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11.絶対に居るね

 

 エドを咥えたわたしは、アンが開けてくれているドアを通って、いよいよ外へタッタッと駆けて行く。

 人通りのある街道には向かわずに、草むらや畑などを通って、人目につかないように捜索を始める。


(スンスン。……ついて来ているね)

(ええ)


 道なき道を行くわたし達の後を、追うように付いてくる人間のニオイがふたつ。

 ひとつは、わたしを散歩に連れて行ってくれた――違う違う! わたし達と捜索していたシド。

 いけない……すっかり犬の思考に陥るところだったわ。

 そして、もうひとりは彼の同僚ね。“隠れ家”に居る時から微かに嗅いでいたニオイ。

 おそらく、ずっと陰ながら警護に付いてくれていた人。


 この二人が、一定の距離を保ちながら付いてくる護衛兼時間伝達係。

 変身の限界時間が迫ったら、懐中時計を持ち歩いていないわたし達に笛で知らせてくれる。犬笛で!

 それが聞こえたら、わたし達は本当に人目のない場所に隠れて、変身解除に備える。


 それにしてもこの二人は、よくわたし達を見失わないわね。

 凄いわ……


 そして数日後――


 “隠れ家”から馬車で数時間――王都からなら丸一日近く――移動した先の、鬱蒼とした森での捜索。

 王都からも“隠れ家”からも遠くなってきたので、この辺りがダメだったら、そろそろ別の拠点を探さなければと相談している。


 森は街道から離れていて、尚且つ小高い岩山の陰になる形で、街道からは一切視認できなかった。

 背の高い植物の群落を掻き分け、岩山を越えて森の境界へ辿りついた。


(オリヴィー。ここは人の手が入っていないように見えるけど……)

(はい。……そう装っていますね)

(人間のニオイも微かにある。……あやしいね)

(ですね。……エド、行きましょう)

(うん。足元に気をつけてね)


 後ろを振り返ると、岩山の辺りからシド達の気配(ニオイ)

 ちゃんと付いて来てくれている。


 樹海とも言えそうな森に足を踏み入れる。

 巨木がそびえていて光のほとんど届かないそこは、土の上に湿った落ち葉が積み重なっていて、とても歩きにくい。

 土や落ち葉の腐ったニオイ、小動物の腐乱したニオイ等がむせ返るほどに充満している……


 時折顔をのぞかせている大きな石や岩には苔が覆っていて、湿度が高くて苔も草もまるで行く手を阻むように身体に張り付いてくる。

 それでも足元に注意してゆっくりゆっくりと進む。


 すると、木の本数が減り、少しずつ森がひらけてきた。

 人の手によって計算された伐採みたい。

 光も差し込むようになり、完全に拓けた場所に出る。

 小屋がひとつ。その裏側に出た。一見、低く刈り揃えられた草はらに囲まれた、ただの猟師小屋……

 でも違う。


 小屋を囲う草はらには、ぐるりと人が歩いた跡がついている。

 定期的に見回りをしているみたい……


 鼻で大きく空気を吸う。エドもそうする。

 エドを下ろして、わたしも伏せて小声で話す。


(エド。したわね?)

(ああ。当たりだ……)


 キアオラ翁のニオイはする。他に複数の人間や犬のニオイもする。

 けれど、小屋の中に彼がいると断定できるほどのニオイの強さではない……

 他の人間のニオイの方が、強く漂ってくる。キアオラ翁が、中にいるかは判断できない。


 その点をエドと相談していると――


(僕が確かめて来よう)

(エド! 危険よ! 見晴らしが良いぶん、見つかりやすいわ)

(だから僕が行くんだ。小さい僕なら見つかりにくいだろう?)

(でも……犬もいそうよ?)


 大きな身体のワンちゃんなはずのわたしの耳は、不安で垂れている。

 そんなわたしを、ちっちゃい身体のエドが優しく言い含めてくる。


(大丈夫だよ。僕にはオリヴィーがいる。その後ろにはシド達もいる。僕だけだったら、そんなことはしないさ。でも、君が見守っていてくれる。だろ?)

(う、うん)

(だから、僕が行くよ。もしもの時は……頼りにしているよ?)

(わかった。……気をつけてね? 無理しないでね?)



 エドがカサカサと草に紛れて小屋に向かう。

 わたしは、そのお尻を見送る。


 万一の時は、いつでも飛び出せるようにと、伏せつつも動きやすい体勢で待機しておく。



 エドが小屋に向かってしばらくすると、小屋の中から『ヴオンッ! オン! ウォン!』と野太い吠え声がした。

 小屋の中の人間から「うるせえ!」と一喝されたその吠え声は、腹に響く重厚な鳴き声の割に(誰だい? 遊びに来たの?)だった。


 それでもエドのことが心配になって、迎えに行って一緒に逃げようかしら? とか考えていたら、カサカサと彼が戻ってきた。


(お帰りなさい、エド。遅かったわね?)

(ちょっとね……気絶していた)

(またっ!?)


 心臓がキュッと絞めつけられる……さっきの中のワンちゃんの吠え声で意識が戻ったそう。

 でも――


(エドが気絶するってことは?)

(うん。絶対に居るね)


 エドの目は確信に満ちていた。気絶するほどのニオイを間違う訳ないものね。


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

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