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星を撃った猟師  作者: 小畠由起子
1/3

前編

前編・中編・後編の三部構成になっております。

それぞれすべて本日12/24中に投稿する予定です。

やや怪談風のお話になっていますが、怖いお話が苦手なかたでも読めるように(たぶん)マイルドにしています。

 太一じいは、村でも一番の猟師として知られていました。特に『真の闇』が訪れる夜もよく目が利き、獲物を一発で仕留めることができるのです。その太一じいの腕を、ゴンはあこがれの目で見ているのでした。そして、太一じいもまた、孫のゴンをたいそうかわいがっていたのです。


「太一じい、そろそろお日さまが沈むよ。今日は三日月だから、『真の闇』もさらに濃くなる。もう帰ろうよ」


 その日もゴンは、太一じいの狩りをじっくりと見て、罠の仕掛けかたなどを教わり、西日を見ながら太一じいをうながしました。星がなくなった夜空は、月明かりだけではとてもじゃないけど出歩くことはできません。ましてや森の中では、すぐに遭難してしまうでしょう。あせるゴンに、太一じいはしわくちゃな笑みを見せました。


「あぁ、そうだな。帰ろうか。……む、あれは……」


 太一じいが歩みを止めました。獲物を見つけたのでしょうか? ゴンも目をこらし、そして首をかしげたのです。


 ――なんだあれ? ぼんやり、光ってる――


 ホタルでしょうか? しかし、季節外れのこの時期に、ホタルが出たりするのでしょうか。それか、うわさに聞くツキヨタケでしょうか。


 ――まさか、まさか……おばけとかじゃ、ないよな――


 ゴンが生まれるずっと昔は、夜空には星と呼ばれる、光り輝く宝石のようなものが無数にあふれていたそうです。しかしそれは年々数を減らしていき、最後には一つもなくなってしまい、『真の闇』が訪れるようになったのです。そしてそれとともに、森に関するよからぬうわさがささやかれるようになったのです。その一つが、『星影の主』の話でした。


 ――『真の闇』の中を、『星影の主』だけが動き回り、獲物を狙っている。『星影の主』は、夜に出歩いているものを闇に捕らえ、自らと同じ星影のとばりの向こうへと連れて行ってしまう――


 大人が子供を怖がらせるおとぎ話だとばかり思っていたのですが、こうして『真の闇』が近づいてくると、それも本当の話のように思えてきます。そういえばお話では、『星影の主』はぼんやりと光を放っているというではありませんか。ぶるるっと身ぶるいして、ゴンは思わず太一じいの服をつかみました。しかし、太一じいは動かずに、獲物を見すえるときのように、じっと光を見つめています。


「……太一じい?」


 えんりょがちに声をかけると、太一じいはハッとゴンに顔を向けました。白いひげをゆっくりと指でなでつけて、ほぅっと息をはきました。


「すまんな、怖がらせてしまったか」

「おれ、怖くなんかない!」


 強がるゴンを見て、太一じいはふっふとほほえみます。それからゴンの手をにぎりました。


「ゴン、わしから離れるなよ」


 太一じいはそれだけいうと、すたすたと光のほうへ向かっていったのです。手をにぎられているので、ゴンも仕方なくついていきますが、内心は生きた心地がしませんでした。


 ――太一じい、どうしちまったんだ? 足音も消さずに――


 獲物に近づくときは、絶対に音を立ててはならない。それは太一じいがいつも口を酸っぱくしていっていた約束ごとでした。ですが、今の太一じいは、まるで家の中を歩くかのように、少しも警戒せずに近づいていったのです。もしもあれが、『星影の主』だったら……。


「……やはりそうだ。まだ、まだあってくれたのか……」


 太一じいの背中に隠れていたので、光を放つものがいったいなんなのか、ゴンにはわかりませんでした。ただ、どうやら『星影の主』ではないようです。太一じいがこちらをふりむきました。


「驚かせてすまんかったな。これじゃ。これが光の正体じゃ」


 太一じいがゴンに見せたのは、小さな小石でした。ただ一つ、普通の小石と違うのは、ぼんやりと光を放っているところでした。太一じいはその場にどすんと腰を下ろしました。


「太一じい……?」

「ゴン、すまなんだが、今日はここで野宿するぞ」


 ゴンは耳を疑いました。森の中で野宿だなんて、正気のさたではありません。


「太一じい、なにいってるんだよ! もうすぐにでも日が暮れる、そしたら、『真の闇』が訪れて」

「そうじゃ。わしが今からやろうとしていることは、『真の闇』が訪れた夜でないとできないことじゃ。……ゴン、お前は筋が良い。きっとわしと同じくらい、いや、わしを超えるような猟師になれるだろう。そして、わしを超えるような猟師でないと、今からすることはできん。……『真の闇』を祓うのは、わしのような星撃ちじゃなければならないのじゃ」


 太一じいは、すでに火打石を取り出しています。幸いなことに、村へ持ち帰るための薪は背負っていましたから、火を起こすことはできます。ですが、火の明かりがあったところで、『星影の主』は気にも留めないでしょう。今にも逃げ出したいゴンでしたが、太一じいから、猟師の才能を見出された手前、ここで逃げるわけにもいきません。ぎゅっとくちびるをかんで、ゴンも薪を並べ始めました。


「……太一じい、それで、いったいなにをするつもりなんだ?」

「そうじゃな、日は沈んでも、『真の闇』が訪れるまではまだもう少しかかりそうじゃ。昔話をする時間くらいはありそうじゃな。……ゴン、お前の父ちゃんは、一人っ子だな」


 唐突に聞かれて、ゴンは目をぱちくりさせました。


「そりゃあ、そうだけど、でも、それとなんの関係が」

「本当はな、お前の父ちゃんには姉がいたんだ。あかりという名の、性根の優しい娘じゃった」


 ゴンの目がさらにぱちくりします。そんな話は聞いたこともありませんでした。もちろんゴンの父親も、そんな話はしませんでしたし、おばあさんも、村の人たちも、誰もそんなことはいいません。太一じいがいったいなにを話そうとしているのか、ゴンにはわかりませんでした。


「あかりは、突然いなくなった。わしが最後の星を撃ち落とした日の夜じゃった。……その日から、『星影の主』は現れたのじゃ」

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