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あの願いを叶えるために  作者: ナハァト
第二章 三姉妹の賢者
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 辺境都市・シウルの外周部。三つの門の近く。

 そこに兵士、騎士だけではなく、辺境都市・シウルの警備兵も集まっていた。

 といっても、その数は一部隊というか、十数人ほど。

 ただ、その様子は完全武装であるため、どこか物々しいモノが感じられる。

 けれど、別にどこかに攻め入る訳ではない。

 待っているのだ。


 その先頭に立っているのは、モラルスと女性斥候。

 モラルスはニトたちが動いて直ぐに、友人関係でもある辺境伯の下に向かって私兵を動かすように頼んだのだが、辺境伯としては、たとえ友人からの頼みであったとしても、私兵を動かすとなればそれ相応の表向き、もしくは対外的な理由が、今は必要であった。

 いくら十数人という全体で見れば小規模であっても、だ。


 理由が必要なのは、とある侯爵が辺境都市・シウルを手中にしようとしていることが関係している。

 そのことを把握している辺境伯ではあるが、今は明確な証拠がないために、追及してその動きをとめることができていない。

 尖兵と言ってもいい男爵も、貴族としての立場で牽制はできるが、とめるのはその場限りであり、根本的な対処はできずにいた。

 ここで対外的な理由もなく私兵を動かせば、それを理由に何かしらの介入を許してしまいかねないため、理由を求めたのだ。


 その理由に関しては、ニトたちが動いているというが重要だった。

 王家がわざわざ注意を促してきた人物が関わっているため、放置する訳にはいかないので私兵を動かした――というのが、辺境伯が私兵を動かした対外的な理由となっている。

 ただ、結果だけを見れば、この理由はそこまで重要ではなくなった。

 何しろ、今回の出来事によって、とある侯爵は辺境伯からだけではなく、王家からも追及されることになり、それどころではなくなるからだ。


     ―――


 門の近くで待機していた辺境伯の私兵たちは、その光景を見て驚きを隠せない。

 これまで見たことがない――初見だからだ。

 その光景とは、辺境都市・シウル内で一気に有名になったフェンリル二頭――ノインとフィーアを従えた黒髪の冒険者――ニトが、縄でぐるぐる巻きにされて巨大な団子状になっている集団と、重そうな荷馬車をそれぞれ片手で持ち上げながら走ってきたというモノであった。

 あんな風に持ち上げて腕は疲れないのだろうか? と場違いな感想を抱く兵士が居た。

 普通はそんな存在が迫ってきているのだから身構えてもおかしくない。

 けれど、実際は多少身構える程度で終わる。

 敵意はない、と示すように。

 というのも、手出し無用だと辺境伯から厳命されているからだ。

 それに――。


「大丈夫です! 敵ではありません! 落ち着いてください!」


 先頭に立つモラルスが私兵たちを落ち着かせるために、声を張り上げているというのもある。

 女性斥候も協力した。

 そのモラルスが最初に気付く。


「ああ! メルサ! 無事で!」


 ノインの背に乗せられていたメルサと「麗しき深緑」の一行を目にして、モラルスが喜びの声を上げる。


「モラルス!」


 メルサも喜びの声を上げ、ノインがモラルスの近くで足をとめて下ろすと、モラルスとメルサはさらに喜びを露わにして抱き締め合う。


「ああっ!」


 女性斥候も喜びの声を上げ、「麗しき深緑」の仲間たちの下へ。

 互いに無事を喜び合う。

 集まっていた私兵たちが、その光景を微笑ましそうに見ていた。


 メルサの無事を確認したモラルスは、メルサと「麗しき深緑」の一行を伴って、ニトたちのところへ向かう。

 ニトは荷馬車と団子状態の盗賊を下ろしていて、近付いてくるのを悠然と待っていた。


「助けていただき、ありがとうございました!」


 モラルスがそう告げて、感謝を伝えるように頭を下げる。

 次いで、メルサと「麗しき深緑」の一行も同じように頭を下げた。


「気にしなくていい。俺は買いたい物を取り返しただけだ」


 ニトはそう答える。

 その返答にはどこか余裕のようなモノが感じられた。

 というのも、ここに来るまでの間にメルサに確認してもらい、絵が無事だとわかっているからだ。


「それよりも、まずはこれを回収してくれ。言われた通り、一応全員生きている」


 ニトが視線だけで示すのは、団子状態の集団。

 辺境伯の私兵にモラルスがお願いして、引き取ってもらう。

 その際、モラルスの口添えと、捕まっていた際に話の内容の一部が聞こえていたメルサと「麗しき深緑」の一行の証言によって、秘密部隊を見る私兵たちの視線が厳しいモノになる。

