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化け猫は歩く、聞く、そして  作者: 秋川 秀人
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第一章 二話目 父親と息子

第1章 2話目 父親と息子

化け猫になってから1週間が経った頃、ようやく僕は今いる町をぐるっと一通り散策できた。

子供たちが遊ぶ公園、工事予定の広い空き地、小学校の付近に立ち並ぶ民家。

どうやらこの町はあまり大きな町でなく、魚屋のあった小さな商店街が1番の大通りのようだった。


町の散策を終えた僕は化け猫になってからの日課となっている魚屋での食事を済ませたのちに、店主の居住スペースとなっている奥にある座敷で次に何するかを考えながら体を休めていた。

すると、仕事に一段落ついたのであろう店主が僕の隣に座って僕の頭を撫でた。


店主、客からは確か仁さんと呼ばれていたか、仁がこうやって僕のそばに座るときは決まって僕と一緒に話をしたいのだ。

といっても仁が猫の言葉をわかるわけもないので、ただ僕が仁の話を一方的に聞くだけなのだが。


「あれから最近毎日来てくれてるな、もううちの子になっちまうか?」


笑いながら彼はそう言う。


「俺は結婚もしてないし、もう親もいなくなっちまったから寂しく1人ぼっちで暮らしてたんだけど、お前が来てくれるようになってから少し寂しくなくなったよ。」


仁は僕の頭を撫でる手を止め、ぼんやりとした瞳で話し始める。


「俺の親父は元々海洋生物の研究をしてたんだけどさ、俺がまだ小さい頃に母さんが病気で亡くなってから、家で俺が1人で寂しくないようにってわざわざ調査で家を離れることが多い仕事を辞めて、その時のツテと知識を使って自分の家で魚屋を始めたんだ。いい親父だと思うだろう?」


仁は僕の方を見て得意げに笑ったあと、空を見上げながらポツリポツリとまた話し始めた。


「でもさ、もう5年くらい前のことになるかな、親父は事故に遭って死んだんだ。飲酒運転する車から見ず知らずの子供を庇って代わりに轢かれたんだってよ。」


仁はひどく悲しそうな顔で続ける。


「今でこそ優しいあの人らしいなって思うけどさ、当時親父が死んだって聞いた時俺は何が起こったかわからなくなって頭の中が空っぽになっちまった。俺はその時勤めてた会社も辞めて、ずっと家で1人で泣いてたよ。」


仁の声は震えている。


「小さい頃から俺が1人で寂しくないようにしてくれてた人がさ、急にいなくなっちまったんだ。あの時俺は頭の中だけじゃなくて、心の中まで空っぽになっちまってたんだろうなぁ。」


仁は今にも泣いてしまいそうな顔をして空を流れる雲を見ている。


「でも、1人で泣きながら考えてさ、あの人が俺のことを誰よりも大切にしてくれた証拠のこの魚屋だけは俺が守っていこうと思って、今までやったこともない経営を必死に勉強して、魚屋を受け継いだんだ。」


仁は微笑んでこちらを見た。

その顔はいつものような大人びたものではなくて、迷子になった小さな子供のようで、見ているこちらが不安になるような微笑みを浮かべていた。

たまらない気持ちになった僕は仁の膝に乗り、彼の手を舐める。


「あはは、ザラザラして痛いって。…まあ俺も色々あったからさ、毎日お前が遊びに来てくれて、少しは寂しさも紛れてんだよ。これからも美味しいご飯出してやるから、いつでも遊びに来てくれよ。」


そういって膝に乗っている僕を抱き上げて、優しく床に下ろした後、仁は立ち上がり、また店の方へと戻っていった。


…僕は、自分がまだ生きていたかった理由を探しに現世に生き返ってきた。

もし目標を達成できなかったら僕は魂ごと消される、もしその目標を達成したとしても、元々死人である僕はおそらく天国に送られて、もう現世には戻れないだろう。


もしそうなってしまったら、仁は、少しの寂しさを紛らわすこともできない今までの日常に戻ることになるのだろうか。


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