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 ――魔王城。謁見の間。


「……リースト」


 倒れたままのセクレが名を呼ぶ。

 名を呼ばれたリーストもまた倒れており、少しだけ身じろぎして、セクレの方に視線を向ける。


「……何? 呼吸は整ってきたけれど、話すのはまだ億劫なのに……それに、忘れないで。あなたを助けたのは、私があなたを倒すため。それだけで、仲良くするためではないわよ」


「それはわかっています。挑戦はいつでも受けて立ちます」


「挑戦って、私はあなたを殺すつもりで……もういいわ。こんな話も馬鹿らしいし。それで、何か用かしら?」


「先ほどの話だけど」


「何? 騙しているか心配ってこと? 今更嘘を吐いてどうするのよ。私の狙いに手を出そうとしたのだから、グラートさま……いえ、グラートは私の敵になった。だから、隠しておく必要もない。それだけのことよ」


「いえ、別に疑っていません。事実、未だにアルザリアさまが現れないのは、あなたが言った通りのことが起こったのだと思いますから。でなければ、グラートが何をしようともアルザリアさまが負ける訳ありません」


「まあ、歴代最強魔王の名は伊達ではないわね。だからこそ、死なない……いえ、死ににくい体にしての長期戦を狙った訳だし。……まあ、想定よりもかなり早かったのは、本当に予想外だったけれど……アルザリアは体力がないのかしら?」


 グラートに力を得る術を授けたり、今も見事にアルザリアの唯一と言ってもいい弱点を言い当てたりと、リーストは地頭がいいのだろう。

 また、最後の方の言葉は、セクレには聞こえないように呟くなど配慮もしていた。

 もっとも、聞こえていたら面倒な絡みを受けるだろうな、という思いもある。

 対するセクレも同程度ではあるのだが、アルザリアに対する敬愛によって弱点となる部分には気付かない。


「ともかく、早くこのことを伝えねば……最悪の事態になりかねません」


「伝えるって……その、グラートが言っていた、アルザリアが最強だと認めている者のこと? 本当に居るの? そんなヤツが?」


「アルザリアさまは認めています。ただ、私は実際にこの目で見た訳ではありませんが。各地からの報告だけは受けていました」


「報告? ……ああ、いくつかの地に散っていた魔族がやられたってやつ? あれは別に大したことはないでしょ? 確かに、魔族を倒せるとなると一定以上の力は有していると思うけれど、最強……ピンと来ないわ。まあ、ヴァレードが共に居ると知った時は驚いたけれど、アレはそもそも私たちとは違う行動理論で動いているから、よくわからないのよね。気まぐれで行動していても不思議と思わないもの」


 ヴァレード(アレ)とは関わりたくないわね、と息を吐くリースト。

 セクレも同じ気持ちなのか、まったく同意見、と息を吐く。

 すると、両者の丁度真ん中にヴァレードが現れた。


「呼びましたか? 何やら私の話をしているような感じがしたのですが? いやあ、美しい女性二人に私のことを話題してもらえるとは、何やら嬉しいモノですね」


 現れたヴァレードは軽快な口調でそう口にするが、対するセクレとリーストは苦虫を嚙み潰したかのような表情を浮かべる。


「おや? 言葉と表情が食い違っているように見えますが、気のせいですか? 気のせいですね。そういうことにしましょう。でなければ、私の心は平穏を保てそうにありません」


「……別に荒れてもいいと思いますが? いえ、寧ろ、あなたの心が荒れたのなら、どことなくスッとします」


「セクレに同意」


「おやおや、辛辣ですね」


「貴様の日頃の行いの結果です」


「知っているかしら? 自業自得って言葉?」


「なるほど。誉め言葉として受け取っておきます」


「「誉め言葉ではないから」」


 セクレとリーストは辟易とする。

 しかし、このまま放置するにしては、余りにも存在感があり過ぎるし、何よりタイミングがいいのは間違いない。


「それより、どうしてあなたがここに現れるのですか? 確か、エトラス王国の東部での戦いを任されていたと思いますが?」


「ああ、それはもう終わりました。といっても、戦いが終わった訳ではなく、私が手を貸す必要がなくなった、という意味です」


「それは――そうでしょうね」


 セクレは何かを言おうとしてやめた。

 ヴァレードならそれくらいのことは簡単にやってのけるだろう、と思ったからである。

 リーストも同意見なので何も言わない。

 ヴァレードは、セクレとリーストの態度に対して特に気にした素振りもなく、口を開く。


「それで、私がここに来た目的は情報収集です」


 情報収集? と聞こえて、セクレはピンと来る。

 そうだ。ヴァレードに頼めば、そのままニトへと繋がるので、転移魔法が使えるまで回復するのを待つ必要はなくなる、と。

 そうして伝えようとして口を開いたところで、閉じる。

 ヴァレードの話が終わっておらず、何よりその内容が衝撃的だったからである。


「何やら妙なことになっていまして、以前よりも力を増したグラートの中にアルザリアさまが居る――取り込まれているのでは? と考えた訳ですが、これで正解でしょうか? あなたたちのどちらかなら、私の推測が正解かどうか判断でき、ついでにどういう状況であるのか説明できると思ってここに来たのですが、いかがでしょう?」