 これから情報を引き出されるために何が行われるかは言うまでもないだろう。

 そこに手段は問われない。


 私兵たちが縄を解きつつ、個別に捕らえていく。

 秘密部隊は一切抵抗しなかった。

 ここに来るまでに任務のために自害しようとした者はニトに強制的に癒されて、それが鬱陶しくなったニトが殺意の圧力で黙らせたのだ。

 抵抗しないからといっても、私兵たちも抜かりはない。

 個別に捕らえる際に猿ぐつわなど自害防止の措置を取っていた。


 その様子を見ていたモラルスが呟く。


「これでシウルに潜む膿を少しでも出せればいいのですが……」


 モラルスの声に、何かしらの思いのようなモノを感じるニト。

 商人として、辺境都市・シウルに住む者として、盗賊や繋がっているという貴族から、これまで色々と迷惑をかけられてきたのだろうと、ニトは思う。

 モラルスはその光景を見ながら気持ちを落ち着かせるように一息吐き、ニトに視線を向ける。


「それにしても、本当に全員生け捕っていただけるとは……数名くらいは死亡してもおかしくないと思っていました。さすがです、と言わせていただきます」


「別にそこまでのことじゃない。それに、全員は全員だが、それはあの場に居た者だけだ。アジトにはまだ居るかもな」


「それはそうですが、それはこの先のこと。まずは、こうして妻と『麗しき深緑』を助けていただいた訳ですし、お礼の一つとして予約された絵を進呈させて」


「いや、大丈夫だ。買います」


 ニトは即座に断りを入れる。

 断られたことにモラルスが呆気に取られた表情を浮かべるが、別にニトとしては、そこまでの労力でなかったとか、そこまでのことをしたとは思えないとか、そういったことで断った訳ではない。


「えっと、つまり……購入することに意味がある、ということですか?」


 少し困惑しながらモラルスがそう尋ねると、ニトはその通りだと頷く。


「そうだ。もちろん、もらえるのは嬉しいが、俺にとって購入するとは、言わばお布施のようなモノ。それに、神絵師に直接何かを伝えるというのは難しいが、それでもどうにか、応援しています、頑張ってください、とそういった思いを伝えるための手段の一つでもある。人気だからたくさん売れるのではなく、たくさん売れるから人気なのだ。その一助となるように、購入する」


「は、はあ」


「深く考えることはないよ。ニトは特定分野において妙なこだわりを持っているから、買うと言ったのなら必ず買うだろうね。だから、そういうモノだと受け流しておけばいいよ」


 モラルスに対してそう助言するノイン。

 その助言に従うことにするモラルス。


「でしたら、お礼は別で考えさせていただきます。依頼の報酬についても」


「ああ、そういえば何か依頼したいと言っていたな。あそこでわざわざ願うということは、盗賊関連か?」


「はい。シウルの周辺には盗賊が多く蔓延っているのです。意図的なのは一部で、他は自然発生とでも言いますか、本当に迷惑しているのです。それこそ、古参ともなると手強く、厄介でして……辺境伯の私兵といえども、そう易々とは捕縛できません」


 ニトがノインに尋ねるような視線を向ける。

 そんなに居るのか? と。


「そうだね。そこらの森の中に魔物や獣ではない、小童共の気配を多数感じられるよ」


「なら、依頼内容は盗賊の一掃か? だが、普通そういう依頼は一個人、一商会がするモノではないだろ? ここなら辺境伯とか、都市を上げて全体で、とかじゃないのか?」


 ニトが疑問に思ったことを口にするが、問題はないとモラルスは笑みを浮かべる。

 メルサと「麗しき深緑」の一行は実際に助け出されたということもあってか、モラルスがニトたちに盗賊掃討の依頼を出そうとしていても口を挟むことはなかった。


「確かにその通りです。しかし、多くが関わると動き出すまでに時間がかかってしまいますし、下手に時間を与えれば逃亡を許してしまうかもしれません。それなら、お願いできる者が居て、実行できる者が居る。なら、先に動いても構わないのではありませんか? 後始末は、その時にすればいいのです」


