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化け猫は歩く、聞く、そして  作者: 秋川 秀人
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第一章 四話目 父と後輩

あれから数日が経ったが、仁はいつも通り魚屋としての仕事をなんとか続けている。

僕はその姿を座敷から見つめる。

一通り仕事を終えた仁が僕の方へ歩いとこようとした時、


「すいません。」


と外から声がした。

僕がふとその方向を見ると、この前挨拶に来ていた紺スーツの男が立っていた。


「こりゃどうも、またスーパーに関してのお話しですか?」


仁は不思議そうな顔で彼に言う。


「いえ、今回は別のお話で来ました。…あなたの、仁くんのお父さんについての話です。」


紺スーツは真っ直ぐとした目で仁を見る。


「…立ち話もなんですから、もしよかったら奥へどうぞ。」


仁は一瞬驚いた後に紺スーツを座敷へ招いた。


「おや、可愛い猫ちゃんですね?飼い猫ですか?」


紺スーツが僕を見ていった。


「いや、そいつは野良猫なんだけどご飯を食べに毎日うちに来てんですよ。…そんで、親父についての話ってのは?」


仁は笑って言ったのち、真面目な顔をして話を促した。


「えぇ、実は僕は大学時代あなたのお父さんの後輩でしてね。色々とよくしてもらってたんです。大学を卒業してそれぞれの仕事についても、よく連絡を取っていました。」


紺スーツは続けて言う。


「ある日、突然お父さんから電話が来て、『経営について教えてくれ!』と頼まれたんです。大学時代僕は経営の講義を取っていて、あなたのお父さんより多少は経営に関しては詳しかったからでしょうね。」


「そうか、あんたが親父に…。親父は海のことばっか考えてる海洋バカだったのになんで魚屋の経営なんてちゃんとできてたのかなとは疑問に思ってたんです。」


仁が笑いながら言う。


「あはは、といっても僕はそんなに多くのことを教えられてわけではないんですけどね。多分お父さんが本を読んだりしてほとんど自分で勉強をしたんだと思いますよ?」


紺スーツも笑って返す。


「奥様が亡くなったと聞いて心配していたんですが、お父さんはあなたがいるおかげで毎日必死に頑張れるといっていました。嫁が亡くなったのは悲しいが、仕事を辞めて毎日可愛い息子に会えて幸せだ、っていっつもいってましたよ。」


「…親父」


「…それで実はあなたに伝えたいことがあるんです。昔お父さんと一緒に話してた時に、お父さんが『仁は俺のことが大好きだから、いつか俺がいなくなったら律儀にこのボロの魚屋を継いで、そのまま一生を過ごそうとするかもな。でも俺は仁にはちゃんと仁の人生を過ごしてほしいんだ。いなくなった俺のために生きるんじゃなくて、まだ生きている誰かを幸せにするために生きてほしい。』と言っていましてね、いつか息子さんに会えた時に教えてあげようと思ってたんですが、だいぶ遅れてしまって。」


「親父が、そんなこと…」


「えぇ、こんなことを言っては言い訳に聞こえるかもしれませんが…、いえ、実際あなたからこの魚屋を奪うことになってしまった僕の罪悪感を少しでも軽くするための言い訳であることに変わりはないんですが…」


紺スーツは仁の目を見て言う。


「仁くん、僕は、あなたにはあなたの好きなように生きて欲しいんです。天国のお父さんだっていつまでも自分のことを引きずらず、まだ生きているみんなのことを大切にして生涯を過ごしてほしいと思ってるはずです。」


仁はしばらく黙った後、ゆっくり口を開いた。


「…すみません、ちょっと頭の中が混乱してて…。1人で考え事をしたいので帰っていただいてもいいですか?」


紺スーツはうなづく。


「はい、私が伝えたいことはもう言い切ったので、それでは失礼します。」


そういって紺スーツは去っていった。


仁は座敷に寝転がりぼーっと天井を眺めていた。

彼をそっとしておいてやろうと思い、僕も店から出た。

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