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化け猫は歩く、聞く、そして  作者: 秋川 秀人
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第一章 一話目 魚屋と猫

第1章 1話目 魚屋と猫

天国から現世に送られる間、僕はおそらく寝ていたらしく、夢を見ていた。


誰かが僕の目の前にお皿を差し出す。

そのお皿の上には赤いお魚の切り身が乗せられている、恐る恐る食べてみると今までに食べたことがないくらい美味しくって僕は夢中になって残りの切り身も食べた。

「あはは、お前はマグロが大好きなんだね。いっぱいお食べ。」

お魚をくれた誰かが僕の頭を優しく撫でながらそう言った。


やがて僕は目を覚まして、あたりを確認した。

錆びてメッキの剥がれた滑り台や、誰のかわからないおもちゃが忘れられた砂場。

どうやら僕は公園で目を覚ましたらしい。

少し歩いて周りを確かめると、蕾の膨らみ始めた桜の木を見つけた。

今はちょうど冬から春に移り変わる頃だろうか。

後3回僕が桜の花を見る前に、僕の魂を現世に引っ張り続けているものを見つけ出さなければならない。

さて、一体何から始めればいいのだろうか。

行くあてもないまましばらく辺りを歩き続けていたが、


グゥ〜


と、突然あたりに間抜けな音が響く。

化け猫だから腹はすかないだろうと勝手に思っていたが、そんなこともないらしい。

となれば、何はともあれ食料を手に入れられる場所を探すのが先決か。


おすすめの狩場を聞こうとちょうど近くを通りかかった野良猫に話しかけた。


「やあ、こんにちは。僕はすごくお腹が空いているんだけど、ここら辺に美味しいご飯を食べられる場所はあるかな?」


野良猫は怪訝な顔をして口を開いた。


「ニャア」


「ニャアじゃなくて…。いい狩場がないかって僕は聞いているんだけど。」


「ンニャーオ」


…なぜだ、どうやら僕は他の猫が話している言葉を理解できないようだ。生前の記憶を全て失った拍子に言語能力も失ってしまったのだろうか。


僕が呆然としている間に、野良猫は歩き出してしまった。

だが突然こちらを振り返り


「ンニャ!」


と短く声を上げた。

着いてこいということだろうか、もしかしたら僕が相手の言葉をわからないだけで、相手は僕の言葉を理解しているのかもしれない。

他にあてもないし、僕はその野良猫についていくことにした。


しばらく野良猫について歩くと商店街のような場所に辿り着いた。

突然野良猫が走り出し何かを捕まえる、僕は嫌な予感がしながらも捕まえた何かを口に咥えた野良猫がこちらに歩いてくるのを見つめた。


「ンッ」


野良猫は口に咥えていた何かを僕の目の前に落とす。

それは長い触覚を持ち、黒くテカテカと光り輝く昆虫であった。


「あー、気持ちはありがたいんだけどちょっと…」


猫だからもちろん虫を食べることだってあるだろうが、僕はなんとなく虫を食べる気分にはなれなかった。

ついさっき見た夢のせいだろうか、僕は今美味しい魚のようなものが食べたい。

野良猫は僕に「贅沢者め」とでも言っているかのような目線を向けたのち、どこかへ去ってしまった。


「あー、振り出しに戻ったか。」


そう思う僕の鼻をある匂いが刺激する。

海のような潮の香りと血のような鉄の混じった匂い。

僕は匂いの元に向かって駆け出した。

匂いの元を見つけて僕はかじりつく。

これは、間違い無くマグロだ。

大好物を見つけて僕は夢中になってマグロを食べた、切り身を食べ終わった後はパックを舐めたし、自分の口の周りについていた食べかすまで一つ残らず堪能した。


食べ終わった僕が気配を感じて恐る恐る横を見ると、そこには


包丁を持ってこちらを見つめる強面の人間の男がいた。


ああ、これは死んだかもしれない。

そう思い僕は強く目を閉じる。

男の手がこちらに伸びてくるのを感じながら、

化け猫が死んだ場合また生き返るのだろうかそれとももう魂が消えるのだろうか、などと悠長な考えことをしていた。


王様に頼めばまた生き返らせてもらえるだろうと信じて覚悟を決めたその瞬間、男の手は僕の頭を優しく撫でていた。

恐る恐る目を開いて男の顔を見ると男は笑い出した。


「あはは、そんなに怖がらなくていいよ。お腹が空いていたんだろう?うちの魚は世界一美味しいから猫だってつい夢中で食べたくなっちまうに決まってるもんな。」


どうやらこの男は僕に敵意を抱いていない、それどころか得意げな表情で笑っている。


「俺は仕事があるからもう戻るけど、もしお腹が空いて死んじまうなんて思ったらいつでもうちに来いよ。美味しい魚食わせてやるからさ。」


そう言って男は店の奥に消えていった。


しばらく毛繕いをして心を落ち着かせた後に、状況を整理した。

匂いにつられて辿り着いたのは魚屋で、盗み食いしているのを店主に見つかり殺されると思ったら優しく頭を撫でられて、これからの食事も約束してくれた、というところだろうか。

どうにも上手くいきすぎな気もするが、まあ上手くいかなくて飢えるより断然いいに決まっている。

しばらくの間はこの男から食べ物をもらうことにしよう。


そう決意して僕は情報を集めるための散策に行った。

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