3-6 どこかの惑星で
1914年9月1日、午後一時。最後のリョコウバトは老衰のため、シンシナティ動物園で死亡。
種の絶滅の、正確な時間まで明らかになっている、唯一の例と言えるでしょう。因みに、第一発見者は飼育員です。
私の死はアメリカで、大きなニュースになりました。
その死によって北アメリカで何前年に渡って生き続けた、リョコウバトという名の鳥が絶滅したのです。当然でしょう。
「クッソォ。死ぬと分かってりゃ、見に行ったのに。」
ヒドイ言い草ですね。
「死ぬ前に見たかったなぁ。」
揃って、何を言っているの。
アチラでもコチラでも呆れるくらい、好き勝手なコトを。
『死ぬと分かっていれば』って、命あるモノいつか必ず死にますよ。『死ぬ前に』って、私は最後の生き残り。そう長くナイと、分かっていたでしょう。
私ども、人類に滅ぼされたのです。なのにナゼ酷い事を言うのですか。『見たかった』だの『見損ねた』だの、そんな言葉、聞きたくない!
私の骸は氷に浸けられ、冷凍保存。
ワシントンDCのスミソニアン博物館に送られ、研究のために解剖されます。それから剥製にされ、博物館の一角に展示されました。
「アッ見て見て、マーサだ。」
はい、マーサです。
「コレって、デカい鳩じゃね?」
私の名は『コレ』では無く、『マーサ』です。
「なんか地味ぃ。」
『地味』では無く、『控え目』。
「腹と背が紫だって聞いたけど、灰色じゃん。」
腹と背が紫なのはオス。雌雄で色が違うんです。
見た目をドウコウ言うなんて、失礼にも程がある。どんな教育を受けたのですか。
・・・・・・フッ。野生動物を絶滅させるような種に、多くを望むのは酷だわね。
「コレがリョコウドリ?」
リョコウドリでは無く、リョコウバト。
「地味じゃん、滅ぶの当たり前ぇ。」
・・・・・・御里が知れる。
人類は生きるためでは無く、楽しむために命を奪う愚かな生き物。
絶滅させた種を標本にして、展示する。滅ぼしたクセに、罪悪感を抱かない。
生きていた時も死んでからも晒され、複製品と交換されました。所蔵品として、倉庫の隅に保管するために。
他の仲間は引き出しに並べられ、保管されています。
リョコウバトの標本は多く、DNAを抽出して復活させる計画が有るとか。お願いだから止めてください。
クローンを作っても、その個体は私と同じ扱いを受けるのでしょう。そんなの、耐えられない。
そもそもリョコウバトを復活させて、どうするの。罪滅ぼし? 冗談じゃないわ。
多くの生物を絶滅させ、環境を破壊する地球の癌。それが人類。何でもカンでも金、金、金。金の亡者は滅ぶのよ、己の首を締めてね。
滅びたくなければ考えなさい。でなきゃ人類、滅亡よ。
どこかの惑星で標本にされ、展示されるでしょう。空想? そうね。けれど『有り得ない』と言い切れますか。
あら、そろそろ出掛けなきゃ。これから渡りですの。では、ごきげんよう。
気が滅入る展開でスイマセン。絶滅してますから、陽気な話にはナラナイのです。
文才が無い? これまたキビシイ。泣いちゃうゾ。