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35.トンデモ理論とトンデモナイ銀狼様

 

 御遺骨ではなくて御遺体? 死体? 骨になっていない人間の遺体があるって言うの? 什宝室に。


「収蔵目録にもそう記載されているし、わたしもこの目で確認している」

「でもっ! 人間の遺体が?」


 周囲の(まぶ)しさに耐えながら什宝室へ歩を進めているので、光に負けないようにと身体のどこかが力んでいるのか、わたしもお父様も自然と声が大きくなってしまっている。


「……人間ではない」

「え?」

「人間ではないのだ!」

「……う……そ」


 言っている意味が分からない、信じられない、と呟いたわたしの声はお父様には届いていないと思う……

 物好きのとんでも理論が……真実だったとでも言うの?


 お父様は、構わず次を続ける。


「我々カークランド本家の人間は、ガルフ様と銀狼様の直系子孫なのだ」

「…………」「…………」


 紡ぐ言葉が無い。

 お父様もそれ以上は言わず黙って足を進めるので、わたしもエドも無言でただついていく。嘘よ、嘘よと心の中で繰り返しながら。

 なんとなく、ただ一つしか無い窓の辺りが光源のように感じる。布を垂らしてある盾をその方向に構えているし……

 けれど――


 ――えっ?


 お父様に続いて什宝室に足を踏み入れた途端、何処までも白かった世界が不意に暗転した。

 いや、膨大な光量が無くなった? 

 無くなったその反動で目が錯覚を起こして、周囲が極端に暗く見えているみたい。


「なっ?!」

「え?」

「えっ!?」


 急な変化に脱力してしまって、前に掲げていた腕を下ろして棒立ちになってしまった。エドもお父様も同じみたい。

 目が慣れるまで、数分はそのままの姿勢だったと思う……


「どういうこと?」


 わたしやお兄様が銀狼様の子孫という事に対してか、急に光が無くなった事に対してか、自分でも何が何やらと困惑している。


 部屋はただでさえ、窓の外で何層もの垂れ幕で覆われているし、わたし達が通ってきた執務室も、お父様がカーテンを閉じているのでなおさら暗く感じるし……



「ようやく目が慣れてきたけれど、やっぱり暗いわ」

「そうだね。場所が場所だけに迂闊(うかつ)に動けないね」


 わたしとエドは初めての部屋なので、変に動くと何かに当たりかねないわ。


 そうしていると、お父様が執務机に戻ってカーテンを開けてくれた。

 二つの部屋を繋ぐ通路から明かりが少し差し込んで、それだけでも大分視界は良くなるわ。


 お父様はさらに、火の灯った手燭(てしょく)をひとつ持って来てくれて、ぐるりと一回什宝室全体を照らしてくれた。


「ここは言わば宝物庫なので、火の気を避ける為に壁掛け灯も設置されていないのです。殿下もこれでご耐乏下さい」

「大丈夫です。手燭のおかげで、室内も大分見えてきました」

「そうね。お父様、もう一度ぐるっと照らして下さる?」


 執務室からの通用口以外の壁面に、窓の下枠に高さを合わせた一段だけの棚がぐるりと巡らせてあって、そこに等間隔に物が陳列されている。防具みたいな物が飾り台に飾り付けられた状態で設置されていたり、クッションの上に何やら置かれていたり、壁には剣や槍、盾などが整然と備え付けてある。


「それで……銀狼様のご遺体って?」


 お父様に照らしてもらった限りでは分からなかった……


「どういう事なのかは、見た方が早いだろう。……これだよ」


 そう言うと、お父様はわたしとエドを、この部屋唯一の“あの”窓のもとに導く。

 そして、あの膨大な光量の源と思しき場所……


 はめ殺し窓だった。

 その手前、下枠に合わせた棚には大きくて厚みのあるクッションがあり、その上には白い岩を彫り抜いた様な、毛並みまで見事な狼の形をした置物? が置かれている。クッションはずっしりと沈んでいて、大きさは食卓に用意されるアンダープレート――もしくはプレースプレート――くらいかな。それなりの重さはあるみたい。

 見た感じの質感は今の時代でも珍しい白磁を思わせ、本物の狼――大きさとしては小狼――が頭を窓に向けて丸まって寝ているみたいに精巧な造り。手燭の明かりをチラチラと反射するほどの艶を放っている。


「置……物?」

「名工の彫刻や磁器に見えるね」


「毛並みに添って触れてみて下さい。殿下」

「え……い、いいのですか?」


 お父様の頷きに、エドが恐る恐る手を伸ばして……触れた。

 エドは無言ながら目を見開き、ゆっくりと手を離してお父様に視線を向ける。お父様はさっきと同じように頷きだけで応えた。


「オリヴィアも触ってみなさい」

「は、はい」


 普通に手を伸ばしているつもりだけれど、やっぱり躊躇(ためら)いもあって、わたしの手はキシキシと(きし)みながらぎこちなく銀狼様の真上に伸びた。

 そして、手の平を軽く落とす。ペタリと。


 ――っ!?


 見ているだけでは分からなかったけれど、温かい! 

 いくら窓際で、さっきまで外光を受けていたとは言っても、温かすぎない? 人肌以上はあるわ。

 それとも、本当にこれが光っていたから熱を持った?


 お父様がわたしの戸惑いを見透かしたように口を開く。


「銀狼様の御遺体は、何百年もずっと温かいままだそうだ」


 ―――殺すな。


「えっ?」


 わたしの頭の中に何かが響いた。

 わたしは銀狼様に触れたまま、エドやお父様を見やって「何か言いました?」と聞くけれど、二人とも首を振る。

 それに二人の――男の人の声じゃなかった……


 ―――勝手に殺すなって言ってんの!


 まただ! 女性の声なんだけど気の強そうな、ちょっと凄みを利かせた様な大人な声。


「か、『勝手に殺すな』って聞こえない?」


 エドもお父様も、やっぱり首を横に振る。

 一体どこから聞こえるの?


 ―――どっからって、アンタの手元だよ。


 えっ!?

 思わず銀狼様から手を離す。


 ―――アンタが手ぇ離したって、話は通じるってぇの!


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

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