「まあ、さっさとやれるなら、やるべきだな」


「その通りです。それに、私が依頼したことで盗賊が掃討されるのであれば、シウルでの地位はさらに盤石となるでしょう」


 だから自分にもメリットはあるのです、とモラルスは笑みを浮かべたままだ。

 実際のところ、これで辺境都市・シウル周辺から盗賊が一掃されれば、ヘンドゥーラ商会の立ち位置、位置付けは、より盤石に、より強固に、より重要になるのは間違いない。

 辺境都市・シウルにおいて今もそうだが、より無視できないモノとなる。

 そこでもしジャーラ商会がその位置に立てばより酷く、ハッキリ言えば劣悪になるだろうが、ヘンドゥーラ商会であれば、今より良いかはともかく、少なくとも悪くはならないだろう。

 それに、だ。

 そもそもの話として、盗賊が一掃されること自体は悪いことではない。


「まっ、そっちが納得しているのなら別に構わないさ」


 なので、ニトとしてはそこまで気にすることではなかった。


「ただ、依頼ということは、何かしらの報酬があるのか?」


「それはもちろん満足できるモノを用意させていただきますが……その前に一つよろしいですか?」


「なんだ?」


「先ほどから一掃と言っていますが、可能なのですか? こちらとしては、ある程度間引いていただけるだけでも助かるのですが……」


 モラルスの問いに、ニトはノインとフィーアに視線を向ける。

 ノインとフィーアは、特に問題ないと笑みを浮かべた。

 ニトは問題ないと肩をすくめる。


「どうやら、食後の運動が足りないようだ。それに、あんたの勘? で、俺たちは実行できる者だろ? なら、あんたは一掃して欲しいと依頼するだけでいい」


「わかりました。では、一掃でお願い致します。ですが、そうなると報酬も大きくなりますが……」


 モラルスが思考を始める。

 特にこれといって求めるモノはないため、ニトたちは何も言わない。

 好きにすればいい、くらいの気持ちである。

 ほどなくして、モラルスが口を開く。


「では、こうしましょう。この数日の動向で、フェンリルさまたちは、どうやら食事にかなりこだわりがあるようですね」


「ふふん。その通りだよ」


 ノインがそう答えると、フィーアも頷く。


「でしたら、シウル滞在中の食事代はヘンドゥーラ商会で持つというのはどうでしょう? 制限は設けませんので、好きなだけ好きな物を食していただいて構いません。もちろん、お土産代も含んでいます」


 モラルスがそう提案する。

 そこで、ニトが待ったをかけた。


「結構食うけど大丈夫なのか?」


「私を大食いみたいに言うんじゃないよ! 小童たちとは体格からして違うだけで、標準だよ! 標準!」


 ノインがニトに対して苦情を告げるが、ニトは聞く耳を持たない。

 これまで金を出した経験から、モラルスに聞いたのである。

 モラルスは大丈夫ですと答え、ノインとフィーアもそれで構わないと依頼を受けることにした。

 そして、ニトへの報酬は――。


「報酬金もありますが、それとは別に一つ。どうやら、ニトさまは既存の枠に囚われない力を持っているようですが、それだけで望むモノすべてが手に入るかはわかりません。たとえば、芸術関連ともなると、商人でなければ手に入らない情報や手段も存在しているでしょう」


「まあ、言いたいことはわかる。力だけではどうしようもないことは、あるだろうな」


「はい。ですので、何かしらの事態に対して商人の力が欲しいと願われた際に、ヘンドゥーラ商会が全面的に協力しましょう。それが報酬として、いかがでしょうか?」


「ああ、それで構わない」


 了承するニト。

 ニトとしては、別に金だけでも充分だった。

 辺境都市・シウルにおいてノインとフィーアの食費を気にしなくても済むようになったし、それなりに土産というか弁当というか、今後の分も買って「アイテムボックス」の中に仕舞っておけば、当分はもつからである。

 ただ、モラルスが言ったように、ニトが望むモノを手にしようとするなら、商人の力というか、助けが必要になる時もあるかもしれない。

 その助けをしてくれるのなら、ニトとしても渡りに船と言ってもいいだろう。


 そして、もう少しだけ細々としたモノを決めたあと、双方納得したということで、早速ニトたちは盗賊一掃のために動き出した。


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