「「………………」」


 セクレとリーストは言葉に詰まる。

 もちろん、正解だ。正解であるからこそ、詰まるのだ。

 どうしてこう、ヴァレードは情報を与える前に正解に辿り着くのか……また、それをなんでもないように口にするのか。

 これだからヴァレードの相手をするのは嫌なのだ、とセクレとリーストは思う。

 ヴァレードは、そんなセクレとリーストの反応を見て、推測は正解であると確信して一つ頷く。

 実際はそれどころではない、とセクレがまず我に戻る。


「少し待ってください! つまり、グラートはあなたの前に――エトラス王国の東部に現れたのですか?」


「いいえ、違います」


 ニッコリ、と笑みを浮かべて否定するヴァレード。

 セクレのこめかみに青筋が浮かぶ。

 もし、疲労していなければ、間違いなく襲いかかっていただろう。


「その様子ですと、本当に知らないようですね。私がグラートを見たのは、東部での戦いは大丈夫だろうと判断して、ニトさまの下――エトラス王国の南部に転移した時です。そこで既にニトさまが相対していました。それで妙な状況になっていると知り、こうして情報収集に来たのです」


「つまり、アルザリアさまは無事、ということですね!」


「取り込まれている状況を無事というのであれば、無事と言っていいでしょう」


 ホッと安堵するセクレだが、次の瞬間には疑問が浮かぶ。


「ですが、ニトが相対していたのですよね? ならば、どうして無事だったのですか? 今のグラートはそれほどまでに強くなって」


「いえ、グラートが無事だったのは、ニトさまが相手をしつつも一切手出しをしていなかったからです。何も知らずに、本能的に察していたようですよ。手を出してはいけない、と。おそらく、その本能的に攻撃してはいけないという部分が強く出過ぎていて、今はまだ気付いていないのでしょう」


 ヴァレードの言葉に、本能で察するって……と、セクレはなんとも言えない表情を浮かべた。

 ただ、これは良いか悪いかで言えば、良い状況である。

 ヴァレードなら転移でその場に戻れるし、伝えようとしていた情報を持って帰ることもできるのだ。

 セクレはリーストを見る。

 リーストもセクレを見ていた。

 同じ考えであると、リーストが口を開く。


「……グラートは――」


 アルザリアとグラートの間で実際にどのような戦いが行われたかはわからないが、今のグラートの状況、状態は説明できると口にする。


     ―――


 ヴァレードがリーストからの説明を手早く受ける。


「……なるほど。その手段を編み出すとは優秀ですね。しかし、それはそれでこの状況は困りましたね。どうしたものか……」


 困惑し、悩み始めるヴァレード。

 その姿を見て、セクレとリーストは少しだけ驚く。

 何しろ、ヴァレードはいつも飄々としている印象であり、何事もそのままの態度で乗り切りそう――実際にこれまでそのような態度であったため、困惑して悩む姿をこれまで見たことがないからだ。

 ただ、胸がスッとするというよりは、ヴァレードが見せたのは困惑であったため、戸惑いの方が強く出ていた。

 リーストは少し戸惑いつつも尋ねる。


「……何が困るというのかしら? 確かにアルザリアは取り込まれた。でも、それは完全に、ではない。何かを食べればそれを消化するのに時間が必要なように、グラートがアルザリアを完全に取り込むためには時間が必要よ。取り込んだモノによってその時間は違うけれど、少なくともアルザリアならそれなりに時間がかかるわ。それまでに吐き出させればいいだけよ。その手段はなんでもいいけれど、一番は吐き出したくなるような刺激を与えること。つまり、腹部への攻撃が効果的だわ」


「そうですね。確かにその通りですが、単純な戦闘能力という意味で、今のグラートは私を完全に上回っています。搦め手もいつまで通じるかわかりません。まあ、アルザリアさまを取り込んでいるのなら、それだけの力を有しているのも納得ですが。ただ、そうなると私だけでどうにかできるかどうかわからない、といった状況なので悩んでいるのです」


「悩む必要あるのかしら? あなたが駄目でも、アルザリアが最強と認めている者なら……そうか。そういうことね。アルザリアが取り込まれていることで手を出せないのがそいつなのね……どうすればいいのよ。戦える者が居ないとなると」


 セクレとリーストの間に沈黙が訪れる。

 ただ、ヴァレードは特に気にした素振りを見せなかった。


「まあ、これで詳細はハッキリしましたし、ニトさまに伝えても暴走するということはないでしょう。それに、伝えれば助け出すためという名目の下、手が出せるようになるかもしれませんし、まずはお伝えしに行きましょうか。ね?」


「「ね?」」


 なんで自分たちに問いかけを? とセクレとリーストが不思議に思った瞬間、ヴァレードがセクレとリーストと共に転移する。

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