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夢夏  作者: 五月雨黛、花蝶水月
総集編、過去。その一歩は未来の為に
10/16

閑話、ある冬の生徒会長の目撃

 



 ある冬の昼休み。

 空は曇り、空気は冷たい。

 吐けば白く舞う息。

 そして少しばかり強い風。

 カイロもマフラーも着ていなければ、10分程で全身が冷えるだろう寒さにも関わらず、教室の中は居ずらいとかそんな理由でカイロと弁当、参考書だけを持って外に出る物好きは、あいつだけだと思う。


 ほら、少し空気に当たっただけでもう俺の手は冷たくなってしまった。

 いつも思うが、あいつよく風邪を引かないよな。


 そんな事を考えながら、いつも何かから逃げる様にして体育館の裏や校舎裏に居たり、どこか人の居なさそうな場所に居る。

 たまにわざと悪い事をする不器用な友人を探して体育館まで来ていた。


 そんな時に、視界の端に島崎が見えた。

 どうやら、体育館の鍵を使って中に入って行く様だ。

 そしてそれを追いかける様に、一人の女生徒が体育館に入って行った。


 え?何アレ?

 思わず、二度見してしまった。


 行き先は体育館倉庫だろう。

 島崎は先生に頼まれて、備品整理でもしているのだろう。

 問題は後から付いて行った女生徒だ。

 恐らくは、島崎の事が好きなんだろう。

 分からないでも無いがあの動きは少し、いやだいぶ怪しい。

 まるでストーカーだ。

 見ちゃいけない物を見てしまった気分にさせられる。


「な、凪君。

 私も何か手伝おうか?」


「ありがとうございます。

 でも大丈夫ですよ。

 体育の授業で使用する設備品はどれも重いですから」


「あ、でも……」


「手伝ってくださろうとした。

 それだけで充分ですよ」


「あ、はい……」

 

 微かに聞こえる二人のやり取り。

 周囲に人が居ない為か、微かながらもハッキリと俺の方まで届く声。

 たまたまとは言え、見てしまった事に変わりはない。

 後で島崎に声をかけるか。




 体育館から女生徒が出てきた後、俺は島崎が体育館から出てきたタイミングを図って声をかけた。


「島崎」


「あ、会長お疲れ様です」


「お疲れさ――――

 いやそうじゃなくて。

 さっき、たまたま見てしまったんだがな」


「さっき?」


「女の子が手伝うっていってんのに、無下に断ってたところだよ」


「無下にって。

 ただ女の子には備品の移動とかは重いかと」


「そーじゃねーよ。

 お前アレだ、鈍ちん(鈍感)だな」


「に、にぶち…?」


「なぁ、お前がいつも話す幼馴染み(水乃)ちゃん、居たよな?」


「は、はい。

 ん?いつも?」


「もし、その幼馴染みちゃんが体育館の備品整理してたら、お前何て声かけるよ?」


「それは勿論手伝いますが」


「何で手伝う?」


「それは危なっかしいと言うか、放っておけないというか……」


「……まぁいいや。

 じゃあもしその幼馴染みちゃんが、凪には大変だから、って断ったら?」


「それは……」


「嬉しいか?」


「で、でも力の差はどうしても男女で……」


「そーいう事じゃねーんだよ

 あぁもう……」


「え」


「……何でもねぇ。

 それよか、放課後は会議だから生徒会室に来いよ」


「は、はい!」


「本当、見ててもどかしいわお前……」


「え?」


 なんでもないと、そう言って島崎と別れる。

 俺は当初の目的である友人を探しに、校舎内を歩き出す。

 全く、冬になるとイベントが多くて困る。

 校内が色めきだってしょうがない。

 まぁ、それが許されるのも二年までだが。


 それにしても、あいつのせいで見回りも兼ねた感じになってるな。

 室内であいつが居るかもしれない所は、と。

 俺は冷たくなった両手を擦り合わせて口元に持っていき、白くなる息を当てた。

 手は(かじか)み、指先が赤くなっていた。


 これだから、寒いのは苦手なんだ。




 後日、俺は昼休みに島崎への過度に怪しい行為をしていた女生徒を生徒会室へ呼び出し、厳重注意をする事になった。

 女生徒の行動はストーカー予備軍である為、接近禁止としばらくの監視を明言した。

 島崎の一人の友人としても、生徒会長としても、見逃せる物ではなかったからだ。


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