が幸せでも、動かねば未来は変わらない。


 13年後に起こる、世界の命運をかけた戦いのために。

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