儚い一瞬全ては奪われた。
いつからか、自分が分からなくなった。なんでか考えたくもないし、どうでもいい。考えようとしても、涙が溢れて止まらない。そんな私を支えてくれたのは誰だろうか──。
中学三年生の夏、家族で車で海に出かけた。私は一人っ子なので、家族で出かけるのはとても嬉しかった。車を運転しているのは母。生暖かい風が窓から入ってくる。明るい笑顔で話す両親と、後部座席でひたすら海を眺めている私。楽しみにしていた家族旅行。壊されるとは夢にも思ってなかった。
生暖かい風の勢いが増した。後ろを覗こうとした瞬間、騒音と共に笑顔が消えた。交通事故に合うなんて誰が思っただろうか。
幸せな家族旅行、帰れなくなったのは車を運転していた母。突然だった。信じられなかった。悔しかった。
もうすぐ受験をする私にとって唯一の救いの母が、二度と笑うことは無い。もう私を気にかけてくれることは無い。
体力も感情も薄れた私には、何もやることができないし、考えられない。それでも、誰かと話す事だけは楽しいと感じた。誰かは分からないけど、そんなの私には関係ない。楽しければそれでいい。私は誰かと話すために生きているのだ。
ただ、その誰かが感情を失った時、私から離れていくだろう。誰か分からないまま、私はその人と離れ離れになっていく。もう話すことはない。それが分かった瞬間、涙が溢れて止まらなくなった。
さようなら、お母さん。