後編
前編・中編・後編の三部構成になっております。
やや怪談風のお話になっていますが、怖いお話が苦手なかたでも読めるように(たぶん)マイルドにしています。
あまりの衝撃に、太一じいがしりもちをつきます。ですが、すぐに起きあがり、太一じいは再び夜空をにらみつけました。
「……ふぅ、うまくいったようじゃな。もう大丈夫じゃ。ほれ、あそこを見てみろ」
先ほどの方角を、ゴンも目をこらして見すえます。そして思わず声をもらしたのです。
「なんだあれ? 小さな光が、空にある! それも二つあるぞ! すげぇ小さなお月さまみたいな……」
「あれが、星じゃ。ずっと昔、夜空を埋めつくすほどにたくさんあって、そして……わしら星撃ちたちが、落としつくしたものじゃ」
もう一度、ふぅーっと大きくため息をついて、太一じいは額の汗をぬぐいました。
「これできっと、ほんのわずかじゃが、『星影の主』の力も弱まるじゃろう。……そしてわしの娘も、つまりはお前の伯母のあかりも、わずかばかりじゃが星影のとばりから解放されるじゃろう」
「太一じい、いったいどういうことなんだ? 今のはいったい……。それに、おれの伯母さんは、どうして……」
たき火が消えないように薪をくべながら、太一じいは再び話を始めました。
「わしら星撃ちたちは、どんどん空の星を撃ち落としていった。生活を守る必要もあったし、なによりお殿様からのご命令だ。誰も逆らえん。……だんだんと星の数が減り、消えていって、それとともに闇が濃くなっていったとしても、わしらは星を撃ち落とすしかなかった。そしてわしは、最後に残った星を撃ち落とした。そのころにはめっきり星も見かけなくなっておったから、わしは意気揚々と撃ち落とした星のかけらを持って家へ帰った。当時はお前の父ちゃんはばあさんの腹の中で、わしを出迎えるのは幼い娘のあかりの仕事じゃった。わしも久しぶりにあかりに星のかけらを見せてやれると、浮かれておった。そして森の入口で、あかりが手を振っておった。わしも手を振りかえして……あかりが目の前で闇にさらわれたんじゃ」
最後の星が夜空からなくなったのをきっかけにして、村はもちろん、どの国でも夜になると闇に人がさらわれるようになったのです。人々はそれを、『星影の主』と呼んで恐れるようになったのでした。
「星があの化け物を押しとどめておったんじゃろう。それをわしらが……人間の欲が、開放してしまったんじゃ。とはいえ村の者たちは、わしらを責めはせなんだ。なぜならこの辺鄙な村が、これまで不自由なく暮らすことができたのは、やはりわしら星撃ちのおかげなのじゃからな。だが、わしらは、少なくともわしは、罪の意識にさいなまれ続けた。生活と引き換えに、大切な娘を失ったのじゃから。……じゃが、あかりは死んではおらんかった」
「死んでなかった? でも、星影のとばりにさらわれたら」
白いひげを疲れたように整えて、太一じいは続けました。
「死んでおらんかったのじゃ。今だにときどき、わしは聞く。あかりの泣き声を、『真の闇』が森をおおうそのときにな。じゃが、それならもし、その『真の闇』を祓うことができたら? そうすれば、あかりは生き返る……生き返らないかも知らんが、少なくとも、泣くことはなくなるじゃろう。きっとあかりは救われる。ならば、どうすれば『真の闇』を祓うことができるのか……。そしてわしは思い出したんじゃ。星を撃ち落としたとき、星のかけらは四方八方に飛び散っておった。なら、わしらが見つけられなかった星のかけらも、まだ森にあるんじゃないかって。そして、それを夜空に返したら……再び、星明かりが戻るのではないか、わしはそう考えたんじゃ」
「じゃあ、さっきの、空に向かって撃ったのは……」
ゴンと目をあわせて、太一じいは満足そうに笑いました。
「そうじゃ。星のかけらを、空へ返したんじゃ。そしてゴン、お前が最初に見つけた光は、あれはわしが昔に返した、最初の星のかけらなんじゃ」
驚くゴンの顔が面白かったのでしょう。太一じいは再び、ふっふと笑い、続けました。
「ゴン、お前は目が良い。目だけでいえば、わしよりももっとずっといいじゃろう。もう少し大きくなったら、猟銃の使いかたも教えてやる。……だから、約束してくれ。狩りのあいだに星のかけらを探すんじゃ。そして見つけたら、さっきわしがやったように……空に、返すんじゃ。きっとそうすれば、今まで『星影の主』に囚われた人々のたましいも、救われるじゃろう。……信じて、やってくれるか?」
太一じいの手を、今度はゴンが取りました。深く息を吸いこみ、そして大きくうなずきます。太一じいがしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして、同じようにうなずきました。
「いつかお前の、子供や孫たちに、満点の夜空を見せられるように、わしらで星のかけらを探していこう。……闇は深く、広い。じゃが、照らせぬ闇はないんじゃ。あかりも、きっと……」
身をふるわす太一じいに、ゴンが優しく寄りそいました。夜空には、太一じいとゴンが見つけた小さな星が、返された星のかけらといっしょに、寄りそうように並んでいました。
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