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 セクレとリーストと共に、ヴァレードのニトの近くに転移で現れる。

 いや、戻ってきた、だろうか。


「お待たせしました」


 ニトに向けて一礼するヴァレード。


「いや、別にそこまで待ってはいないが……」


 ニトはそう答えつつも、視線はヴァレードからセクレへ……そのままリーストへと向けられ……ヴァレードへと戻る。

 


「それで、戻って来たってことは、確証は得られたのか? それとも、セクレともう一人のが知っているのか? あるいは、知っていて吐かないから連れてきて、俺に尋問でもしろと?」


「ああ、ニトさまが尋問……それはそれで面白そうですね。思い当たりませんでした。やってみますか?」


「俺の場合、尋問というか力業になると思うが?」


「それはそれで面白そうですね」


「面白くありませんから! と言いますか、私とリーストの状態を見て気にもとめないってどういう神経をしているのですか!」


 セクレが声を荒げる。

 それも致し方ないだろう。

 何しろ、ヴァレードはセクレとリーストに対して塔に手を貸さず、そのまま転移魔法で連れて来たのだ。

 つまり、倒れている状態で、である。

 ニトからすればヴァレードはともかく、セクレとリーストがいきなり倒れた状態で現れて、視線を向けて一度はその状態を見たのにも関わらず、ニトは一切気にした素振りを見せなかったのだ。

 セクレはそれが不満であった。

 少しは心配するのが普通だろう、と。

 もしくは、大丈夫か? ヴァレードが迷惑をかけたな、と助け起こすくらいはやってもいいのでは? とも思う。

 まあ、この辺りはニトとの付き合いがまだ浅い――というか、ほぼ初対面に近い関係なので、ニトにそれを求めても仕方ないと、わからなくても不思議ではない。

 ニトからの好待遇を求めるのなら、少なくとも絵師でなければならないだろう。

 当然。セクレは違うので、最初から無理な話であった。

 それに、ニトもそこまで状況を判断できない訳ではないのだ。


「いや、そう言われてもな。大体は見てわかるというか、傷付き具合から、そこの女性と引き分け……あるいはどちらかが勝って終わったが、その時はもうどちらも精魂尽き果てて身動きが取れず、そこにヴァレードが確証を得るために現れて……といったところだろ。ヴァレードが起こさなかったのは……まあ、ヴァレードだし」


 それで通じるだろ? とニトは思う。

 実際その通りなので、セクレはなんとも言えない。


「その通りでございます。私を理解しているようで何より」


 代わりに、ヴァレードが肯定する。

 そのやり取りを見て、セクレの心中では――。


(……まあ、ヴァレードが懐いた訳ですし、普通であるはずが、普通を求めてはいけませんね)


 そう判断して息を吐く。

 寧ろ、まともに相手をしようとすると疲れる、と。

 セクレからすれば、ヴァレードも。ニトも。

 ただ、それでも味方を求めてセクレはリーストを見る。


「………………」


 リーストはニトたちを見ていなかった。

 意識もせず、行われたやり取りも聞こえていなかったように別のところを見ている。


「……リースト?」


 何をそんなに真剣に見ているのだろう、とセクレはリーストの視線を追い――一人、見えない何かと戦っているような、どことなく踊っているような、そんな超グラートを視界内に捉える。


「あ、あれは……何を?」


 直ぐそこに超グラートが居て、つい先ほどと言ってもいいような時に殺されかけたのだが、それよりも何故あのような行動を取っている? という違和感の方が強く出て、思わずそう口にしてしまうセクレ。

 ニトがヴァレードに尋ねる。


「二人にもアレが見えているのか?」


「ええ、その方が話は早くなるかな? と思いまして。この辺りには影響がないようにしました」


 ニトの問いにそう答えたヴァレードは、そのままセクレの方にも答える。


「セクレ。あれは、幻覚を見ている状態ですよ。今は幻覚の中で私と戦っているのです」


「……幻覚?」


 セクレがヴァレードを見る。

 いや、その言葉に反応して、リーストも。


「私は本物ですよ。実体です」


 ニッコリと笑みを浮かべるヴァレード。

 そう言われても、そう言っているのがヴァレードだからか、セクレとリーストはそれを信じられない。

 結局のところ、超グラートが幻覚の中で戦っているのを見ている、という幻覚を見せられているのでは? とセクレとリーストは考えてしまうのだ。


「……これは現実ですよ」


 セクレとリーストが信じていないようなので、ヴァレードはそう付け加える。

 それが余計に怪しむ要因となった。

 わざわざ現実と言う辺りが、如何にもこれが現実であると誤認させようとしている、とまず考えてしまう辺り、セクレとリーストにとってヴァレードとはそういう(素直に信じられない)存在なのである。

