閑話02、生徒会長のバレンタイン
昼休み。
今日はバレンタインデーだ。
俺の後輩である島崎凪は、朝から沢山の女の子からの想いのこもったチョコレートを貰っていた。
昼休みに仕事があるからと凪を引っ張り、生徒会室に逃げる様に入り昼食を取っていても役員が来る度に凪の元へチョコレートが届く。
そして凪はこの大量のチョコレートを見て何かを思い出したのか、何かを呟き出す。
「確かあのチョコレートを貰ったのは……」
「どうした島崎?」
「会長!
いえ、ちょっと考え事をしていて……」
「ははっ!
島崎は真面目だからなー。
何考えてるか知らないがあまり度が過ぎると頭パンクするぞ?」
「はい、気を付けます」
「ところで島崎
お前今のでチョコレート何個貰ったよ?」
「へ?」
「なーにとぼけてんだよ!
健全な男子たるもの、今日という日を楽しみにしてないわけないだろ?」
「今日……
あっ!
バレンタインでしたっけ?」
「え、マジで忘れてたの?」
「いえそうじゃないですが。
そうかあの日は……」
「あの日?」
「あの、会長。
つかぬことをお聞きしますが」
「お、おう?」
「もし会長が、誰か女の子にチョコレートを頂いたら、そのチョコレートを他の誰かと一緒に食べようと思いますか?」
「はぁ?
他の日に貰ったチョコレートならいざ知らず、何でバレンタインで貰ったチョコレートを好きこのんで誰かに分けなきゃならんのだ!」
「そういうものですか?」
「何だ?
まさか島崎。
お前せっかく、女の子から貰った大切なチョコレートを誰かと一緒に食べようとか、そうした事をやったのか?!」
「は、はい。
随分幼い頃でしたが、一緒に食べようとしていた相手に馬鹿と言われてしまいまして。
幼稚園児の頃。
それも卒園も近い頃の話なんですけど。
バレンタインの日に遊んでる時に貰ったチョコが凄く嬉しくて大喜びして、真っ先にある女の子に話したんです。
「ねぇ、これみて!」
「……チョコレート?」
「あのね!きょう、あじさいぐみの、あの子がくれたんだ!」
当時、僕にチョコを渡してくれた子の名前は正直もう殆ど覚えてないんですけど、でも嬉しかったのは本当で。
自慢ついでに、一緒にチョコが食べれれば良かったんです。
「そう」
「だからね、いっしょにたべよ!」
「……なぎのバカ!!」
「へ?」
「バーカ!バーカ!」
「なんで?」
あの日、その子は僕に馬鹿と繰り返してそのまま走っていってしまったんです。
僕はその子が、迎えに来た母親にしがみついてるのを訳が分からなくて呆然と見てました。
「あー……
そりゃそうだわ」
「正直、何故彼女が怒ったのか今でも分からなくて」
「あぁ、んとなー……」
「会長?」
「……ま、それは自分で答えを出しな。
いっそ、その相手だった彼女に直接聞いてみるとか」
「は、はい?」
全く。
確かに乙女心は複雑で分かりにくいが、それでもこいつは鈍過ぎだ。
いや、分からない振りをしてる部分もあるのだろう。




