3-5 大空へ
アメリカ、オハイオ州。シンシナティ動物園で生まれ育った、最後のリョコウバト。それが私、マーサです。
当たり前ですが、一羽では産めません。
ステキな出会い? 何それ。
最後の一羽よ、オスは全滅。だから、私が死んだら終わり。数十臆羽もいたリョコウバトの絶滅、決定よ決定。
遊びで殺され、いつの間にか一羽に。それが私。
自分で言うのもナンだけど、美形だと思うわ。残された写真、白黒でもハッキリ分かる。寂し気な表情で、檻の外を真っ直ぐ見つめて・・・・・・。
感情のコントロールが最近、上手く出来ないの。歳かしらね、オホホ。失礼しました。
私ね、それはもう大人気。
見物に訪れる人たちが、ドッと押し寄せるの。話のネタに一目見ようと我先に、檻の中を覗き込むのよ。
動物園の主役といえば象、キリン、ライオンも人気よね。けれどシンシナティ動物園では私、リョコウバトが主役。エッヘン。
言ってて虚しくナラナイかって? 聞かないで。
私、動物園では大切に保護・管理されていました。けれど捕らえられ、檻に放り込まれた野生の仲間が死んでからは一羽。
たった一羽で人前に晒され続け、心の中で泣き続けたわ。もう、ボロボロよ。
「やぁマーサ。」
あら、お久しぶり。外はどう?
「相変わらずさ。他の鳥に狙われたり、四つ足に狙われたりね。」
そう。
「マーサ。」
なあに。
「空は広いぜ。だから、いつか迎えが来るさ。」
そうね、ありがとう。
元、伝書鳩だったマイケル。いつもフラッと現れて、私を励ましてくれる。
そうよね、いつか迎えが来る。だって、死んだ仲間は多いもの。
群れで飛ぶのって、どんなかしら。きっと楽しいわね。どこまでも広がる大空を、思いっきり翼を動かして。
あぁ、想像したダケでドキドキする。
「やぁマーサ。今日は暑いね。」
そうね。人が暑がるんですもの、クラクラするのは当たり前。
「美味しい水に換えたよ。」
ありがとう、いただくわ。
最近、疲れやすいの。
フフッ、元気ね。檻の前で飛び跳ねてる。
その目にシッカリ焼きつけて、私の姿を。リョコウバトはね、たくさん居たの。空を覆い尽くすホド。
お婆さんの言う通りよ、嘘じゃナイわ。
仲間の姿を覚えている人、たくさん居るのね。幼子が忘れないように、シッカリ伝えて。お願いよ。
「マーサ、マーサ。迎えに来たよ。」
驚くほど多くの仲間が、マーサを囲んでいます。
「さぁ、行こう。」
檻がパタンと展開して、大空が。
「まぁ、なんて美しいの。」
翼を広げ、パタパタ。フワッ。
マーサの死に顔は穏やかで、光に包まれていました。彼女は微笑みながら、旅立ったのです。仲間と共に。
「・・・・・・さようなら、マーサ。」
外から看取ったマイケルが、優しくニッコリ。姿が見えなくなるまで見送ると、そっと飛び立ちました。