 もちろん、ヴァレードも自分がそういう風に見られていると知っている――知っていて、そういう風な態度を取って面白がっていた。


「疑り深い方たちですね。こんなにも私は正直に話しているというのに」


「日頃のあなたを考えれば、誰だってこうなります」


「普段の行いを改め……いえ、改めたとしても、それを素直に信じられないわ」


 そこでニッコリと笑みを返すのが、ヴァレードである。

 ニトはそんなヴァレードに半眼を向けつつ、口を開く。


「ヴァレードがこうなのはどうしようもないだろ。それよりも、確証を得たのなら、さっさと説明して欲しいんだが?」


 その問いにヴァレードだけが難色を示した。

 言うのはいいのだが、言ったあとがどうなるか未知数だからである。

 究極のところは動くか動かないかの二択なので、ニトがどっちに傾くか、正直どちらの可能性があるとヴァレードは判断ができなかった。

 難色を示したヴァレードに、セクレとリーストは訝しむが、やはりここもニトとの付き合いがないも同然なので、その理由を察することはできない。

 なので、せっつくことができる。


「ヴァレード。何を黙っているのですか。早くアルザリアさまをお救いしないと」


「そうよ。時間をかければかけるほど、状況は悪くなる一方よ」


「……どういうことだ? 神絵師さまが関係しているのか?」


 神絵師・ouma(アルザリア)が関係しているとあっては、ニトとしても見過ごせない。見過す訳にはいかない。決して。

 だからこそ、ニトはヴァレードに問い詰めるような鋭い視線を向ける。

 ヴァレードは覚悟を固めるように一息吐く。


「……まあ、隠していても仕方ありませんしね。いいですか、ニトさま。言っても無駄かもしれませんが、気をしっかり……いえ、自分をしっかりと持って聞いてください。それと、安易な手段(怒りのままの破壊)に出ないように」


 強く念押しされて、ニトは頷きを返す。

 本当に大丈夫でしょうか? と思いつつ、ヴァレードは説明する。


     ―――


 ヴァレードは、現在のアルザリアの状況――つまり、超グラートについての説明を終える――と同時に身構えた。

 ニトを押さえるためではない。

 丁度位置的にニトが超グラートに向けて直線上に動けば、その線上に自分が居ると気付いたからで、その場合に横っ飛びで避けるためである。

 ただ――。


「………………」


 ニトは動かなかった。

 その場に立ち尽くし……瞬間的に怒りと殺意が表面に出て超グラートを見る。

 ヴァレードは横っ飛びした。

 しかし、ニトが超グラートを見た瞬間、怒りと殺意は霧散して、その場に立ち尽くしたまま動かない。

 横っ飛びしたヴァレードに対して、セクレとリーストは、何してんだ、こいつ……みたいな視線を向けるが、当のヴァレードは気にせず立ち上がり、ニトに声をかける。


「これは……予想外、でしょうか? まあ、動かないことも考えてはいましたが、それでも動こうとして動かない――いえ、動けないでしょうか? とにかく、そのような者を初めて見ます」


「……好きで動かない訳じゃない。どうしても駄目だな。無理だ。話を聞いてあいつを始末してやる、と視線を向けただけで怒りと殺意が霧散して、怒りのままに動けない。強制的に静められてしまって……そんな感じで感情が湧き上がっては静まって、というのを繰り返して落ち着かない。その内におかしくなって暴れ出してもおかしくない気がする」


 それは暴走と言うのでは? とヴァレード、セクレ、リーストは思った。

 セクレとリーストは、さらにニトを危険人物? と位置付ける。


「なるほど。そうなると早急にアルザリアさまを救出した方が良さそうですが……」


 わかってはいるのだが、ヴァレードは確認するようにニトを見る。

 ニトはそのまま答える。


「説明を聞いても、俺の状況は何も変わっていない。攻撃意識も手段も取れない。神絵師さまに攻撃はできない。いや、そこに神絵師さまが居るとわかってしまったから、下手をすれば違うとわかっていても命令されたら聞いてしまいそうだ」


「それは勘弁していただきたいです」


「わかっている。だが、吐き出させるとなると攻撃するのが一番だというのもわかる。わかる……が、現状だと俺に無理だ。これまで通り、防御に徹する、それと、神絵師さまに攻撃するなと立ち塞がりそうなのを我慢して行わないくらいしかできない」


「……そうなりましたか。となると……」


 ヴァレードがニト、セクレ、リーストと見て一息吐く。


「ニトさまは制限されたままで、セクレとリーストは未だ満足に動くこともできず、まともに戦えるのは私だけ。……私がしかできる者がいないようですね」


 やれやれ、と肩をすくめるヴァレード。

 そんなヴァレードにニトが尋ねる。


「できるのか? まあ、できない俺が聞くのもなんだが、真正面からだとお前の方が分は悪いだろ」


「ええ。ですので、手伝っていただけませんか?」


「……まあ、それが無難か。現状だとお前がやられると詰みだからな。盾くらいならなってやる」


「ありがとうございます」


 ヴァレードの隣にニトが立ち、どちらもただ悠然と並ぶ。

 これから超グラートを相手にするというのに、二人共緊張感のようなモノは一切感じられなかった。

 だからという訳ではないが、リーストが急かすように声をかける。


「ともかく、救出するなら急いだ方がいいわよ。下手をすればアルザリアを救出できたとしても、その力の大半は奪われて、グラートの強さはそう変わらない、なんてこともあり得るから!」


「強さは気にしなくていい」


「それは問題ありませんよ。アルザリアさまを救出すれば、終わりです」


 ニトとヴァレードがそれは重要ではないと答え、リーストが「は? 強さは関係ないって……」と首を傾げた時、超グラートの動きがとまる。

 幻覚が、解けたのだ。

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